表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭  作者: 牧野三河
第四十一章 シュウサン道場、再び
558/780

第558話


 シュウサン道場前。


(うむ)


 懐の中の手紙を確認。よし。

 黒影から降りて、門を開ける。

 道場の中に人の気配。


 玄関の前に立ち、軽く埃を払って、がらりと開ける。


「失礼!」


 少し待つと、門弟が出て来た。

 確か、コメタロウと言ったか。

 門弟が正座して、


「こんにちは。シュウサン道場に、如何なご用件でしょうか」


「私、マサヒデ=トミヤス様の内弟子のカオル=サダマキです。

 ジロウ=シュウサン様に、マサヒデ様よりお手紙を預かって参りました」


 マサヒデの名を聞いて、あ! と門弟が顔を変える。


「トミヤス様のお弟子様で! これは失礼を!」


「いえ、弟子にさせて頂きましたのは最近ですから。手紙はこちらです」


 懐から手紙を出して、門弟に渡す。


「お返事は必要でしょうか」


「3日後、お約束の稽古に参りますが、此度はコヒョウエ先生もご覧になりたいと聞いております。ご都合が良いかどうか、分かりますでしょうか」


「大先生は、今こちらには居られませんが、大丈夫だと思います。

 ジロウ先生にお伝えして参りますので、しばしお待ち頂けますでしょうか」


「は」


 カオルが頭を下げると、門弟が入って行く。

 すぐにジロウがばたばたと出て来て、カオルの前に座った。

 ん? と一瞬顔を変え、


「お待たせしました。あなたは確か・・・そう、先日のパーティーで」


「は」


 カオルが、ちら、ちら、とジロウの後ろを見て、小さく笑い、


「二刀の忍と言えば、お分かりになりますでしょうか」


 にこ、とジロウが笑い、


「ああ、何か似た感じがすると思いました。

 そうですか、姿を変えたのですね」


「今はこの姿で、マサヒデ様の内弟子という形です」


 ジロウには話しても構わないだろう。

 『似た感じ』と言われた。

 どうせ、すぐに看破される。


「なるほど。内弟子とは考えましたね。凛々しいお姿になられました」


「ありがとうございます」


「3日後ですね。父上には伝えておきます」


「お世話をかけます。ひとつ、ご質問というか、確認したい事があります」


「私に分かることでしたら」


「私も、マサヒデ様も、まだ2000回振れません。

 なんとか、50回に数回です。

 それでも顔を出して宜しいでしょうか」


「え」


 ジロウが少し驚いて、


「もう、振れますか? 50回に、何度か?

 まだ、何日も経っていませんが」


「はい。何とか掴めてきた、という所です」


「もうですか?」


「私もマサヒデ様も、無願想流をかじっております。

 感覚的に近い所がありますので、何とか」


「ううむ、そうですか。近いものが・・・なるほど、そうでしたか」


 ジロウが頷く。


「ですが、ハワード様は得物の違いもあり、少々てこずっておられます。

 出来ない事はなさそうですが、数年はかかりそうだ、と。

 それで、さすがに何年も待って頂くのも、という訳ですが・・・

 お許し下さいますでしょうか。まだ早いでしょうか」


「お待ち下さい。出来ない事はない、と?」


「はい」


「そう、仰られましたか。ううむ・・・」


 ジロウが腕を組んで唸る。

 おかしな所でもあったのだろうか?


「何か?」


 は、とジロウが顔を上げ、


「あ、いえ。剣ではとても無理だと考えておりましたもので」


 カオルも頷いて、


「私も無理だと思いましたが、見つけた振り方は合っていると思います。

 どんな難しい技術であろうと、理が分かれば、後は出来るようにするだけ。

 以前、三傅流の方にそう言われました」


「三傅流というと、あの森戸三傅流ですか?」


「はい」


「あれは怖ろしい抜き打ちをしますが、まさか」


「はい」


 カオルが玄関から少し下がり、さ! とモトカネを抜く。


「おお!」


 ジロウが身を乗り出す。


「まだまだ、練習中ですが・・・」


 と、鞘から刀を迎えるように納刀。


「それは! それは確かに三傅流!」


「教えて下さいました方は、何と鞘から刀を投げて抜いておりまして。

 私も開いた口が塞がりませんでした」


「そこまで出来る方が居られたのですか!?」


「はい。職人街の、イマイ様という研師の方です」


「研師のイマイ様というと、あの、パーティーの時に居られた?

 トミヤス殿の、あの脇差を研いだという方ですか」


「はい。あの方は、三傅流の使い手です。

 ご興味があられましたらば、是非一度。

 ご存知の通り、研ぎの腕も一流の方です。

 見学自由との事で、研ぎの依頼が無くても構わない店ですので」


「ううむ・・・」


 あ、とジロウが顔を上げ、


「これは失礼しました。話が逸れてしまいました。

 振れようと振れまいと、私は全く構いません。

 父上も特に何も言わないと思います。

 ここに来ると、まだかまだかと言っておられますし。

 万が一、父上が何か文句を言うようでしたら、私がそちらへ参ります」


 カオルが深く頭を下げ、


「ありがとうございます」


 と、礼を言った。

 ジロウも頭を下げ、


「こちらこそ、ありがとうございます」


 2人が頭を上げ、


「お手紙の方は、まだ?」


「あ、いや、ええと、これは失礼を。

 お返事をお待ちと聞き、慌てて出てきたもので」


 ジロウが懐から手紙を出す。

 まだ封が開けられていない。

 にこ、とカオルが笑い、


「いえ、構いません。

 中に書いてあると思いますが、此度は、マツ様とクレール様も来たいと」


「え」


 ぽかん、とジロウが口を開ける。


「マサヒデ様から、良い振り方を教えてもらった礼、という事で。

 腕利きの純粋魔術師2人、コヒョウエ先生にも、是非ともご覧頂きたく」


「マツ様というと、確か、人の国では三指に入るお方では」


「はい」


「クレール様は、あの虎を出しておられた」


「はい」


「あのお二方が、来られるのですか!」


「お二方の稽古の参加が無理でしたら、せめて見学だけでもお許しを頂けますとありがたいのですが、如何でしょうか」


 ジロウがぶんぶん手を振り、


「とんでもない! このような機会、滅多にありません!

 こちらからお願いします!」


「ありがとうございます。

 魔術となると、道場が壊れないか、ご懸念があるかと思います。

 しかし、マツ様には、壊れた物を元に戻す魔術がございます。

 その点は、ご安心下さい」


「そのような術まで・・・」


 カオルがにっこり笑って頷き、


「それでは、3日後。昼過ぎに参ります。

 よろしくお願い致します」


 カオルが頭を下げると、ジロウも背を正して、


「父上共々、お待ちしております」


 と、手を付いて頭を下げた。

 カオルが頭を上げて、


「それでは、本日はこれにて。失礼致します」


 カオルが振り向き、はさ、と長羽織を流して、笠を被りながら出て行った。

 見送りながら、ぶる、と小さく身体が震える。

 ジロウの胸が高鳴り、顔がにやけてくる。

 これは武者震いだ!


「コメタロウ!」


「はい!」


 ばたばたと門弟が出てくる。


「すまんが、今すぐ父上の所に行ってくる。今日の稽古は終わりにしよう。

 3日後、楽しみにしていてくれ。きっと、凄い物が見られるぞ」


「はい!」


 ジロウがさっと立ち上がり、着替えに戻る。


「3日後か! 待ちきれないな!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ