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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十一章 シュウサン道場、再び
580/760

第580話


 シュウサン道場。


 ジロウと、マツとクレールの魔術師稽古が終わった。

 これから剣の立ち会いが始まる。


「アルマダさん」


「ん? 最初は私に譲ってもらえるんですか?」


「いえ。シズクさんに譲ってもらえませんか」


 ぱ! とシズクがマサヒデの方を向いて、


「私!?」


 くす、とアルマダが笑って、


「病は治ったんですか?」


 ぷ、とカオルが吹き出し、釣られてマツとクレールもくすくす笑い出す。

 シズクがふん! と顔を横に向けて、


「もう! 治ったよ! でもいいの? 前も一番手だったけど」


「ふふふ。治ったのなら構いませんよ。譲りましょう」


「カオルもいいの?」


「構いません」


「シズクさん。忘れないで下さいよ。守り」


「当たり前じゃん! 磨くぞおー!」


 ふん! と気合を入れてシズクが立ち上がる。

 どすどすと歩いて行くシズクを見ながら、


「アルマダさん」


「ん? まだ何か」


「出来る限り守れと伝えてますから。

 色々見られると良いですね」


 マサヒデが口の端を小さく上げる。

 ふ、とアルマダも小さく笑う。


「ああ、なるほど」


「シズクさんには内緒ですよ」


「ええ。しかし、貴方も人が悪い」


「最近、よく言われます。策士って言って下さいよ」



----------



 木刀を右手に、ジロウが立つ。

 シズクが前に立ち、こき、こき、と肩を回す。


「よろしくお願いします」


「うん! よろしくお願いします!」


 すう、とジロウが正眼に構える。

 シズクもぴったりと中段に構える。

 しん、と道場の空気が張り詰める。


「良いかな」


 コヒョウエの静かな声。


「はい!」


「はい!」


「では、始め」


 ぴたりと剣先と棒の先を合せ、2人がしばし睨み合う。

 まだジロウの間合いの外。


「うーん」


 先回は、最後の最後で力が入って取られてしまった。

 だが、それまでは良かった。

 よし。ふ、と息を吐いて、力を抜く。


 しゅ。


 ひょい、とジロウが半身で躱す。


(おっとこれは危ない)


 マサヒデがシズクを見る。

 シズクも危険を感じたのか、棒を引きながらぱっと下がった。

 力を抜いた速い突きにも合わされそうだ。


 すさ、とジロウが前に出る。


 さてシズクはどうするか。

 目を細めてジロウを見ているが、あまり追い詰められている感じはしない。


 す、とシズクも前に出る。

 突っ張った感じではなく、冷静だ。


 しゅ。


 突きが出て、引きに合せ、ぱっとジロウが跳び込む。

 くる、と前足を軸に回る。

 ジロウの背中をシズクの棒が押す。


(そう)


 ジロウもこれで崩れる程ではない。

 押された勢いで、そのまま、ささーと出ていく。

 シズクは構え直さず、棒を横にしたままジロウの背中に迫っていく。


「ほう」


 とアルマダが顎に手を当てる。


 振り向きざまに、左から薙ぎ払い。

 棒を立てて、かん! と弾く。

 木刀をくぐるように、ジロウが身体を沈めながら横に回る。

 くぐって起きると木刀は右肩。

 袈裟斬り。


 ひょい、とシズクが上になった手を支点に、下の手を上げる。

 斜めに上がった棒が袈裟斬りを弾く。

 弾いて、身体を回す。


 くい、と棒でジロウの身体が横から押される。

 押されながら、ジロウが斬り上げてくる。

 ちょっと上体を傾けて躱す。


「見事だ」


 マサヒデが呟くと、アルマダも頷く。


 ジロウの斬り上げは躱されたが、崩れていない。

 押し回されながら斬り上げ、それを躱されたのに、崩れていない。

 崩れた! と手を出すと、切り返しの逆袈裟でばっさり斬られる。

 ぴた、とシズクが止まる。


 どちらも見事だ。


「・・・」「・・・」


 じー・・・とシズクとジロウが見合う。


 シズクがそのまま半歩下がる。

 す、と自然体で棒を横にする。

 ジロウはそのまま逆袈裟に構えている。

 半歩下がったが、まだジロウの間合いの内。


 ジロウがゆっくり正眼に落とす。


「む?」


 平正眼。

 右切先。


 小手狙いの誘いだ。

 小手を取りに行くと、開いて喉を突かれる。


(ふふふ)


 課題が上手く当たった。

 今日のシズクの課題は『守り』。

 ジロウの間合いの内では攻めるな。

 シズクは冷静だ。熱くなっていない。動かない。


 シズクが動かず、睨み合い。

 少しして、


「もっと打ってきてよ」


 立ち会いが始まって、初めてシズクがにやっと笑った。

 ジロウも笑った。

 誘いを読まれたと思ったのか、平正眼から正眼に。

 正眼から、すいっと上段に上げる。


「では!」


 すとん、と落とされるような振り下ろし。

 速い!


「う!」


 ぱ! とシズクが屈みながら棒を上に上げる。

 かあん! と凄い音が響いてジロウの木刀が弾かれた。


「おっ・・・」


 シズクが棒を押し出した所に振り下ろしたので、凄い力で弾かれ、ジロウが後ろによろける。


 ごとん、とシズクが膝を着く。

 押された訳ではなく、身を屈めたので膝を着いてしまっただけだが、危ない。


 は、と目を向ければ、後ろによろけるジロウ。

 ぱ! とシズクがジロウの眼の前に跳ぶ。

 今日は攻めない!

 守りを磨くのだ!


「く!」


 ジロウが体勢を戻しながら、背中まで弾かれた木刀を、すとんと振り下ろす。

 かあん!

 また弾かれる。


 上段から、すとんと右肩に木刀を落とす。

 袈裟斬り!

 シズクが棒を斜めにして、左肩の前に。


 ジロウはひょいっと左に傾く。


「はれっ?」


 横に傾いたジロウが、下から笑う。

 ジロウの木刀は、シズクの棒の下。

 先には、開いたシズクの右横腹。


「やっ」「ふん!」


 また、すとん、と落としたような振り。


「べえ・・・」


 からん、と棒を落とし、シズクが横腹を押さえて膝を着いた。


「そこまで」


 コヒョウエの声が響く。


「シズクさん!」


 と、マツが立ち上がったが、シズクは手を出して止め、棒を拾う。

 顔をしかめ、うう、と小さくうめき声を出しながら、ジロウの前に歩く。


「ありがとうございました・・・」


「ありがとうございました」


 礼をした後、またシズクが膝を着いた。

 えっちらおっちらと歩いて来て、


「マツさあん・・・いでえよー」


 と、どさっと胡座をかく。


「ああもう、無理をして」


 マツがシズクの腹に手を当てる。

 クレールも近寄ってきて、シズクの膝に手を乗せる。


 マサヒデ、アルマダ、カオルの3人は、治療されるシズクを見ながら、


「アルマダさん。カオルさん。最後、見ましたね」


「ええ」


「は」


「あんなに傾いて、すとんと落としただけ。

 それで、シズクさんにあれほど入った」


「似てますね。やはり無願想流に似ている。

 最後、真剣だったら、鬼族でなければ真っ二つですよ」


「やはり、でしたか」


 マサヒデとアルマダがちらりと目を合わせる。


「カオルさん」


「は」


 用意した小太刀、2本。


「良い演技を頼みますよ」


「お任せ下さい」


「策士ですね」


「今日は、盗んだ量が多い方が勝ち。

 どれだけ見取れるか、ですよね?」


 アルマダが小さく笑う。


「やれやれ。マサヒデさん、最初からそのつもりで」


「アルマダさんもでしょう」


「当然じゃないですか」


「ふふ。カオルさん、熱くならないように。

 シズクさんとの稽古を思い出して」


「は」


 ふうー、と息をつきながら、シズクが、どっすん、とカオルの横に座る。

 マツとクレールも続いて座る。

 カオルが2本の小太刀を持つ。


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