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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十一章 シュウサン道場、再び
571/768

第571話


 ホルニ工房。


 今日は、マツとクレールの小柄作り。

 土置きが終わり、最後の焼入れだ。


「では少々お待ちを」


 ラディがふいごを、ぐー、ぐー、と押すと、風が送られ、火が強まる。

 炭を放り込み、もう一度、鞴を動かし、細い鉄棒の先に小さな板が着いたような物で、炭をかき混ぜ、もう一度。

 ぐんぐんと熱くなってくる。


「凄い熱!」「うへえ!」


 ラディが火の前に座って、じっと火を見る。

 頷いて、


「良いでしょう」


 やっとこをクレールに持たせて、後ろに回り、ぴったりくっつき一緒に掴む。


「クレール様。行きます」


「は、はい!」


 おどおどするクレールを押すように、火の前に歩いて行く。


「うわ! 熱いですよ!」


 クレールが顔を逸らす。


「大丈夫です。さあ、座って。入れましょう」


「はいっ!」


 2人で一緒に火に入れる。

 ぱちぱちと火花が跳ねる。

 しばらくして、クレールが堪らない、という顔で、


「まっ、まだですか?」


「んん・・・」


 一旦、火から出す。

 真っ赤になった鉄。


「まだですね。もっと黄色い感じになるまで」


「はいー・・・」


 じりじりじり・・・

 2人の顔は汗だくだ。

 もう一度出して、ラディが頷く。


「うん。もう良いでしょう」


 火から出して水に入れると、じわー! と凄い音がして、水蒸気がもうもうと上がり、水がぶくぶくと泡立つ。


「うわ! うわあ! 凄いですよ!? 大丈夫ですか!?」


「水煙を吸い込まないよう、気を付けて下さい」


「はい、はい!」


 ぷくぷく・・・ぷく、と泡が止まる。

 くい、くい、とやっとこを回し、水から出す。


「出来ました」


「おおー! 完成ですか!」


「はい。後は、この長い部分を切り落として、荒く研いで形を整えます。

 終わりましたら、イマイ様に研いでもらいましょう」


 クレールが手袋を取って、そー、と指を伸ばす。

 ラディが慌てて、


「お待ち下さい!」


「うぇ!?」


「赤くはないですが、まだ凄く熱いです。火傷します」


「ご、ごめんなさい・・・」


「いえ。では、これで焼入れ完了です。後はお任せ下さい」


 よいしょ、としゃがみこむようにして、ラディの腕を下をくぐり、


「お願いします!」


 ぺこ、とクレールが頭を下げる。

 む、とラディが頷いて、横の金床の上にそっと小柄を置き、


「では、師匠」


「はい!」


 ぐ、とマツが細い腕を上げる。

 ラディがやっとこを持って来て、マツに持たせ、後ろに回る。

 小柄の長い所を挟み、


「では、参りましょう」


「はい!」


 くっついて火に歩いて行く。

 すごい熱。


「ラディさん」


「はい」


「どうでも良い事なんですけど」


「なんでしょうか」


「胸、大きいですね」


「は?」


「すみません。緊張して、何か話していないと・・・」


「大丈夫です」


 ゆっくりと火の前に座る。

 うわ、とマツが顔を逸らす。


「では、入れましょう」


「は、はい」


 ぐ、と2人の手が延びて、火の中に小柄が入れられる。


「ああ、凄い! 熱いです! 火傷してしまいそう!」


「大丈夫です」


 ぱちぱちぱち、と炭が焼ける音。

 ラディが真剣な目で火を睨む。

 マツは顔を逸し、薄目を開けて火を見ている。


「目がおかしくなりそう・・・」


「この程度なら大丈夫です。ご安心下さい」


「はい・・・」


 んん、んん、とマツが唸り声を上げる。

 少しして、ラディが火から出す。


「そろそろですね。もうひと焼きしましょう」


「はい」


 ぐ、と火に入れ、くい、くい、とラディが少し動かす。

 取り出して、うん、と頷く。


「師匠、これは良く焼けました」


 水に突っ込む。じゃー! と凄い音。

 ぶくぶくと泡立ち、水蒸気がもうもうと上がる。


「吸い込まないよう、お気を付け下さい」


「はい」


 ぷく、ぷく、ぷく・・・

 泡が止まった。

 水から上げると、焼き立ての小柄から、まだほのかに水蒸気が上がる。


「これで、後は研いでもらうだけですね。

 まだ熱いのですね?」


「はい。お気を付け下さい」


 から、と金床の上に置き、2人で眺める。

 まだ表面は荒く、いかにも「鉄」という感じ。


「師匠の物は沸出来。クレール様の物は匂出来になりましょう」


「どのような違いでしょう」


「大雑把ですが、沸出来というものは、父の作のような物です。

 細かい粒がきらきら光る感じです。

 匂出来は、カオルさんのモトカネのような物です。

 粒が光る感じではなく、光り方が少し柔らかいような」


「なるほど」


「高い熱が強く加わると沸出来。熱が低いと匂出来です。

 クレール様の物は土も厚く、結構早く出したので、匂出来ですね」


「ありがとうございます」


「では、半刻ほど店の方でお待ち下さい」


「はい。よろしくお願いします」



----------



 ラディの母と豆大福を食べながら、ぺちゃくちゃ喋っていると、からっと仕事場の戸が開いた。


「あっ!」


「出来ましたか!?」


「はい。お待たせ致しました」


 紙に巻かれた研ぎ前の小柄が、2人の手に渡される。


「まだ日も高いです。今日中に出来上がりましょう」


 ばく、とクレールが豆大福を放り込み、ごくっと茶で流し込んで、


「マツ様! 早く行きましょう!」


「うふふ。はい」


 2人が立ち上がり、ラディに頭を下げる。


「ありがとうございました」


「ありがとうございましたー!」


 とたとたとクレールが走って出て行く。


「あらあら・・・うふふ。お母上も、お邪魔致しました」


「いえいえ! また来て下さいませ」


「それでは失礼致します」


 マツが綺麗に頭を下げて、出て行く。

 くす、とラディが小さく笑う。


「どうだった? 上手く出来た?」


「はい。クレール様の物は、面白くなりそうです」


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