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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十章 アルマダとの稽古
536/760

第536話


 トミヤス道場、本宅。


 ラディ、ホルニ、イマイは昼餉を済ませると、そそくさと蔵に入って行った。

 いつもなら、ここで一服してから午後の稽古。

 シズクは遠慮なく、ごろんと寝転がっている。

 休憩後、1刻程、稽古に参加して、町に帰るのだが・・・


「おい。シズクさん、道場行くぞ」


 寝転がったシズクの背中を、カゲミツがこつん、とつま先で蹴る。


「え?」


 あれ、とシズクが首を回して、見下ろしているカゲミツを見る。


「いいから。ほら行くぞ」


「はあーい」


 シズクが立ち上がるのも待たず、すたすたとカゲミツが出ていく。


(あっ! やったね!)


 カゲミツの背中に見える、ちょっとだけ真面目な空気。

 これは、何か教えてくれるかも!

 慌ててシズクもどすどすと廊下を早足で歩いて行く。



----------



 門弟は休憩中で、ほとんど飯を食いに出て行った。

 数人、素振りをしている者や、何か書いている者、本を読んでいる者。

 カゲミツが入って行くと、皆が手を止めて礼をする。


「好きにしてていいぞ。まだ休憩時間だ」


「「「はい!」」」


 素振りをしている者達に、


「すまんが、ちょっと開けてくれるか。今からシズクさんに稽古つけるから」


 皆がカゲミツを見て、入って来たシズクを見る。

 さ、と素振りをしていた者達が壁際に座り、書見をしていた者達も本を置く。


「シズクさん、棒持ってきて。あんたの」


「私のって、あの鉄の? 真剣?」


「そうだ」


 門弟達がぎょっとしてカゲミツを見る。

 あんな物を道場の中で振り回すのか!?

 シズクも慌てて、


「ちょっと、カゲミツ様、道場の中じゃまずくない?

 空振りでもして、床とか壁に当たっちゃったら」


「がたがた言わずに持って来い」


 き、とカゲミツがシズクを見る。


(やべえ!)


 どきっとして、シズクが駆け出して行く。


「はい! すぐに!」


 どたどたとシズクが外に置いてある鉄棒を取りに出る。

 門弟達も顔を青くしている。

 壁や床どころではない。シズクの棒は鉄張りではなく、総鉄製。

 万が一、自分達に掠りでもしたら・・・


「ふう」


 カゲミツが小さく息をついて、壁に掛かっている木刀を取る。

 ばたばたとシズクが駆け戻ってきて、


「お待たせしました!」


 と、カゲミツの前で頭を下げる。


「良し。お前さん、斬られたくねえんだろ」


「は、はい」


「今から打ち込むから、全部受けろ。変に流さなくてもいいぞ。

 手加減するから、全部受けてみせろ」


「い!?」


 カゲミツは手加減しても、木刀でシズクを一撃で道場の隅まで叩き飛ばせる。

 だらだらとシズクの顔から汗が吹き出てくる。


「構えろ」


「・・・はい・・・」


 シズクがぴたりと鉄棒を中段に構える。

 あの棒を構える事が出来るというだけでも、十分な脅威だが・・・

 顔を蒼白にした門弟達が、じりじりと2人から遠ざかっていく。


「いくぞ」


 かん! と音がして、カゲミツの木刀が止められ、シズクが仰け反る。

 鼻先で、切先がぎりぎり止まっている。


「受けたな」


「・・・」


 ごく、とシズクが喉を鳴らす。

 ぎりぎり反応出来る所まで、手を抜いてくれた。


「よし。この木刀が真剣だったら、どうなった?」


「えと、折れてたか、曲がったかも」


「その通りだ。分かったか?」


「え? ええと?」


「マサヒデは甲冑も斬れるが、この鉄棒は斬れると思うか?」


「それは・・・マサちゃんでも無理じゃあ・・・」


 カゲミツは木刀を引いて、ぽん、とシズクの鉄棒に手を置いて、


「俺でも、普通の刀じゃ、あんたのこの棒は斬れやしねえんだ。

 お前さんなら、振ってくるのを受けるだけで、どんな得物も壊せる。

 筋が見えてれば、鉄砲の弾だって怖かねえ。

 どうだ? ここまで言えば、分かるだろ?」


 あ、とシズクも棒を引いて、頷いた。


「わ、分かった! そうか! そういう事か!」


 ぱあっと顔を明るくして、シズクがうんうんと頷く。

 カゲミツも厳しい顔を緩めて、


「そうだ。あんた、元々身体が丈夫だし、勘も飛び抜けて良いから、まともに守ろうとしやしねえ。でも、受ける技術は、今の通り十分あるんだ。使えよ」


「はい!」


「棒って得物は、元々が守りに固い得物なんだ。分かったな」


「はい!」


「あ、それと・・・変な力もった得物には気を付けろよ。

 受けたと思ったらばっさりとか、目の前で火が上がったりとかな。

 そういうのは余裕もって離れて、受けないようにしろ。棒は長いんだ」


「分かりました!」


「よし。俺の教えは以上だ。ま、色々練習してみろよ。

 棒術の色んな流派の本もあるからよ。貸してやる」


 すたすたとカゲミツが歩いて行き、壁に木刀を戻す。


「ありがとうございました!」


 シズクが、ばっ! と頭を下げ、大声で礼を言う。

 たった一振り。

 だが、この一振りで、シズクの曇りがひとつなくなった。


(やっぱり、カゲミツ様は丁寧に見てくれてるんだ!)


 マサヒデの言っていた通り、カゲミツは教え上手だ。

 相手の動きを、全部見て教えてくれる。


 技術があるのに、使おうとしていなかった自分。

 持っている技術を、知らずに曇らせていた自分。

 マサヒデの言っていた通りだ。

 磨いて見えるようにすれば、それで良かったのだ。

 今、カゲミツが、その曇りを大きく晴らしてくれた。


 カゲミツがすたすたと頭を下げたままのシズクの横を通り過ぎ、


「休憩中、すまなかったな」


 と言って、がらっと戸を開けて道場を出て行った。

 シズクが顔を上げて、ぼーっと立っていると、道場の縁側の外を、カゲミツが歩いて行く。

 カゲミツが通り過ぎて行ってから、門弟達も立ち上がり、素振りを始めた。


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