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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十章 アルマダとの稽古
535/758

第535話


 トミヤス道場、本宅。


 脂汗をにじませながら、ラディ、ホルニ、イマイがちまちまと飯を食べる。

 その横で、シズクがもりもりと飯を食べながら、


「カゲミツ様あー」


「なんだい」


「あのさあ、ちょっとご相談があるんですけど」


「んん? 話してみろ」


「カオルに斬られそうなんだ」


 え!? と皆が驚いて、シズクの方を見る。

 カゲミツは静かに箸を置いて真顔になり、


「正面きってのやりあいじゃねえとなると、あんた間違いなく死ぬぞ」


「だよねえ・・・」


 ラディの顔が真っ青になり、ホルニもイマイも目を見開いてシズクを見る。


「何があった。順に話せ」


 皆の真剣な顔に、ちょっとシズクが縮こまりながら、首を小さく俯かせ、


「うーんと、最初はパーティーの時。

 マサちゃんがコヒョウエ先生に教えてもらったんだって」


「何を」


「素振りを毎日2000回振れって」


 ぴく、とカゲミツが小さく眉を動かしたが、


「それで」


「で、マサちゃんとカオルが、素振りしてるんだけど、色々分かったみたい。

 こないだ、朝に素振りしてた時、カオルがすごい音で、ぴゅいーん! て」


「お前さん、何か言ったのか」


「何も・・・」


「じゃ、何で斬られる?」


「あの振り、身に付けたら、カオルでも、私、斬れそうだなって思って。

 それで、私にも何か教えてもらえないかなー・・・て思って」


 んん? と皆の顔が怪訝な顔になる。

 カゲミツも眉を寄せて、


「ちょっと待て。斬られそうって、殺されるって事じゃねえのか?

 喧嘩したとか、何か秘密を知っちまったとか」


「え!?」


 シズクが驚いて顔を上げ、手をぶんぶん振って、


「いやいや! ち、違う! 違うって! そういう意味じゃないんだ!

 ええと、今までだったら、カオルじゃ私は斬れなかったと思うんだ!

 でも、あの振り方が分かったら、私も斬れそうだからさ!」


「ああ? つまりは、負けたくねえから、何か教えてくれって事か?」


 ううん、とシズクが小さく唸り、気不味そうに、上目遣いでカゲミツを見る。


「駄目?」


 かくーん、と皆の肩が落ちる。

 カゲミツもかくっと肩を落としてから、真っ赤な顔をシズクに向け、


「阿呆! 皆、お前さんが殺されるって、勘違いしちまったじゃねえか!」


「ご、ごめんなさい!」


「ふん!」


 皆が「何だよ」という顔で、はあ、と溜め息をつき、箸を進める。

 カゲミツも箸を取って、汁の椀を持ってすする。


「で? あいつらどこまで出来てる」


「カオルは50回振って、1回くらい。

 マサちゃんはまだだけど、私が見た感じ、すぐ出来そう」


「ふうん・・・カオルさんは、もう50回に1回は振れるか。流石だな」


「マサちゃんも、カオルの方が早く出来るって思ってたみたい」


「ま、だろうな。カオルさんの方が、積んでる技術は上だ。

 無願想流も少しは使えるようになったし、感覚ですぐ掴めるだろ。

 まさか、アルマダも知ってんのか」


「マサちゃんが教えてたよ」


 カゲミツが苦い顔をして、


「何!? 教えちまったのかよ!?

 全く・・・剣であれ出来るようになると、結構やべえぞ」


「あれは私もやばいと思ったけど、そんなになの?」


「剣でちゃんと使えるようになったら、片手でシズクさんも斬れるぞ。

 頭から真っ二つにな」


 え!? と皆が苦い顔のカゲミツを見る。


「まじで!?」


「そうだよ。まあ、アルマダは無願想流も使えねえし、得物も剣だから、感覚が分かりづらいと思うし・・・10年は練習しねえと無理だと思うけど」


「やっぱり、無願想流と似てる所あるんだ。

 マサちゃんも同じ事言ってたもん」


「そういうこった。俺は、コヒョウエ先生に2000回って言われた時、無願想流も知らなかったから、1ヶ月くらいかかった。あいつらなら、掴んだ瞬間、すぐ出来るようになる。カオルさんなんか、明日には1000回振れるようになるかもな」


「ええー!」


 仰天するシズクを尻目に、はい、とイマイが小さく手を挙げる。


「ちょっとすみません」


「なんだい」


「あの、無願想流を使えるって話してましたけど、あれ失伝してますよね?」


「ああ。でも、マサヒデの野郎、見つけちまったんだよ」


「え!? 伝書とかですか!?」


「いや、違う。忍の振り方を見て、練習してみたんだ。

 で、そこを少しひねくってたら、偶然に見つけちまったって訳だ。

 俺が見てみたら、無願想流と全く同じ振り方だったってわけ」


「ええー!?」


 驚くイマイを見て、ふふん、とカゲミツが笑う。


「中々よく出来た息子だろ? モテるし」


「中々ってものじゃないですよ! 天才!?」


「いいや、そうじゃねえ。実は下地があったんだよ。

 ま! 俺の血ってのもあるけどな!」


 ぐっとイマイが身を乗り出し、膳がかちゃんと音を立てる。


「その下地とは!?」


「ガキの頃に、聞いたか、本で読んだか、足譚を練習してたんだ。

 で、それっぽいのが出来るようになっちまった、て訳だ。

 まーだ小さかったからなあ。出来たらすぐ身に付いちまったんだ。

 分かるだろ? 足譚は無願想流の奥義なんだから・・・」


「あー! なるほど! 既に奥義のひとつは会得していたんだ!」


「そおーゆうこと。いつか気付くと思ってたけど、意外と早かったよ。

 俺はあと10年は、と思ってたけどな。

 近くに忍がいたってのが、運が良かったな」


 ずずーっとカゲミツが汁をすすって、にやっとイマイに笑いを向ける。


「あんたも三傅流の使い手だろ?

 いっぺん、マサヒデかカオルさんと立ち会ってみたら?

 無願想流が見られるぞ」


「え! ううん・・・」


「興味ないのか?」


「ある・・・けど・・・」


「なんだよ」


「それより、研ぎの奥義が欲しい・・・」


「わははは! あんた、研師の鑑だよ!」


 げらげら笑うカゲミツを見て、イマイも照れ臭そうに笑い、


「や、ははは。しかし、やはりカオルさんって忍だったんですね」


「そうだよ。知らなかったのか?」


「いや、多分そうだろうなって思ってました」


「へえー。なんで分かった?」


「いやあ、変わったナイフを研ぎに出してくれまして」


「ナイフ・・・あ! 曲がり苦無みたいなナイフってやつか!?」


「ええ。あんなの、この地方じゃ『本職』の方じゃなきゃ持ってないですから。

 殺しを請け負うような仕事の人には、全く見えないですし」


 かあー、とカゲミツは額に手を当てて、


「そうだよ! あんなの研ぎに出したりしたら、バレバレじゃねえか!」


「ですよね! ははは!」


「ううむ・・・カオルさんも、どっか抜けてる所あるよな。

 文句なしに、腕は良いのによ・・・」


「カゲミツ様がそう言うくらいなら、一流なんですか」


「そうだよ。カオルさんは一流も一流、超一流だ。

 なんせ、俺から刀盗んだくれえだ」


 え! とホルニとイマイが驚く。

 ラディとシズクがくすっと笑う。

 何しろ、魔剣を盗んだのだから。


「まさか!」


「本当だよ。これで文字通り一本とった、だなーんてよ! ははは!」


 イマイもホルニも、目を見開いて驚いている。

 しょっちゅう顔を合わせている者が、そんな腕利きの忍だったとは・・・


「シズクさんとラディさんは、とっくに知ってるよな。

 イマイさんも、ホルニさんも、秘密にしといてやってくれよ。

 カオルさん、廃業になっちまうから」


「は・・・」「分かりました・・・」


 驚きながら、イマイとホルニが箸を進める。


「ねえねえ、カゲミツ様ー」


 シズクが声を出すと、


「駄目だ」


 ぴしりとカゲミツが止める。

 シズクは口を尖らせて、


「マサちゃんも、カオルも、ハワードさんも、コヒョウエ先生から教えてもらったじゃん! 私は何で駄目なの!?」


 カゲミツが厳しい顔でシズクを見つめる。

 部屋の空気が変わり、ぴん、と張り詰めた。

 シズクが身を縮こまらせる。


「ん、ん、ん・・・」


「分からんのか?」


「分かりません・・・何でですか?」


 ぶは! とカゲミツが吹き出して、


「さっき、俺達を本気で驚かせたからだ! ははは!」


 ぷ! とホルニ達も吹き出し、げらげら笑い出した。


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