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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十九章 贈り物
531/762

第531話


 日が沈みかかった職人街。


 マサヒデが船に乗って、川を上る。

 船には魚が山盛りになっている。

 たまにぴちゃっと跳ねて、魚が川に落ちる。


「釣りましたねえ」


「大満足です。楽しかった!」


「何匹かもらってもいいですかね? 今夜のおかずに」


「どうぞどうぞ!」


「こりゃありがてえ。今夜は酒が美味くなりそうだ!」


 にこにこしながら、船頭が竹竿を刺し、よっ、と竹竿で船を押して、虎徹の下に船を着ける。


「よっしゃ、あたしが虎徹に行って、店の者呼んで来ますよ。

 トミヤス様も、持ってく分は見繕っておいて下せえやし」


「よろしくお願いします」


 少し待っていると、船頭が麻袋を持って、後ろにたらいを持った店員が付いて下りて来た。山盛りの魚を見て、ぎょ、と目を見開く。


「ほら、だから言ったじゃねえか。たらい1個じゃ足りやしねえって」


「すまねえ、いくら何でもと思ってよ。呼んでくらあ」


 店員が慌てて店に戻って行く。

 船頭が船に乗って、麻袋をマサヒデに渡し、


「さ、こいつに入れてって下せえまし。あの鯉とナマズでしょう?」


「そうですよ」


 袋を受け取って、魚籠に入った鯉とナマズを袋に入れる。

 シズクとクレールもいるし、もう1匹と考え、ナマズを掴んで放り込む。

 鯉はホルニ工房に届けよう。


「お代は銀5枚でしたね」


「ははは! トミヤス様、この魚の山を見なせえ!

 あなた様が受け取る方ですぜ!」


「ふふふ。では、穴場を教えて頂いた礼も入れて、とんとんで。

 余った分は、あなたが貰って下さい」


 マサヒデは、よ、と立ち上がって、岸に軽く跳び、


「それでは」


「ちょいと、本当に良いんですかい? 貰っちまって」


「構いませんよ。また釣りに来た時は、別の場所を教えて下さい」


 軽く手を振って、麻袋を肩に担いで、マサヒデは去って行った。



----------



 ホルニ工房。


 がらり。


「遅くなりました」


 と、扉を開けると、あ、と、ラディが顔を上げ、ホルニもこちらを見る。


「いらっしゃいませ!」


 マサヒデが笑いながらカウンターに歩いて行って、


「お母上、お手数をおかけしますが、たらいを持ってきてもらえますか」


「あら! もしかして、釣りで?」


「ええ。大きいですから、3人で丁度良いでしょう」


「大きいんですか? うふふ。何でしょう!」


 にこにこしながら、ラディの母が奥に引っ込んでいく。

 よ、とマサヒデが袋を持ち直すと、ぼす! と音がして、袋が跳ねた。

 ラディがびくっとして、袋を見る。


「マサヒデさん」


「鯉です」


「鯉」


「それより、どうでした? その脇差」


「やはりヒロスケですね。銘も切ってありましたが、見ただけで分かります」


 うむ、とホルニが頷き、


「この濤瀾乱が豪快すぎて目が行きがちですが、やはり肌が違う。

 匂いも深く、沸の粒が綺麗に揃って、よく着いている。

 ヒロスケの実力ここにあり。正に逸品です」


「お楽しみ頂けましたか」


「はい、いや、もう少し」


 ちら、とホルニがラディを睨み、


「眼福でした」


 と頭を下げ、鞘に納める。


 そこに、よいしょ、とラディの母がたらいを持って来た。

 カウンターを回って、マサヒデの足元に置くと、マサヒデが麻袋を下ろす。

 手を突っ込んで、大きな鯉を引っ張り出す。

 得意満面の笑みで、


「どうです?」


「なんて!」「わあ!」「おお!」


 と、3人が声を上げる。

 にやにやしながら、たらいに鯉を置く。


「ははは。中々でしょう?」


 ラディの母が驚いて口を半開きにして、


「こんな大物、よく釣り上げられましたね!?」


 ラディも目を見開いて、口に手を当てている。


「いやあ、暴れて大変でした。魚籠がぐるんぐるん回ってしまって」


 懐から手拭いを出して、ぐいぐいと指の隙間まで綺麗に拭い、懐紙も出してもう一度拭く。拭いた懐紙を突っ込んで、手を袂に入れ、直に触れないように脇差を取り、腰に差す。


「では、そろそろ帰りませんと、遅くなってしまいますので」


 よっ、と麻袋を肩に担いで出ようとして、


「あ、トミヤス様! こちらお忘れですよ!」


 え? と振り向くと、ラディの母が慌てて刀袋を持って来る。


「ああ! すっかり忘れてました」


 受け取ると、マサヒデの両手が塞がったので、ラディの母が玄関を開ける。


「ありがとうございます。それでは」


 マサヒデは頭を下げ、店を出て行った。



----------



 日はとっぷりと暮れ、魔術師協会。


 夕餉の準備は出来ているのか、美味しそうな匂いがする。

 大きなナマズを2匹担ぎ、右手にも刀を持っている。

 ふう、と息をついて、庭に回る。


「只今戻りました」


「あ! マサヒデ様!」「マサちゃーん!」


 クレールとシズクが声を上げ、マツとカオルが頭を下げる。


「遅くなりましたけど、土産もありますよ。ナマズです」


「おおっ!」


 シズクが声を上げる。

 縁側のすぐ下に麻袋を置いて、口を広げると、皆がぞろぞろ寄ってくる。


「うわあ!」「すごーい!」「でっけえー!」「流石です」


「今日は水に浸けておいて、明日、蒲焼にしましょうか」


 待った! とクレールが手を前に出して、


「マサヒデ様! 1日使うなら、マッリーにしましょう!」


「まっ、りい? 何です、それ」


「魔の国では、結構一般的なナマズの食べ方ですよ。

 マツ様とシズクさんは知ってますよね?」


「勿論ですとも!」


「美味いよねー! ご飯が進むんだ!」


 3人がにっこり顔を合わせる。


「どんな料理なんです? それって、人族が食べても平気ですか?」


「平気です! 簡単に言いますと、ナマズの唐揚げみたいな物です」


「唐揚げですか」


 にやあっとクレールが笑って、


「ぶつ切りにしたナマズの身を、にんにくと塩胡椒、クミンとレモンを混ぜた物に漬けておくんですよおー。これをからっと揚げて! にんにくとクミンがたまらなーい!」


 くす、とマサヒデが笑って、


「その顔で、すごく美味しそうっていうのが、伝わってきますよ。

 ところで、くみんって何です?」


「香辛料ですよ!」


 マサヒデがカオルの方を向き、


「くみんって香辛料、ここにあります?」


「いえ」


「だそうですけど」


 マツ、クレール、シズクががっくりと肩を落とす。

 カオルが見かねて、


「ご主人様、ギルドの調理場で分けてもらいましょう」


「あ! そうしましょう! カオルさん、素晴らしいですよ!」


 わあ! と3人が顔を上げ、カオルが笑って頷き、


「聞く限り、簡単そうですし、私でも作れましょう。

 夕餉を食べましたら、ギルドに行って来ます」


 やった! と魔族3人が笑顔で顔を合わせる。

 そんなに美味しいのか、はたまた、懐かしい郷土料理のようなものか。


「では、このナマズは・・・たらいに入れておきます?

 台所に置きますか?」


「夕餉を食べましたらば、すぐ私が用意致しますので」


 と、カオルが手を伸ばす。


「お願いします」


「いいよ!」


 シズクが、ぱしっ! とマサヒデの手からもぎ取るように袋を取って、


「私が持ってくから、カオル、膳の支度してよ! 早く食べよ!

 マサちゃんも、お腹空いたでしょ?」


 マサヒデが笑って、


「ええ、そうですね。では、カオルさん、シズクさん、頼みます」


「は」「はーい!」


 魔術師協会の夕餉が始まる。


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