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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十二章 武士道、騎士道
587/762

第587話


 飲み会が終わり、夜の町を歩く。


 皆がほろ酔いで良い気分。

 マサヒデも良い気分。


「今日は皆さん格好良かったですー」


 にへ、とクレールが笑う。

 マツもにっこり笑って、


「ええ。シズクさん、カオルさん、ハワード様、マサヒデ様、ジロウ様。

 コヒョウエ様も、最後の巻藁を斬ったのは驚きました」


「武芸者っていうお話も良かったですね!」


「はい。深いものがありました」


 うんうん、とクレールが頷く。

 アルマダが笑って、


「武芸者と言うのは、別に芸者という意味ではないんですよ」


「ええ?」


「武芸者も武術家も同じ意味です。

 ですが、今の世では芸者と捉える方が理に適っていると私も思います。

 似たような言葉で違うのは、武道家です」


「どう違うんですか?」


「武道というのは、武を通じて精神、心を鍛える事。

 だから、道なんです。修行僧が荒行で心を鍛えるようなものですか」


「武術家にそういう所はないんですか?」


「武術家は、鍛えた技術で勝つ事が第一です。

 カゲミツ様の教えは、こうです。

 武道家を志すのなら、道は自分で作りなさい。

 その為の道具、つまり、道を作る為の武術ですね。それは教えます。

 と、これがトミヤス流です」


「なるほど!」


「だから、トミヤス流は武道ではなく武術だ、とカゲミツ様は言います。

 この考え方も、ひとつの武道だと私は思いますが・・・

 口にはされないだけで、他流派にはひどく嫌われている方も多いですよ。

 歴史も浅いですしね」


「へえ・・・」


「この辺り、忍の戦闘術に近い心構えがありますか。

 極端ですが、剣も構えず、毒殺、暗殺、なんて他の流派じゃ破門です。

 しかし、トミヤス流では良くやったと褒められます。勝てば正義なんです。

 まあ、奉行所には捕まってしまいますけどね」


「ええー!? そんな事まで!?」


「この姿勢ですから、嫌われるのも当然でしょう。

 しかし、私はこれこそ武人のあるべき姿だと思います。

 大体、殺されるような隙を見せる者が、武術家を名乗って良いですか?」


「でも、身体を鍛える為とか」


「論外です。それは武術家ではなく、趣味人です。

 鍛えるだけなら、その辺を走り、腕立て腹筋で出来ますよ。

 箔が欲しくて段位を取るだけの方も同じです」


「うーん・・・」


「しかし、勇者祭にぴったりの流派だと思いませんか?

 何をしても勝った方が正義。毒も暗殺も許される。どうです」


「ああっ! 確かに!」


「マサヒデさんもそう思いますよね」


 マサヒデがにっこり笑って、


「何をですか?」


(駄目だ。酔ってる)


 アルマダが呆れて、


「・・・いや、忘れて下さい」


「はい」


 にこにこしながら、マサヒデが歩く。

 クレールは笑って、


「マサヒデ様、今日は格好良かったですね!」


「ええ? 負けてたじゃないですか」


 マサヒデが苦笑いを浮かべる。

 その顔を見て、え? とマツとクレールが首を傾げる。


「負けたんですか?」


「そうですよ。見てなかったんですか?」


「見てましたけど・・・」


 はて、とマツとクレールが顔を合わせる。

 アルマダが小さく笑って、


「ご説明しましょう。カオルさん、ここに」


「は」


 カオルがアルマダの横に並ぶ。


「ジロウさんとの立ち会いの最後、マサヒデさんはこう斬りましたよね」


 アルマダがカオルの腕の下から、肩甲骨の方に手刀を回す。


「はい。それで、ジロウ様がばったりと」


「真剣だったら、この腕は落ちていましたが、木刀みたいに倒れません。

 さて、腕はもう1本ありますね。

 で、マサヒデさんは、ジロウさんの前で背を向けてしゃがみ込んでいた」


「では、背中から・・・」


「ええ。刺されてあの世行きです。

 ジロウさんは、近くに治癒師がいたら何とか助かるかもしれません。

 ということで、マサヒデさんの完敗ですね」


 こくん、とカオルが頷く。

 あの勝負は、そういうものだったのか。

 マツとクレールが顔を合わせる。

 ジロウが倒れたので、てっきりマサヒデの勝ちだと思っていた。


「しかし、色々と得るものがありましたよ。

 カオルさんのお陰で、今日は大収穫でした」


「お役に立てて幸いです」


「やはり、他派との交流稽古は学ぶものが多い。

 ふふ、次はイマイ様と立ち会ってみましょうか」


 くす、とカオルが笑う。

 マサヒデが笑い出す。


「ははは! 私はあの世行きでした!

 でも、盗めたから勝ちです! ははは!」


 ふ、とアルマダが笑う。


「やれやれ。今日はご機嫌ですね」


「そうですとも! アルマダさん! 2000回もすぐですよ!」


「ははは! そうですね!」


「クレールさんも!」


「私ですか?」


「あの小柄は凄い! 凄いですよ! 本当に凄かった!」


「ずっと褒めてくれますけど、そこまでですかね?」


 マサヒデが腕を組んで、


「ううむ、いやあれは凄い。クレールさん、拵えを頼みましたからね。

 拵えが済んだら、すぐに鑑定に出しますよ」


「本当に鑑定に?」


「そうですとも! アルマダさんもそうした方が良いと思いますよね!」


「ええ。間違いなく歴史に残る名作になります」


「昨日から言われてますけど、何だか実感がわかないと言うか・・・」


「ふふふ。鑑定から戻って来れば分かりますよ。

 必ず鑑定書がついて戻ってきます。

 ラディスラヴァ=ホルニコヴァ、クレール=フォン=レイシクラン合作。

 銘、住オリネオ、ラディスラヴァ作、小柄・・・

 なんて感じで、来年からの刀剣年鑑に載ります」


「私の名も、本当に載るんでしょうか?

 ぺたぺた土を塗っただけですけど」


「ホルニコヴァさんは合作で鑑定に出すと言っていましたから、載りますね。

 大体、あの土を置く所は非常に大事な作業なんですよ。

 刀の顔があの土置きで決まるんですから」


「そうなんですか?」


「ふふ、魔術師としてだけではなく、刀匠としても名を残すなんて。

 マサヒデさんは、本当に素晴らしい方を妻に選びました」


「えへ、えへへへへ・・・」



----------



 魔術師協会。


 マサヒデ達が居間で寝転ぶ。


「あらあら」


「奥方様、二日酔いにならぬよう、薬を持って参りましょう。

 ご主人様には、それから寝て頂いて」


「お願いします」


 カオルが静かに立ち上がり、薬と水を持ってくる。

 そっとマサヒデの横に座り、背に手を入れて起き上がらせ、


「さ、ご主人様」


「何ですか」


「お薬を。また二日酔いになります」


「ええ? ううん、飲みます」


 マサヒデが薬の包み紙を開けて、さらさらと口に入れる。

 カオルが湯呑を口の前に持っていき、


「さ、水を」


 薬の匂いに顔を歪めたマサヒデが、湯呑を取って水を流し込む。


「ぱはっ」


 そっとマサヒデを寝かせて、


「それでは、良い夢を」


「はい」


 かくん、と頭を落として、マサヒデが目を閉じる。

 少しして、すうすうと寝息を立て始めた。


 カオルが転がった大小を取って、刀架に掛ける。

 マツが奥から戻って来て、マサヒデとクレールの上に夏布団をそっと置く。

 こうして寝転ぶ姿は、やはり年相応だ。


 アルマダの言葉を思い出し、くす、とマツが小さく笑う。

 殺されるような隙を見せる者が、武術家を名乗って良いか。

 まだまだ、武術家未満なのだ。


 カオルと顔を合せて、小さく頷く。

 静かに立ち上がり、2人も部屋に戻って行った。


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