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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十一章 シュウサン道場、再び
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第576話


 魔術師協会。


 昼餉を済ませ、マサヒデ、カオル、シズクが稽古着で縁側に座っている。

 ぼーっとしているようで、3人の背中からは火が上がりそうだ。


 マツがマサヒデの背中を見て、


「マサヒデ様」


「何か」


「ジロウ様の道場の場所、まだ聞いておりませんけど」


「あっ」


 マサヒデが振り向く。

 くすくすとマツとクレールが笑う。


「ええと、アルマダさんが居る、あのあばら家の方の街道ですね。

 あそこを、寺の方に向かって、ずーっと行きますと、神社の丘があります。

 その向こう側に、道場があります。

 周りは田んぼしかないので、分かりやすいと思います」


「はい。分かりました。

 それと、私とクレールさんは、最初に行きますか?

 皆様と立ち会った後では、ジロウ様もお疲れになりましょうし」


「そうですね・・・」


 マツとクレール。

 この2人を先に出すのは良いかもしれない。

 精神的にジロウの余裕を大きく削げる。

 にや、とマサヒデが笑う。


「うん、そうしましょうか。お二人に、先に出てもらいましょう。

 ふふふ。アルマダさんの時みたいに、驚かせて下さい」


 マツもにこにこ笑って、


「はい。承知しました」


 ん! とクレールが拳を握り、


「頑張ります!」


 と、気合を入れる。

 くす、とマツが笑って、


「クレールさん。私達は庭での立ち会いを願いましょうか」


「そうですね! うん、広い所の方が良いですね!」


 マサヒデも笑って、


「それが良い。思い切り度肝を抜いて下さい。

 お二人共、コヒョウエ先生も驚かせるつもりで頼みます。

 でも、クレールさんは霞になってはいけませんよ。

 魔術だけで立ち会って下さいね」


「はい!」


「アルマダさんとの立ち会いで、反省点はいくつもあった。

 今回はどうか、見せて下さい」


「んふふ。大丈夫です!」


「楽しみにしてますよ」



----------



 それから四半刻もせずに、アルマダが到着した。


 がらりと玄関が開き、


「失礼致します! ハワードです!」


「おっ」


 声に気合が入っている。

 立ち上がろうとしたマツを手で止めて、マサヒデが出て行く。

 右手に木剣を持ち、左手に畳んだ稽古着。


「上って、稽古着に着替えて下さい。

 ええと、居間には・・・そこ入って、台所ですけど。

 剣と服はこちらで預かります」


「はい」


 頷いて、アルマダが台所に入って行く。

 マサヒデは玄関から顔を出して『外出中』の札を掛ける。

 すぐに着替えたアルマダが出てくる。

 服と剣を受け取って、居間の隅に置く。


「では、庭に回って頂いて」


「お待たせしました」


 と、アルマダが皆に軽く頭を下げている。


「では、行きましょうか」


 皆がぞろぞろ縁側から庭に下りる。

 マツがサン落雁の箱を持って、にこにこしながら、


「シズクさんと、ハワード様は私と行きますよ。

 マサヒデ様とカオルさんは、クレールさんです」


 マサヒデ達が2人の横に並ぶ。


「お忘れ物はありませんでしょうか。

 今一度、ご確認を」


 忘れ物と言っても、木刀と左手に巻いた棒手裏剣しかない。

 稽古着には着替えている。


「マサヒデ様」


「何ですか」


「雲切丸と、あの脇差は良いのですか?」


「ああ。そうですね。お見せしますか」


 よ、と上がって、刀架から雲切丸と、ヒロスケの脇差を取る。

 おや? とアルマダが脇差を見る。


「あれ? マサヒデさん、その脇差は」


「贈り物に入ってたやつです。ヒロスケでした」


「ええ?」


「ほら」


 すらっと抜くと、派手な当欄乱。


「ちょっとちょっと!」


 にやっと笑って、すいっと納める。


「カオルさんにも良い物がありましたよ。ヒロテル。

 そうだ。カオルさんも持って行きましょう」


「は」


 すすーっとカオルが中に入って行き、短めの脇差を差してくる。

 抜いて、アルマダに見せる。

 輝くヒロテルの脇差。


「おお! 何と美しい! 本当に古刀の上工みたいじゃないですか!」


「二筋樋があるんですけど、細かい彫りよりは良いと思って」


「う、ううむ・・・」


 アルマダが唸って足を出しかけたが、す、とカオルが納め、


「ハワード様、先方をお待たせしては」


「む。ああ、そうでした・・・」


 と、肩を落とす。


「帰ったら、見せて下さいよ」


 ふふん、とマサヒデが笑って、


「これだけではないんですよ」


「まだあるんですか?」


「ええ。昨日出来ましてね。帰ったら、今日は祝の宴です。

 アルマダさんも来て下さいよ」


「昨日出来た? 注文ですか?」


「いえ。私もまだ見てないんですが、聞く限り・・・

 鑑定に出せば、重要は行きそうです。特重かも」


「なんですって?」


「見たかったら、宴に参加して下さい」


「勿論です」


「では・・・」


 ぐるりと皆の顔を見渡す。

 気合の入った、アルマダ、カオル、シズク。

 にこにこした、マツとクレール。

 この2人の違いには肩が落ちそうだ。


 すたすたとクレールの横に並ぶ。


「行きましょうか。マツさん、クレールさん」


「はい」「はい!」


 ぶわ、と皆の周りを風が巻く。

 ぎゅっと目を瞑る。

 ばたばたと稽古着の襟や袖が当たる。


「目を開けないようにー!」


 風の中から、マツの声。


「行きますよー!」


 ふわ、と身体が浮く。

 ぐぐぐー、と上に登っていく。

 ぼん! と音がして、横に飛び始めた。

 四半刻もせずに、シュウサン道場だ。



----------



 ぶわー! と砂煙を巻きながら、シュウサン道場の前に到着。


 ふう、と皆が息をつきながら、道着の乱れを直している。

 マツとクレールが、門に掛かった看板を見ている。


「さ、入りましょう」


「マサヒデ様」


 マツが声を掛ける。


「どうしました」


「ここですか?」


「そうですよ」


 マツとクレールが顔を見合わせる。

 考えている事は分かる。


「ふふ。小さいから不安なんでしょう。

 知られていないから、小さいだけです」


 う! と2人があからさまに慌てて、


「あ、いえ、そんな事は」


「そうです! 剣術の道場にしては、こう、侘びた雰囲気だなーって!」


 侘びた雰囲気。

 マサヒデとアルマダが苦笑する。


「お二人共、魔術師なんですから・・・

 もう少し、顔に出ないようには出来ませんか?」


「ううん・・・すみません」


「ごめんなさい・・・」


「さ、行きましょう」


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