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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十一章 シュウサン道場、再び
577/762

第577話


 アブソルート流、シュウサン道場。


 マサヒデ達が玄関前に立つ。


「では、皆さん、参りますよ」


 返事も聞かず、がらっとマサヒデが玄関を開ける。


「失礼します!」


 どたどた走る音がして、すぐに稽古着のジロウが出て来た。

 ささ、と袴を捌いて座り、頭を下げ、


「本日はわざわざのお越し、ありがとうございます」


「こちらこそ、今日はよろしくお願いします」


 マサヒデ達も頭を下げる。

 ジロウが頭を上げ、マサヒデとカオルの得物をちらと見る。


「あ! いや、これは、お見せしようと持って来ただけです。

 先日はお見せ出来ませんでしたので! 失礼しました」


 マサヒデが慌てて言うと、ジロウがにこっと笑った。


「そうでしたか。いや、驚いてしまいました」


「申し訳ありません」


「いえ、噂の刀、お見せ頂けるとは、楽しみです。

 では、どうぞお上がり下さい。

 父上も朝からお待ちしております。

 ふふふ、もう待ち切れない、まだかまだかと」


「それは・・・いや、申し訳ない事をしました。さ、皆さん」


 ぞろぞろと皆が上がり、ジロウの後に付いて行く。

 道場に入ると、隅で門弟が頭を下げている。

 奥でコヒョウエがにっこり笑って、軽く頭を下げた。


「や、マサヒデ殿。本日はわざわざのお越し、ありがとうございます」


 ぱ、とマサヒデ達も座って、頭を下げる。


「よろしくお願い致します」


「して、此度は真剣勝負で?」


 コヒョウエの隣に座ったジロウが、


「父上、マサヒデ殿とカオル殿は、先日お見せ出来なかったと、わざわざ」


「おお、左様で。いや、これは早とちりしてしまい、申し訳ない」


 す、と雲切丸とヒロスケを鞘ごと抜いて、コヒョウエの前に歩いて行く。

 後ろでカオルも立ち上がり、脇差を抜く。

 コヒョウエの前で2人が座って、差し出す。


「これが雲切丸。コウアン作」


「ううむ・・・先日のパーティーでも驚きましたが、何と見事な拵え」


「この脇差は、ヒロスケ。贈り物に入っておりました」


「なんと! ヒロスケか!」


 ジロウも驚いた顔で、マサヒデの脇差を見る。

 カオルも膝を進め、脇差を置く。


「こちら、ヒロテルでございます」


「何、ヒロテル? まるでミカサ上工と言う、あのヒロテルですかな?」


「は」


「ううむ! これはまた、良い物を手に入れられましたな・・・

 これは今日だけでは見終われませんぞ。

 ははは! マサヒデ殿も、お人が悪い!」


「申し訳ございません。よろしければ置いて行きますが」


「む・・・」


 ん、ん、とコヒョウエが目をちらちらさせる。

 くす、とジロウが笑うと、んん! とコヒョウエが咳払いをして、


「あいや、そこまで! ちらと見せて頂ければ十分満足」


「そうですか?」


「はい」


 ちょっと照れたような、気不味そうな顔。

 マサヒデも笑いそうになったが、ぐっと堪える。


「それと、妻から土産がございます。よろしければ」


「おお、それはまた、お気を遣って頂いて」


 マサヒデが軽く頭を下げ、後ろを向いて、


「マツさん。クレールさん。お土産を」


「はい」「はい!」


 す、と2人が綺麗に立ち上がり、マサヒデの横に座って、箱を差し出す。

 マツが頭を下げ、


「サン落雁でございます」


 お! とコヒョウエが身を乗り出す。


「おお、サン落雁!」


 クレールが頭を下げ、


「私の実家で作っております、ワインでございます」


「おお、ワインと言えば、先日のパーティーでもそれは」


 ぴた、とコヒョウエの笑顔が固まる。

 箱に『レイシクラン』と書いてある。


「実家、と申されましたか」


「はい」


「箱にはレイシクランと書いてありますが」


「はい。私、旧姓フォン=レイシクランです」


 う! と、コヒョウエもジロウも固まってしまった。

 この娘は、魔の国1、2の大貴族、あのレイシクランの令嬢か!?

 フォン=レイシクランは、レイシクラン一族の本家ではないか!

 コヒョウエとジロウが固い顔を見合わせる。

 くす、と誰かが小さく笑った。


「左様で・・・や、これはありがたく・・・」


 すすすー・・・とコヒョウエがワインの箱を受け取る。

 後ろに置いて、懐紙を出して額にぽんぽん、と当て、懐に入れる。

 横でジロウも袖で額を拭っている。


「ふ、ははは、いや、マサヒデ殿は本当にお人が悪い。

 先日、お教え下されば・・・」


「失礼をお許し下さい」


 マサヒデが頭を下げ、クレールも頭を下げる。


「ああ、いやいや。勝手に驚いたのはこちら。そのような」


「ありがとうございます。

 失礼ついでに、ひとつお願いをしてもよろしいでしょうか」


「む。お聞かせ下さいますかな」


 マサヒデが頭を上げ、マツとクレールの方に軽く手を出し、


「此度は、ジロウ様とこの魔術師2人の立ち会いを願いたいのですが」


 コヒョウエがにっこり笑って頷き、


「おお! 聞いておりますぞ。いや、もう楽しみで楽しみで!」


「ありがとうございます。

 せっかくですので、この2人とは、庭での立ち会いを所望します。

 道場の心配もありますし、魔術師ですので、やはり広い所で、と」


 コヒョウエが笑顔のままジロウの方を向き、


「ジロウ。構わんな?」


「勿論です」


「む。ということですので、私は一向に構いません。

 いや、お二人の手並み、見せて頂けるだけで大満足!」


「ありがとうございます」「ありがとうございます!」


 マツとクレールが頭を下げる。

 コヒョウエが早く早くといった顔で、


「では、マサヒデ殿。時もありますし、早速・・・のう、ジロウ?」


「はい」


 マサヒデ達がにっこり笑う。


「では、一番手は・・・うん。マツさん、よろしいですか?」


「はい」


 マサヒデはジロウの方を向き、


「ジロウさん。マツさんもクレールさんも、純粋魔術師。

 最初の1手だけ、譲って頂いても良いでしょうか」


「勿論です」


 あら、とマツが顔を向け、


「マサヒデ様」


「ん? どうしました」


「私は1手なくても・・・」


「マツさん。生意気な口をきいてはいけません」


「大変、失礼致しました。お許し下さいませ」


 すー、と頭を下げるマツ。

 む、とコヒョウエとジロウが顔を引き締める。

 これは増長ではない。

 実力に裏打ちされた、絶対の自信。


「さ、マツさん、庭に」


「はい」


 すっとマツが立ち上がり、道場を出ていく。

 コヒョウエがマツの背中を見ながら、


「では、我々はそこの縁側で見ると致しましょうかな。

 さ、ジロウ。行け。マツ殿を待たせるな。

 本物の魔術師という者を見せて頂き、よく学べ」


「はい!」


 ば! とジロウが立ち上がり、道場を出ていく。

 マサヒデが後ろを向いて、


「皆さん、縁側に」


 ん、と皆が頷いて、縁側に歩いて座る。


「おい、コメタロウ」


 コヒョウエが道場の隅で顔を青くしている門弟に声を掛ける。


「は!」


「何をしておる。ほれ、せっかくマツ殿の魔術が見られるというに」


「は・・・はっ!」


 おどおどしながら、門弟が縁側に出る。

 ふ、とマサヒデが笑って、


「大丈夫ですから。稽古ですし、道場ごと吹き飛ぶなんて事はしません。

 私達もいるんですし」


「は!? 道場ごと!?」


「マツさんはそんな事はしません。出来ますけど」


 ぷ、とコヒョウエが笑って、ぱしん! と膝を叩き、


「ははは! やはりマサヒデ殿はお人が悪い!」


「ううむ、そうでしょうか?」


「そうですとも! のう、コメタロウ! ははは!」


「は、いいえ、はい」


「いいえか、はいか、はっきりせんか! ははは!」


 くすくすと皆も笑う。

 庭では、マツとジロウが向かい合っている。


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