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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十一章 シュウサン道場、再び
570/763

第570話


 ホルニ工房。


 マツががらりと玄関を開けると、


「いらっしゃいませー!」


 ラディの母の元気な声。


「こんにちは。ラディさんはおられますでしょうか」


「聞いておりますよ。仕事場の方で、今か今かって!」


「あら! そんなに」


「ええ。お二人の小柄を作るんだって、朝から浮かれちゃって」


 くす、とマツとクレールが笑って、顔を合わせる。

 マツが箱を差し出し、


「では、こちら豆大福です。お口に合えばよろしいのですが」


「まあまあ、これは気を遣わせてしまって」


「それでは、あまり待たせてはいけませんから」


「はい。楽しんで下さいませ」


 がら、と仕事場の戸を開くと、ぱ! とラディが立ち上がった。

 びし! と頭を下げる。


「こんにちは」「こんにちは!」


 すたすたと2人が歩いて行くと、準備は万端。

 机の上に、2着の皮のエプロン、綺麗な手拭い、細身のナイフのような物。

 ペーパーナイフ程、と言っていたが、1尺以上はある。

 ラディが頭を下げたまま、


「本日はわざわざのお運び、ありがとうございます」


「頭をお上げ下さい。私達も、楽しみにしていたんですよ」


「はい! 早く描かせて下さい!」


 くす、とマツが笑う。

 ラディが頭を上げ


「それでは、早速。こちらへ」


 と、小柄を持って歩いて行く。

 付いていくと、小さな柱のような物に、上に鉄の輪のような物。

 左右に机があり、白い粘土と灰色の粘土。

 ラディが柱の輪の所に、小柄の根本を入れて、


「この上に土を塗ります。土置きという作業工程になります」


「そのままですね」


「はい。では、どちらから」


「うふふ。クレールさん、どうぞ」


「良いんですか!?」


「はい」


「では私が!」


 ラディが小さく笑って、へらを渡す。


「まず、こちらを持って、動かないように。

 このように・・・」


 ラディが小柄の根本を左手で持ち、右手の人差し指を刃の上で横に滑らせ、


「こうして、白い土を全体に塗って下さい。

 ささっと薄く。言うなればキャンバスですね。

 描いていくのはこの後です」


「はい!」


 クレールがへらの先を土に入れる。


「あ」


 持っていこうとして、ぺちゃ、と落ちてしまった。


「溢しても構いませんよ」


「この土、意外と柔らかいですね。水っぽいです」


 ぴちゃりと土を乗せ、へらを横向きにして、先に向けて伸ばしていく。

 ちゃー、ちゃー、と金属音。


「ええー! 意外と難しい・・・」


 ぴちゃ、と土を足して、伸ばしていく。


「ん、んん・・・こんなものでしょうか?」


 ん、とラディが頷き、


「裏側もお願いします」


「はい」


 ひっくり返し、裏側にも塗る。


「この辺から・・・」


 綺麗に伸ばしていき、刃先まで白く土が置かれる。

 む、と横から見て、


「むーん・・・」


「よろしいかと。綺麗に塗れております」


「あ、そうですか!?」


「はい。では、本番に参りましょう」


「描くんですね!」


「はい。では、そちらのへらで、灰色の土の方を」


「はい!」


 ラディが刃の方を指差し、


「こちらが刃になります。

 灰色の土で線を描くと、それが刃紋になります。

 べったり塗らず、線を描くだけです」


「分かりました!」


 へらを持ってきて、


「この辺からで良いですかね・・・」


 ぴちゃ。丸く土が落ちる。


「ああーっ!」


 ぷ、とマツが口を押さえる。


「クレール様、大丈夫です。その土を横に伸ばせば」


「そ、そうですよね! よし、こうやって」


 ぷるぷると上下にへらを震わせながら、土を何とか横に伸ばしていく。


「かっ、描けないー! 何これ、どうやって描くんですか!?」


「うふ、うふふふ」


 後ろでマツが笑っている。

 でこぼこした線が横に揺れながら伸びていく。


「ああー! ラディさん、これ大変な事に! どうしましょう!?」


「良いと思います」


「良いんですか!?」


「はい」


「これ、どんな刃紋になるんでしょう!?」


「それが楽しみなのです。裏側は適当で良いですよ」


「適当?」


「小柄はこちら側しか研がないのです。

 裏側を塗る前に、次はこっち側に白い方をもう一度、厚く。

 灰色の土から、はみ出なければ良いので」


 クレールが白い土を取って、塗っていく。


「う、う・・・? ああーっ! はみ出っ・・・ない! なかった!」


 ぺたぺたとでこぼこ土を置いて、片側完成。

 ラディが輪に固定された小柄を抜いて、反対側向きに固定する。


「こちらは適当に」


「はい!」



----------



 つつつ・・・


 マツが綺麗に灰色の土を伸ばしていく。


「中々、綺麗に真っ直ぐには描けませんね」


(嫌味だ!)


 むっとしながら、クレールがきりきりとマツの土置きを見つめる。

 さ、さ、さ、と筆で描くように、灰色の土を伸ばして置いてしまう。


「うん、こんな感じでしょうか・・・」


 白い土を取って、棟側に、厚く均一に塗っていく。

 ラディも目を丸くして見ている。


「裏側は適当で良いのですね」


「はい」


 灰色の土を取り、すすす、すすす、と綺麗に伸ばし、白い土を置いて、


「出来ました」


「ううむ・・・流石は師匠です。お見事な手際でした。

 次は焼入れですが、やってみますか? 熱い作業ですが。

 私が焼いても良いですが、ここで大きく刃紋が変わります」


 ぱ! とクレールが手を挙げ、


「私やります!」


「では、私も」


 ん、とラディが頷いて、


「ではこちらへ」


 机の上に戻り、


「汚くて申し訳ありませんが、このエプロンと手袋を着けて下さい。

 火が飛びますから、服が焼けてしまうかもしれませんので」


「はい」「はい!」


 よいしょ、とエプロンを取って、着る。

 マツは袖をたくし上げて、ささ、と紐を口に咥えて縛り上げる。

 エプロンは足首まで長さがある、長い物だ。


「では、こちらの手拭いを頭に。

 髪が焼けたら大変ですので、なるべく中に入れて頂いて。

 師匠はまとめて背中に回して、襟の中に入れて下さっても良いと思います」


「はい」「はい!」


 頭に手拭いを被って、準備完了。


「では」


 ラディが3尺はあろう長さの、挟む所が円形のやっとこを持ってきて、


「これで挟みまして、火に入れます。

 赤くなるまで焼いたら、完成です」


「これは、随分と大きな」


「へえー・・・」


「熱いですから、長めでないと火傷してしまいますので。

 重いので、私が後ろから一緒に押さえます」


 3人がてくてくと炉の前に歩いて行く。

 もう火が入っており、近付くとだんだん熱くなってくる。


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