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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十一章 シュウサン道場、再び
569/764

第569話


 明早朝。


 庭での隅で、マサヒデとカオルが向き合う。

 明日のジロウとの立ち会いに向けて。


「昨日の時点で、ほとんど出来上がりましたが」


 ぽん、と木刀を手に乗せる。


「少し、余裕を入れますか」


「余裕ですか」


「シズクさんが持ちこたえられず、あまり見られなかった時の手です。

 これは賭けに近くなりますが・・・

 どちらにしろ、最初の一太刀で決まるかもしれない事は、変わりない」


「・・・」


「シズクさんが持ちこたえられ、良く見られたら、予定通り9割8分。

 見られなかった場合、9割から、少しずつ上げましょう」


「ううん、9割ですか・・・仰る通り、最初の一太刀で決まりそうですが」


「ジロウさんも、見たいと思うはず。まあ大丈夫だと思います。

 あくまで、シズクさんがあっさり決まってしまった時です。

 それと、もうひとつ懸念があります」


「お聞かせ下さい」


「二刀で出て行くのは、我ながら良い手だと思いました。

 ですが、私がジロウさんならどうするか、と考えると・・・

 いきなり小太刀を狙って落とすかも」


「む」


「落とされると、得物はナイフと手裏剣だけ。

 長引かせるのは難しそうです」


「はい」


 ぽん・・・ぽん・・・

 マサヒデが木刀を手の上に上げて落とし、上げて落とし・・・

 にやっと笑う。


「ということで、小太刀を2本持っていきますか」


「は?」


「この策、中々良くないですか?

 普通に斬るなら、カオルさんは片手でも斬れるんですから。

 ジロウさんだって、カオルさんがニ刀使いだって知ってるんです」


「ええ。しかし、片手では無願想流は」


「見せるだけ、見せるだけ。

 ジロウさん、小太刀を2本持ったカオルさんを見て、どう思いますかね。

 以前は小太刀とナイフだったが、小太刀で二刀が出来るようになったか!

 いやあ、これは驚くでしょうね。

 小太刀二刀なんて、中々居ませんよ」


「ふっ、あはは!」


「もし1本落とされたら、しまったあ! って顔して下さいよ。

 1本でいけるのか!? 二刀じゃなくていけるのか!?

 そういう顔で焦って下さいね。忍の演技の見せ所です」


「くくく・・・ご主人様は忍に向いてらっしゃいますね」


「ふふふ、そうですか?」


「ええ。そうですとも」


「ま、これも兵法のうちですよ。

 普段は正直が一番ですが、こと戦となれば正直者ほど負けるってもんです。

 トミヤス流は、どんな手を使っても勝った方が正義です」


「ふふふ」


 マサヒデが庭の真ん中で待っているシズクを見て、


「シズクさんで試してみましょうか?

 どんな反応しますかね」


「分かりました」


「私が見てますから、普通に1本でやって下さい。適当にやめって合図します。

 本当は小太刀ニ刀を出来ない、ってシズクさんにバレるといけません。

 シズクさんの顔に出ますからね。バレると全部無駄になりますし」


「はい」


 にやにやしながらカオルが中に入って行き、もう1本小太刀を持ってくる。

 すたすたとマサヒデが歩いて行く。

 シズクが顔をしかめて、


「やっとかあー! 打ち合わせ長いよ!」


「ええ。ちょっとカオルさんに良い考えが浮かびましてね。

 出来そうなので・・・まあ、見てもらえますか」


 ん、と戻って来たカオルにシズクが顔を向ける。


「あ! お前!」


 両手に小太刀を持ったカオル。

 これにはシズクも驚いた。


「まあ、こういう事です。元々、カオルさんは短ければニ刀も使えますよ。

 無願想流で小太刀ニ刀。どうですこれ」


「まじかよ。でも、斬れるのか?」


 ふ、とカオルが笑い、


「普通なら難しいですが、私には無願想流がありますから」


「おいおい! 出来ちゃうのかよ!」


「サマノスケは偉大ですね」


「まじで」


 中々良い反応だ。

 マサヒデがにやりと笑う。


「シズクさんは、今日も受けに回って下さい。

 カオルさん、まずはニ刀は使わずに、シズクさんの守りを崩して下さい。

 まあ、崩しきれずとも、私が見て良いと思ったら止めますから」


「は」


 す、とカオルが頭を下げ、シズクが構える。



----------



 午後。


 マサヒデ達は、また帰ってすぐ、倒れ込むように寝込んでしまった。

 ぐっすりと寝込む3人を見て、マツとクレールが笑顔を合わせる。


「行きましょうか」


「はい」


 マツが懐紙にさらっと『ホルニ工房に行きます』と書いて置く。

 静かに立ち上がって、そっと玄関を開け『外出中』の札を掛ける。

 ホルニ工房で、これから小柄を作るのだ。

 世界でひとつの、一点物!


「楽しみですね!」


「はい!」


 どんな模様にしようか?

 面白く波打った物が良いのか。

 真っ直ぐの方が難しいという話だが、そういう方が良いだろうか。

 マサヒデは派手な物を嫌うから、やっぱり真っ直ぐ?

 でも、見た目は波打った方が面白い気もする・・・


「マツ様はどんなのを描くんですか?」


「ううん・・・とりあえず、真っ直ぐに描いてみますけど」


「やっぱり。マサヒデ様は、派手な物は好まれませんからね」


「でも、それは拵えだけですよ。

 刃の方は派手でも良いと思います」


「そうでしょうか?」


「ほら、マサヒデ様の、もうひとつの脇差」


「ああー! あれは派手ですもんね! 大きく波打って!」


 当欄乱れ刃の、1尺8寸ヒロスケ。

 パーティーの時に、贈り物でもらった物だ。

 樋に届くほどの大きな波の刃紋が入っている。


「ね? それに、描いた通りには中々出ないって」


「あ、そうでしたね! 焼き上がりと、実際に研いでみると違うとか」


「楽しみですよね。イマイ様も驚くような物が描けると良いのですが」


 クレールが小首を傾げ、


「刃の上に泥のような物を乗せると言ってましたけど、雑な油絵みたいな感じでしょうか?」


「さあ・・・想像もつきませんけど、やっぱり職人さんの手掛ける物ですし」


「凄く細かい作業なんでしょうか?」


「ううん・・・どうなんでしょうね?

 そこまでではないと思いますよ。

 私達でも出来ると言うのですから」


「面白い物が出来るかどうかですね!

 研ぎ上がるのが楽しみです!」


「きっと、簡単には出来るけど、こだわり始めると・・・みたいな・・・

 そんな感じでしょうね」


「ああ! 何か職人っぽい! きっとそういう感じでしょうね!」


「うふふ。では、お土産を買って行きましょう。

 今日は豆大福などいかがでしょう」


「豆大福! 良いですね!」


「イマイ様へのお土産は何にしましょうか・・・

 昨日は羊羹でしたけど、また甘い物で良いでしょうか」


 ううん、と2人が腕を組む。


「あ! そうだ! 雰囲気を変えましょう!

 同じ甘い物でも、今日はケーキなど」


「良いですね! では、お菓子屋さんに行きましょう!」


「はい!」


 どんな小柄が出来るだろう・・・

 うきうきと2人が歩いて行く。


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