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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十八章 お七夜
486/780

第486話


「ところで、クレールさん」


 マツから若き日の魔王と狼族の話を聞き、クレールもだらだらと泣いている。


「はい」


「クレールさんの姓は、フォン=レイシクランですよね」


「そうです」


 と答え、じゅっと鼻をすする。


「魔王様の最初のお仲間の無頼の輩達には、皆、姓に『フォン』が入るんです。

 これはクレール様も知らなかったでしょう?

 魔の国のフォンっていう貴族は、ご先祖様が、魔王様のお仲間の1人です」


「え!」


「まだありますよ。魔王様って、実は名前がなかったんです。

 『フォン』って、神様が呼ぶのに困るから、魔王様にくれた名前なんです」


「え! ええーっ! 神様があー!?」


 周りの人々も、驚いて声を上げる。


「だから、魔王様の最初の名前は、ただの『フォン』です」


「フォン・・・どういう意味なんでしょう?

 何か、神様の特別な言葉みたいな・・・」


 ぷ! とマツが吹き出して、グラスをすーっと前に出しながら、


「山の向こうまで、ふおーん! って飛んだから! なんですって!

 ふおーんじゃ呼びづらいから、フォン!」


「ええ!? それでフォン!?」


「そうですよ。うふふ。神様の名付けのセンスって面白いでしょう?」


「え、いや、マツ様、そこは・・・」


 ごにょごにょとクレールが口を濁す。


「うふふ。では、センスに関しては、置いておいて。

 龍人族は勿論、狼族の貴族の家も少ないですから、実はフォンですか?

 なーんて、お尋ねになってみては?

 恐れ多いだなんて、隠してらっしゃる家も多いですけど。

 もし『フォン』だったら、それらの方々から魔王様のお話が聞けるかも」


「うわあ・・・若き日の魔王様ですか・・・」


 クレールが瞳を輝かせる。

 さっき聞いたような、感動的なお話が一杯・・・

 くす、とクレールを見て、マツが笑って、


「そーれーと。クレールさんのご先祖様、とんでもなく凄い方なんですよ。

 何せ、お仲間として一緒にふらふらしてたんですから・・・

 それも、喧嘩っ早かった魔王様をお叱りしてたくらいなんです。

 これって、魔王様と同じくらい強かったんじゃありませんか?」


「ええー!?」


「クレールさんは純血のレイシクランです。

 もしかしたら、この先、物凄い力に目覚めるかも!

 そうしたら、魔王様くらいに強くなれるかも!」


「私がですかあ!?」


 クレールが驚いて、自分を指差す。


「そうですとも!

 私のご先祖様もそうだったかもしれませんが、私は純血ではないのですよ。

 純血のクレールさんは、そのうち・・・かも、しれませんね?」


 ぷるぷると、クレールの指が震える。


「わ、わ、わ」


「うふふ。それと、当時の方って、魔王様一党は当然ですけど、魔王様が当時は弱いって思っていた狼族も、今の私達から見たら、とんでもない強さなんです。同じ狼族でも、今と当時では、天地の差があるはずですよ。カゲミツ様とまでは行かなくても、少なくともマサヒデ様くらいは強かったはずです」


「ええー!? 少なくとも、ですかあ!?」


「だって、このホテルくらいの魔獣を倒しちゃうんですよ?

 そんな大きさ、シズクさんが鉄棒を突き刺しても、針が刺さった程度です。

 今みたいに、まともな武器も武術も魔術もなかった時代。

 狼族の方々は、魔術は使えませんでした。でも、そんなのを倒すんです。

 いくらマサヒデ様でも、これは無理だと思いませんか?

 何十人と集まって、やっとくらいでしょう?」


「確かに・・・」


「当時の皆様って、そのくらい強かったんです。

 そんな方々を弱い、守らねばって感じる魔王様。

 どのくらい強いんでしょう?

 それを指で押しただけで勝ってしまう神様・・・もう想像も付きませんね」


「うわあ・・・」


「魔王様が、武が衰退しないように、勇者祭をしよう! と考えたのも、この辺りを考えた事もあったのかも」


 うんうん、と皆が頷く。


「では、魔の国のお話はこの辺りで。

 私、人の国の歴史をお聞きしたいです。

 どなたか、歴史の裏側みたいなのを知っておられる方、おられませんか?」


「あ、では私が。祖父から聞いた話で、真偽は分かりませんが・・・」



----------



 一方その頃。


 カゲミツとホルニが勝負をしていたテーブルに、オオタとマツモトが加わっていた。客が増え、ぐるりとテーブルを囲んでいる。


 マツモトが無表情でカードをシャッフルして、さーと扇形に広げる。


「ジョーカーは、ここ・・・」


 す、とカードを1枚。ジョーカー。


「エースは、これ、これ、これ、これ・・・」


 出されたカードは全部エース。


「・・・と! このように、私、好きにカードをシャッフル出来ますので」


 マツモトがぐるりと囲んだ客達を見渡し、


「どなたか、シャッフルして頂けますか?

 1ゲームで、シャッフル役は交代して頂いて」


 ふっ、とマツモトが小さく笑う。

 ふふん、とホルニも鼻で笑う。

 カゲミツがウイスキーを片手に、


「ホールデム? ドロー? セブンカード?」


「オオタ様は分かりますか?」


「馬鹿にするなよ」


 ぐい、とオオタがグラスを空け、給仕にグラスを突き出す。


「ま! ホールデムで良いんじゃねえの? 見てる方も分かり易いし」


「構いません」


「同じく」


「ですな」


 カゲミツが懐に手を突っ込み、銀貨をぱちん、と置く。


「これがディーラーボタンな」


 金貨の山に手を置き、ぴんぴんぴん! と指を弾く。

 皆の前に、金貨が5枚、ぴたりと横並びに並ぶ。


「ま! 短期戦ってことでな。コインが無くなったら・・・」


 グラスを置いて、ウイスキーを注ぐ。


「一気で飲み干す」


 ちら、とマツモトがグラスを見て、


「ブラインドは無しにしましょう。最初に場代を1枚ずつ」


「良いだろう。分かり易い。構わねえよな?」


 ホルニとオオタが頷く。


「では」


 マツモトが、すー、と扇に広げられたカードをまとめ、ジョーカーを抜いて、後ろの招待客にまとめたカードを渡し、


「では、ディーラーボタンはカゲミツ様なので、私からカードを」


 ぱ! とカゲミツが手を前に出し、


「おおっとお! マツモトさん!」


「何か?」


「カード、渡し忘れてねえか?」


「・・・」


 ぴく。

 マツモトの眉が一瞬動く。

 カゲミツの手がマツモトの袖に伸び、袖の中からエースが2枚。

 にや、とホルニが笑う。


「ははは! さ、マツモトさんよ。空けてもらうぜ」


 カゲミツがにやにやしながら、すー、とグラスをマツモトの前に滑らせる。

 ふ、とマツモトが笑い、ぐい! とグラスを一気に空ける。

 とん・・・

 グラスが置かれると、ホルニが笑って、


「おや? 袖が乱れておりますな」


 ホルニの手がマツモトの反対側の袖に伸び、袖の中からエースが2枚。


「ははは! もう1杯だな!」


 カゲミツが笑って、またグラスを滑らせる。


「・・・」


「遠慮するなよ! 俺の奢りだ」


 ぴ! とカゲミツが手元のコインを弾くと、マツモトの前でぴたりと止まる。

 マツモトがグラスを空け、とん、と置くと、


「おい、マツモト」


 ぴく。

 正面のオオタがにやっと笑い、マツモトを指差し、


「ネクタイが曲がっておるぞ? さ、直せ! ははは!」


「・・・これは失礼を」


 すっとマツモトの手が伸びて、ネクタイの裏からエースが1枚。


「んんー? マツモト、エースが5枚あるではないか! ははは!」


 笑いながら、オオタがグラスを差し出す。


「さ、飲め飲め! せっかくのパーティーだ!

 これは、ワシの奢りだ」


 ぴ、とオオタがコインを弾き、マツモトの前で跳ね、くるくる回って倒れる。


「ふふふ。では、私からも」


 ホルニがグラスとコインを差し出す。


「さ、ご遠慮なく」


「・・・」


 ぐ! とん。

 ぐ! とん・・・


 おお、と小さな声が周りを囲んだ招待客から上がる。

 す、す、とマツモトが2つのグラスをテーブルの端に滑らせると、給仕がグラスを下げる。


「参りましょうか」


 皆が1枚ずつ、場代のコインを置く。

 マツモトが後ろのカードを持った招待客に振り向いて、


「では、カードをお願いします」


 す、す、す、とカードが2枚ずつ配られたが、カゲミツは腕を組んでにやにや笑ったまま。マツモトが、ちらとカゲミツの方を見て、


「カゲミツ様。カードのご確認を」


「見なくても良い」


 ざわっ・・・


「ま! このゲームはハンデって奴さ。マツモトさん。見てくれ」


 ちら、ちら、ちら・・・

 マツモト、ホルニ、オオタがカゲミツを見て、順にカードを確認。

 3枚のカードが開かれる。


「レイズ」


「コール」


「コール」


 2枚目のコインが皆の前に置かれる。


「俺もレイズといきたいが・・・」


 ちら・・・皆の目がカゲミツを見る。

 カゲミツがふふん、と笑って、


「ま! 奢っちまってコインも減ったしー。

 コールにしとこうかな!」


 す、と2枚目のコインを置いて、カゲミツがふんぞり返ると、いつの間にか2枚のコインの下に、手札のカードが1枚ずつ。


 招待客達がざわめく。


「・・・」「・・・」「・・・」


 テーブルに4枚目のカードが開かれる。


「さ! どおーぞ!」


「チェックです」


「チェック」


「チェック」


 5枚目のカード。

 ふふん、とカゲミツが笑って、


「俺はチェックな!」


「チェックです」


「チェック」


「チェック」


「じゃ! ショーウダウーン!」


 カゲミツの手が目に見えない速さで動く。

 コインの下のカードが、いつの間にかカゲミツの手に。

 にやっと笑うと、カゲミツの手からカードが飛び、コインの下にすっと入る。


「ハイカードだよ!(役なし。ハイカード同士は数字の強弱で決まる)

 ははは! 皆はどうかなー?」


「ワンペア」


「ツーペア」


「ハイカード」


「ははは! さすがホルニさんだ! 持ってけ泥棒!」


 ぴぴん! とカゲミツがコインを弾き、ホルニの前でぴたりと止まる。

 マツモトとオオタもコインを差し出して、ホルニの前にコインが集まる。


「次は上限2枚で良いよな? 俺、コイン2枚しかねーもんよ!」


「カゲミツ様?」


「なんだい?」


 カゲミツの前のカードがない?

 あれ? と皆がカゲミツの手元を見る。


「カードは・・・」


「カード? ちゃんと戻したよ」


 え!? とカードを持った招待客が、持ったカードを見る。

 カゲミツがにやにや笑いながら、


「なーんだよ、疑ってるのか? な、数えてくれる?」


 1枚、2枚、3枚・・・

 カードが並べられていく。

 コミュニティカードが5枚。3人の手元に2枚ずつ。

 並べられたカード、41枚。

 計、52枚。配られた分も確認。


「・・・合ってます・・・」


 おお! と声が上がり、小さく拍手。


「さ! 次のゲームに行こうか。飲むのは誰かなあ?

 あ、一杯もらえる? ロックで」


 カゲミツが給仕にグラスを差し出す。

 氷の上を、琥珀色の酒が流れていく。


「ふふふ・・・」


 小さく笑いながら、カゲミツがグラスを傾ける。

 カゲミツに仕込みなど一切必要ないのだ。

 からん、と小さく氷が音を立てる。


(勝てる訳がない!)


 マツモト、ホルニ、オオタが小さく息を飲む。


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