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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十二章 武士道、騎士道
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第592話


 魔術師協会、夕刻。


「おほっほっほ、うへへへ」


 変な笑い声を上げながら、クレールが帰って来て、居間に上がる。


「マぁツ様ぁー」


 くす、とマツが笑う。


「うへ、うぇへへへへ」


 これにはマサヒデもカオルも呆れ笑いを浮かべてしまった。

 人はここまで変わるものか。


「やりましたねえー」


「はい」


 ぱ! と立ち上がって、どたどた廊下を走り、部屋から紙の束を持ってくる。


「さあ! マツ様! 今後の事業プランを考えましょう!

 まずは採掘からですよ!」


 ごとん、と紙の束の上に、先程の忍が持ってきた赤鉄の鉱石を置く。


「うふ、うふふふ。この大きさで・・・金貨でいくらになりますかねえ!

 100枚? 200枚? いや安すぎる! 300枚!? 400枚!?

 いぇはははは! 安すぎますね! もっともっと!」


「お、おおっ・・・」


 カオルがふるふると震える手を石に伸ばす。

 ぶん! とクレールが顔を向け、


「きぇーい!」


 びく! とカオルが手を止める。


「はっ!」


「触れるでない!」


「は! ははーっ!」


 がば! とカオルが跳び下がり、頭を下げる。


「んむふふふ・・・冗談です! さあ、お好きなだけ触りなさい!

 金銀宝石よりも高い鉄! さあ! その手に!」


「ありがたき幸せ!」


 カオルがゆっくりと手を伸ばし、赤い石を取る。


「おお・・・なんと、なんと・・・」


 マサヒデとシズクは驚いた顔で、


「ええ!? これで金貨400枚!? そんなにするんですか!?」


「まじで!」


「そうですとも! 精錬せずともそれだけするんですよ!

 鉄が多く含まれているなら、もっともっと!」


「へえー! そんなに高かったんだ!」


 カオルが目を丸くしながら、両手で石をすりすりと撫でる。


「ふふふ・・・カオルさん、その手についた、細かな赤い粉・・・

 それでおいくらになるのでしょう」


「はっ!」


 ぱっと片手を離すと、手に石の表面に着いた赤い砂が。


「はっ、はっ、はっ・・・」


 カオルの息が止まりそうだ。

 ひょいとシズクが鉱石をつまんで取り上げる。


「ちょっと!?」


「あ、ほんとだ。重い。うんうん、鉄だなって感じする」


「へえ。持たせて下さいよ」


「ほい」


 マサヒデの手にシズクがひょいと乗せる。


「お。確かにずっしりきますね。こんな大きさで、そんなにするんですね」


「そうですとも!」


「へえ・・・」


 ほい、ほい、とマサヒデが手を上げ下げする。


「この石から、どのくらい鉄が出来るんでしょう?」


「最高品質の物で5割。3割もあれば、先ほどの値で売れますよ」


「最高品質でも、半分になってしまうんですか」


 くっと持ち上げて、首を左右に小さく傾ける。


「この石は、どんな力があるんでしょうね・・・」


 皆の目が、マサヒデの手の上の赤い石に注がれる。

 綺麗とは言えない、赤錆のような色。

 一見、錆びたくず鉄の塊だが、この鉄には魔力がこもっている。


「ふーん・・・マツさん、これもらって良いですかね?

 ラディさんの所に持って行って、少しだけ混ぜて、試してもらいますか」


「い!?」


 クレールが驚いて変な声を上げる。

 んん、とマサヒデが顔を向けて、


「そんなに驚かなくても良いじゃないですか。

 いくら少ないと言っても、これだけではないでしょう」


「そそそそれはそうですけど!?」


「じゃ、これで色々と試してもらいましょうか。

 溶かして鉄にしないといけないだろうから、時間は掛かりそうですけど。

 ふふ、どんなのになりますかね?」


 マサヒデがマツを見ると、マツがにっこり笑って、


「うふふ。楽しみですね」


「まずは扇の骨、作ってもらいますか。

 使いづらそうな変な力だったら、元の骨に戻せば良いし・・・」


 よいしょ、とマサヒデが立ち上がり、


「じゃあ、早速行ってきますよ。

 すぐに戻りますけど、夕餉は先に食べて下さい」


「行ってらっしゃいませ」


 マツが頭を下げると、マサヒデはごそっと懐に石を入れて、すたすたと出て行ってしまった。

 呆然とマサヒデを見つめていたクレールが、はっとして、


「はっ・・・ぎゃー! 金貨400枚があー!」


 シズクが呆れて、


「何騒いでるの。クレール様、たったの400枚じゃない。

 そのくらいの金、クレール様ならお小遣いくらいでしょ」


「はっ!」


「マツさんが良いって言ってるんだから、後々。

 それより、商売の事でも考えてなよ。

 カオル、飯作ってよ」


「・・・」


 カオルは顔を青くして、玄関の方を見つめている。

 ぽん、とシズクが肩に手を置くと、ば! とカオルが振り向く。


「ほら、カオル、飯作って。

 マサちゃんもすぐ戻ってくるよ」


「は、はい・・・そうですね・・・」



----------



 職人街、ホルニ工房。


「こんばんはー!」


 どんどん、と扉を叩き、しばらく待っていると、がらりと扉が開いた。


「マサヒデさん」


「ラディさん、遅くにすみません」


「何か、急ぎですか」


「はい」


 ごそっと懐から赤鉄の石を出す。


「これ見て下さい」


「鉄ですか?」


「はい。洞窟から見つかりました」


「う!?」


 ラディの手を取って、ぽんと乗せる。


「ほら、重いですよね。鉄ですよ、これ」


 だらだらとラディの顔から汗が吹き出る。

 これは魔力がこもった鉱石!?


「私には普通の石と区別がつかないんですけど、ラディさんは分かります?

 魔力がおかしいとか・・・」


 は! として、手に乗った石を良く見てみる。

 確かに、じんわりと、はっきりと魔力を感じる。


「かっ、かっ、感じます、魔力」


「ああ、良かった。ではですね」


 マサヒデが帯の鉄扇を抜いて、ラディの反対の手を取って乗せる。


「この鉄扇の、この親骨の所。親骨って分かります?

 両端の太い骨の所です」


「はい、はい、分かります」


「その鉄を使って、これ、作ってみてもらえます?」


「え、え」


「そのまま全部使うのではなく、普通の鉄に少し混ぜて作ってみて下さい。

 ほら、それで何か力が出るなら、貴重な鉄をあまり使わなくて済みます」


「はい、はい? ・・・はい」


「溶かしたりするのに時間かかると思いますし、出来たら教えて下さい。

 見積もりもお願いしますね」


「はい・・・」


「では、遅くにすみませんでした。おやすみなさい」


 マサヒデは呆然とするラディに頭を下げ、くるっと振り返って帰って行った。

 少しして、ラディが手の上の赤錆びた石を見つめる。

 ごくり、と喉が鳴る。

 この大きさで、一体いくらするのか!?


 ラディ、ラディ、と母が呼ぶ声が後ろから聞こえる。

 鉄扇を帯に差して、そーっと扉を閉め、ぺたん、とラディが尻もちをついた。


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