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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十一章 シュウサン道場、再び
555/778

第555話


 翌朝。


 ここ最近の緊張感のある素振りに、シズクはにやにやしながら並んで入って来た。真剣で素振りをするマサヒデとカオルを見ても、全く動じていない。

 もう、全然平気そうだ。


「・・・50」


 ひゅぃん! ぴゅうん!


 マサヒデとカオルの刀が、高い音を立てる。

 1回、2回程度だったのが、今日の素振りで急に変わった。

 うん、と2人が頷いて、納刀する。


「カオルさん。私、多分、掴みかけてます」


「私も、はっきり手応えを感じます」


「もうすぐ・・・ですかね」


「1ヶ月は必要なさそうです」


「ええ。やはり、無願想流にどこか似ているのを感じます」


「はい」


 シズクも素振りを終えて、2人に顔を向け、


「私も何か掴んだ! もうビビりじゃなくなった!」


 う! とマサヒデとカオルが顔を逸らす。


「う、うむ。そうですか!」


「良うございました!」


「さて、身体を・・・」


 そそくさとマサヒデが井戸に向かう。

 2人の態度を見て、シズクがカオルに胡乱な顔を向ける。


「何だ? カオル、お前ら、何か隠してるな」


「ええ。後で、ご主人様がお話になられます」


 どき! とシズクの胸が鳴った。

 まさか、一度ビビりになった者は必要ないとか・・・クビ?


「それって・・・まずい事?」


「ご主人様からお聞きになって下さい」


「な、何だよ。不安にさせるなよ」


「私の口からは。では、朝餉の支度に」


「おい、ちょっと」


 手を伸ばしかけたシズクを避けて、ささっとカオルが逃げていく。


(まじかよ!)


 どきどきしながら、シズクも井戸に向かうと、マサヒデが身体を拭きながら歩いて来る。


「待たせましたね」


「うん、大丈夫」


 マサヒデの様子は変わらない。

 だが、この男は、たまに平静な顔でとんでもない事を言う。


(大丈夫そうだけど、本当に大丈夫かな?)



----------



 皆の前には膳が並べられていて、シズクが朝餉の膳につくと、マサヒデが手を合わせ、


「いただきます」


 と、朝餉が始まった。


「そろそろ、朝も涼しくなりましたね」


「本当。過ごしやすくなってきました」


「もうすぐ、秋なんですね!」


 皆は普通だ。

 知っているのは、カオルだけか?


「シズクさん」


 来た!

 ごくっと口の中の物を飲み込んで、


「ん! 何かな」


「実は、貴方に謝らないといけないことがあります」


 う! と皆がシズクから顔を逸らす。

 あ、これは・・・

 シズクはがっくりと肩を落とした。

 鬼族の救世主様と居られるのも、もう最後か。


「昨晩の事ですが」


「うん」


「あの薬なんですけどね」


「うん」


 ぷ! とクレールが吹き出した。

 あれ? と顔を上げると、マサヒデがにやにやしている。

 ん? ん? と皆を見ると、口を押さえ、肩を震わせている。


「な、何? 何なの?」


「あれ、実は・・・」


「え? あの薬、まずい奴だったの?」


「いえ。あれ、ただの片栗粉です」


「は?」


 ぶは! とクレールが吹き出し、皆がげらげら笑い出した。


「ははは! あれ、薬なんかじゃなかったんですよ!

 ただの片栗粉! お湯で溶かしただけ! あははは!」


「はあ?」


「ぷ! シズクさん、担がれたんですよ!」


「あははは!」


「う、うくく・・・あははは!」


 シズクが呆然としていると、


「ははは! 貴方、あれ薬だと思い込んでただけです!

 ただの片栗粉だったんですよ! ははははは!」


「え? 片栗粉? ああー! それで、それで変な感じしなかったのか!」


「そう!」


「それで、粘っこかったんだ!?」


「そうです!」


「だ、だ、騙したな! マサちゃん! 騙したのか!?」


「そうですよ! ははは!」


 皆が怒るシズクを見て、げらげら笑う。


「て、てめえー!」


「ふふん。治ったでしょう?」


 う、とシズクが片膝を立てた体勢で固まる。


「心の部分が、引っ込んでただけですからね。

 簡単な思い込みでも、治るものです」


 カオルが笑いながら目を逸らし、


「シズクさんは単純ですからね」


「ぷっ!」


「あーははは!」


 マツとクレールがまた笑い出す。


「くっ、くっ、くそ!」


「ふふふ。でも、これで貴方はまたひとつ上に上がりました。

 もう、攻防自在の動きが出来るようになりましたね」


 ぎりぎりとシズクが歯を鳴らして、どすん、と座る。

 マサヒデに鋭い目を向けながら、


「いいよ・・・怒って悪かったよ。悪い癖、治してくれたんだ」


「おや。今日は随分と物分かりが良いじゃないですか」


「・・・ふん」


 シズクが、ち、と小さく舌打ちして、飯をかき込む。


「さて。シズクさんの悪い病が治ったところで・・・

 皆さんに大事な話があります」


 マサヒデが真面目な顔になる。

 んん! とシズクがマサヒデを睨む。


「アルマダさんの所の騎士さん達が戻ったら、シュウサン道場に行こうかと」


「え?」「もう?」


 拗ねていたシズクが驚いて、マサヒデを見る。

 カオルも驚いている。


「ご主人様、あの振りを2000回出来てからと仰っておられましたが」


 マサヒデは頷いて、


「私もそう考えていました。ですが、アルマダさんは得物の違いもあり、剣であの振りは数年かかると言っています。しかし、次はコヒョウエ先生も見に来て下さいます。さすがに何年も待って頂くのも、と」


 カオルが膝を進め、


「ご主人様。私も2000回振れてから来い、と言っていたのだと思います。

 追い返されてしまうのでは」


「それならそれで仕方ありません。

 2000回、振れるようになってから、改めて訪ねるだけです」


 カオルが少し下を向いて、


「次は先に報せを送れ、との仰せでした。

 私が届けて参りますので、届けるついでに、その旨をお尋ねしましょう」


 マサヒデは首を傾げ、


「すぐに返事がもらえますかね。

 コヒョウエ先生は、ふらふらしているそうですし、居れば良いのですが」


「む、そうでしたね・・・では、居られましたら聞いてきます。

 それで宜しいでしょうか」


「そうしましょう。待ってたら時間もかかります。

 それと、マツさん、クレールさん、今回は一緒に行きませんか」


「私達もですか?」


「ええ。アルマダさんと稽古をした時みたいな感じで。

 クレールさんは、消えなくても構いませんよ」


 マツとクレールが顔を見合わせる。

 良いのだろうか?


「ジロウさんも、純粋魔術師と戦った事はないでしょう。

 あったとしても、貴方達2人ほどの者ではないはず。

 コヒョウエ先生も、そうだと思います。きっと興味があるでしょう。

 私からのコヒョウエ先生の礼だと思って、手を貸して下さいませんかね?」


「そういう事でしたら、私は構いませんよ」


「私も大丈夫です!」


 マサヒデはにっこり笑って、2人に頭を下げ、


「ありがとうございます。

 馬車でも良いですが、結構距離があるので、朝も暗いうちになります。

 場所は分かっていますから、お二人の風の魔術で飛んで行きましょう」


「お任せ下さい」「はい!」


「では、朝餉を済ませたら、手紙を書きます。

 騎士さん達は、今日、明日には戻ると思いますが・・・

 余裕を持って、3日後。皆さん、如何」


「は!」


「楽しみだね!」


 カオルとシズクに気合が入る。


「お土産はサン落雁ですね」


「ワインも持っていきましょう!」


 マツとクレールはにっこり笑う。

 この温度差に、マサヒデは思わず笑ってしまった。


「ふふふ。では、手紙を書きます。カオルさん、少し待ってて下さい」


「は!」


「おっと、ついでに、アルマダさんにも3日後と伝えてもらえますか。

 あと、当日は風の魔術で飛んで行くので、こちらに来るようにと。

 あ、時間、どうしましょうか?」


「昼過ぎで良いでしょう。我らも、軽く身体を温めておいた方が」


「そうしましょうか。では、書いてきます」


 頷いて、マサヒデは執務室へ入って行った。


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