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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十一章 シュウサン道場、再び
566/762

第566話


 職人街、イマイ研店前。


「ありがとうございました! また来て下さいね!」


「お邪魔致しました」


「ありがとうございました!」


 イマイの笑顔に見送られ、マツとクレールが歩き出す。

 マツは初めてイマイの研ぎ仕事を見て、少し足元がふわふわしている。


「マツ様、どうでした?」


「凄かったですね・・・あの緊張感、恐ろしい程に・・・

 クレールさんの仰った通りでした。

 座っているだけで、精神の鍛錬になりますね」


「マサヒデ様もカオルさんも、あんな雰囲気の部屋で刀を見せてもらって、喜んで平気で見てるんです! 信じられませんよね!」


「あ! そうでした! お二人共、どういう神経なんでしょう!?」


「きっと、図太いんですよ! それか、空気を読めないとか!」


「確かに! マサヒデ様、そういう所ありますよね! クレールさんは知らないでしょうけど、マサヒデ様が魔術師協会に来たばかりの時なんて、凄かったんです!」


「どんなだったんですか?」


「ここで休んで下さいね、って言ったら、私の目の前で、こうやって刀を抱いたまま寝てたんですよ! それで、武術家としては当然と言い放つんです! ハワード様もなんですよ!」


「ええー! 人様の家で、それはちょっと・・・

 貴方の家では安心出来ません、って言ってるようなものでは・・・」


「そう思われますよね! あれはきっとシズクさんもびっくりですよ!」


「あ! ラディさんも、イマイ様の所で見てますよね!」


 ん、とマツが黙って、


「・・・ラディさんは、平気では・・・」


「あ、そうですよね・・・」


 刀を見る時のラディの雰囲気は尋常ではない。

 イマイに負けるものではない。


「あっ」


 喋りながら歩いていると、ホルニ工房の近く。

 がらりと扉が開いて、ラディが出て来た。

 噂をすれば何とやら。


 マツとクレールが黙り込んで顔を合わせると、ラディがこちらを見ている。


「さすがに聞こえてないですよね」


「これだけ離れていれば大丈夫です。聞こえませんよ。

 マツ様みたいに、何処でも見聞きする魔術も出来ないですし」


 小声で言って、ラディに頭を下げると、ラディも頭を下げた。

 そのまま歩いて行って、


「こんにちは」


「お疲れ様です!」


 と、声を掛けると、ラディも頭を下げ、


「お疲れ様です。師匠達は、今日は」


 マツがにっこり笑って、


「イマイ様の所に、お邪魔して来ました。

 研ぎ仕事を見学させて頂いて、素晴らしい体験でしたよ」


 は! とラディが目を見開く。

 カオルに続き、また刀好きの仲間が出来る!?

 しかも師と仰ぐ者の2人!


 クレールがラディの背中に背負った剣の束を見て、


「ラディさんは、お届け物ですか?」


「はい。注文を届けに」


「そんなに? 重くないですか?」


「歩いてすぐの所です」


「大変ですねえ」


「仕事ですから・・・」


 あ、とラディが思い付く。

 後で父から少し鋼をもらおう。

 無ければ買えば良い。


 この2人の仲間未満を離してはいけない。

 これは好機かもしれない!


「師匠達は、刀に興味が?」


「ええ。見るだけですけれど」


「私も見るだけですが」


 未満から仲間にしたい!

 逃してはいけない!


「よろしければですが、小柄を作ってみませんか?」


「こづか?」


 クレールが首を傾げる。


「小さな刀です。ペーパーナイフのような。

 3、4寸程の」


「え、刀ですか? おいくらですか?」


「父から余った鋼をもらいました」


 と、いう事にしておこう。


「私が練習で作るので、出来たら差し上げます。

 一緒に作りませんか」


「ええっ! タダですか!?」


「ペーパーナイフ程度ですし」


 マツが笑って、


「クレールさん。ハンマーなんか振れないでしょう?」


「あ・・・そうですね・・・」


 がっくりとクレールが肩を落とす。


「あ、打つのは私が。

 師匠達には、刃紋を描いて欲しいのです」


 え? と2人が顔を向けて、


「描く? 刃紋と言いますと、あの斬れる所の白い模様?」


「はい」


「どうやって描くんですか?」


 よいしょ、とラディが背中の剣を下ろして、1本抜き、剣を横向きにして、すーっと指を滑らせながら、


「ここの、刃の上に泥のような物を乗せます。

 そして、火に入れて焼入れすると、刃紋が出来るのです。

 最後の仕上げですね」


「へえー!」


「そうだったんですね」


「火に入れている時間でも変わってくるので、面白いかと。

 描いた通りには中々出ないのですが、逆に凄い物が出来たりします」


 ラディが剣を納めて2人の顔を見ると、興味が出て来たようだ。


「どうでしょうか」


「やります!」


「面白そうですね。私も」


「では、明日、こちらに来て頂けますでしょうか。

 昼前には打ち上げておきます。

 すぐイマイさんに研いでもらえば、明日中に完成します」


「うわあ! 楽しみです!」


「本当。どんな模様が出来るんでしょう」


 ラディがにっこり笑い、


「これが面白いもので、研いでみないと分からないのです。

 実際に焼入れが終わった後と、研いだ後は全く違う事もあります。

 同じに描いて焼いたはずなのに、研いでみたら違っているのもしょっちゅう。

 師匠とクレール様の、世界にひとつの一点物が出来るのです」


「世界にひとつ!」「一点物!」


 食いついた。

 やはり、金持ちのこの2人はこの言葉に弱い。

 安い剣でも、職人の手作り。

 この職人街のほぼ全てが一点物なのだが・・・


 ラディが心の中でほくそ笑む。

 イマイの研ぎを見学するくらいなら、この2人は既に片足を突っ込んでいる。

 これを機に、刀の世界の沼に完全に引きずり込んでやるのだ。


「それでは、明日、お待ちしております」


 がちゃ、とラディ背中の剣を鳴らし、頭を下げて歩いて行った。

 マツとクレールは顔を合わせ、


「楽しみですね! きっと、マサヒデ様を唸らせてみせます!」


「はい! 私もですよ!」


 世界にひとつの、私だけの一点物!

 2人の心が高鳴る。


「うふふ。どっちがマサヒデ様を驚かせるか、勝負ですね」


「譲りませんよ!」


「では、夕餉のムニエルの魚を買いに行きましょう。

 魚はどれにしましょうか。ううん、舌平目は市場にあるでしょうか・・・」


「あ! ムニエル勝負もありましたね!」


「うふふ。そうですよ。でも、魚は同じ物にしませんと、勝負になりません」


「鮭にしましょう!」


「鮭は朝餉と同じになってしまいます。別の魚にしましょう。

 クレールさん、ニジマスなど如何でしょう?」


「え? 川魚でムニエルですか?」


「普通に美味しく出来るんですよ。

 ムニエルって、白身の海の魚って思われがちですけど」


「ええー! それは知りませんでした・・・」


「あら! 食のレイシクランが知らない事を、私は知っていたのですか!」


「む、むむ・・・」


 くす、とマツが笑って、


「うふふ。まずは味を試してみなければ、でしょう。

 クレールさんの舌に適えば、取り入れてみては?

 焼き方は同じですもの」


「同じで出来てしまうんですか?」


「そうですよ」


「ううん・・・」


「鮭だって、川魚ではありませんか。海にも行きますけど」


「あー! そう言われれば、そうですよね!」


「では、市場に参りましょう」


「はい!」


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