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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十九章 贈り物
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第528話


 冒険者ギルド、食堂。


 稽古を進めるうち、マサヒデとカオルの鋭い気迫も少しずつ収まってきた。

 今はいつも通り。

 マサヒデ達は日替わり定食を食べながら、


「カオルさん、私、この後は買い物に行ってきます」


「買い物でしたら、私が参りますが」


「いえ。今朝の稽古の時に分かったんですが」


 ぴた、とカオルの箸が止まる。


「ああ、いえ。新しい発見ではありません」


「・・・」


「素振りに使う刀、樋音がした方が分かりやすいかと思いまして。

 私のは2本とも樋が入ってないですからね。

 なので、素振り用の樋が入ってる奴、買ってきます」


 マサヒデが両手を前に出して、刀を握る形にし、


「これは自分の手に合った物を選びませんとね」


「ここでお借りすれば良いのでは?」


 手を引っ込めて箸を取る。


「長くかかりそうですから、借りっぱなしはさすがに。

 というわけで、買いに行ってきます。

 あと、脇差です」


「脇差もですか?」


「いえ。ヒロスケです。贈り物で貰った物。

 ラディさん、昨日はばてばてになって、見ずに帰ってしまったでしょう」


「お見せしに行くのですね」


 マサヒデが笑いながら頷いて、


「そういう事です。まあ、遅くなると思います」


 くす、とカオルが笑う。


「はい」



----------



「あれ」


 マサヒデとカオルが魔術師協会に戻ると、玄関に『只今外出中』の札。


「お二人でお買い物でしょうか?」


 マサヒデは少し首を傾げて、


「ううむ、遊びに行ったのかも?

 昨日も今日も、朝は緊張させてしまったみたいですし。

 馬達の所かな?」


「今朝は悪い事をしてしまいました。

 明日から、素振りが終わったら気を抜かないと」


 マサヒデは苦笑いをして、


「さて、それも難しいですが」


 がらりと玄関を開けると、やはり誰も居ない。

 床の間にも、テルクニのタマゴがない。


「誰も居ないみたいですね。

 では、留守番を頼んで良いでしょうか」


「お任せ下さい」


 奥の間に行って、金貨の小袋を懐に入れる。

 訓練用の安い物で合う物がなければ、現代刀の、適当な物を買う為だ。

 そう言えば、贈り物を売った分は、いくらになったのだろう?


 奥の間を出て、廊下を歩いて居間の前。

 カオルが部屋の真ん中で、ぽつん、と座っている。

 床の間に行って、脇差をヒロスケに差し替える。


「カオルさん」


「は」


「昨日、贈り物を売った分、いくらになったんです?」


「大体、金貨で720枚くらいです」


 予想外の金額。

 せいぜい100枚前後だと思っていたのだが。


「ええ!? そんなになったんですか!」


 カオルが微笑んで、


「執事さんのお陰です。

 査定の際、何度も安くされそうになりましたが、全て見抜かれまして」


「流石ですね」


「量もありましたから。なにせ、馬車3台分です。

 ふふ、金に困ったらパーティーも悪くありません」


 マサヒデは苦笑して、顔に手を当て、


「もう勘弁ですよ。では、行ってきます」


「いってらっしゃいませ」


 カオルが手を付いて頭を下げた。



----------



 職人街、ホルニ工房。


 がらり、と戸を開けると、いつもの風景。

 カウンターにラディの母。


「あ、トミヤス様! いらっしゃいませ!」


「こんにちは。ラディさんか、ご亭主は」


 くす、とラディの母は笑って、


「ラディは疲れて寝てますよ。亭主は服を見てます」


 ラディは死霊術の稽古で疲れたのだろうが、服とは?


「服?」


「注文をあらかた片付けましたから、明日はイマイさんと一緒に道場に行くんですって。子供みたいにうきうきしてましたよ」


「そうでしたか。ううむ、普段着で構わないんですけど・・・

 今日は良い物が手に入ったので、自慢しに来たんですが、帰りに寄ります」


「良い物?」


 ぽん、とマサヒデが脇差の柄に手を置いて、にっと笑い、


「あのパーティーの時、贈り物の中に入ってたんです。

 脇差と言えば、ラディさんには分かりますから」


「あら、トミヤス様の目に適う物が?」


「ええ。お母上にも見た目で分かると思います」


 すらっとヒロスケを抜く。

 ど派手な濤乱刃。

 素人目でも、何か凄そうというのは分かる。


「わ、凄いじゃないですか!」


「ご亭主の作には全然及びませんけどね。念の為の予備です」


「へえー! これが予備ですか!?」


「ふふ、ご亭主の脇差は、猪の首を斬って、瑕ひとつなかったんですよ?

 この程度では、そこまでは無理です」


「はあー・・・」


 マサヒデはすいっと脇差を納めて、軽く頭を下げ、


「では、また帰りに寄ります」


「はい。よろしくお願いします」



----------



 ホルニ工房を出て、のんびりと職人街を歩く。


 行き先は、イマイに教えてもらった刀屋。

 この町には、刀を扱う店が少ない。

 たまに武器屋や骨董品屋で見かけるが、数がないから選ぶ事も出来ない。


 ぶらぶらと歩いて、橋の上。

 この橋を過ぎて、イマイの店を過ぎて、真っ直ぐ。

 何となく足を止め、橋の上から船宿に止まっている船を見る。

 マサヒデの後ろを、大八車ががらがらと通って行く。


(釣りでもしようか?)


 脇差と、買ってきた稽古用の刀を預かってもらい、釣り。

 悪くない。


 どうせ2人共、見入ってしまうはずだ。

 夕方まで釣りをして、魚を土産に持って帰る。

 悪くない。


 鮎やニジマスは、もっと上流だ。

 森の川には大量に居たが、この町中の川には居ないだろう。

 この辺りなら、フナ、鯉、ナマズ。

 夜釣りならウナギも狙える。運が良ければ、夕方頃に釣れるかもしれない。


 寒ブナなら鮒飯も良いが、今は時期が悪い。あまり美味しくないだろう。

 鯉。あらいにして、生姜醤油。母は酢味噌で食べていた。

 ナマズ。泥を吐かせて、分厚い蒲焼。脂が多くて、飯が進む。


(楽しめそうだな)


 マサヒデがにやにやしながら、橋を歩いて行く。

 ちらっとイマイの店を遠目に見る。

 明日は、道場の蔵で、ホルニとおおはしゃぎしているだろう。


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