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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十八章 お七夜
484/780

第484話


 戯れに始まった、マツとクレールの昔話。


 笑い話もあれば、凄惨な話もあった。

 王宮魔術師であったマツから聞く、見ることのない王宮の中の生活。

 古く歴史のある、とある貴族の成り上がり。

 成功と失敗。

 戦争中の話。


 長命なマツやクレールから聞く、歴史の裏側。

 皆が興味深く、マツ達の話に夢中になっていた。

 話が一段落した所で、


「時にマツ様」


「はい。何でしょう」


「魔王様が魔の国を統治する前、魔の国はどういう国だったのでしょう?

 お父上から、聞き及んでおりませんか?」


 マツは首を傾げ、


「ううん・・・あまり細かくは分かりませんが・・・

 お父様も、そう魔王様とお話し出来る機会など、滅多にありませんし。

 あまり、歴史とかには興味を示す方でもありませんし・・・

 でも、当家には当時の記録というか、日記のような物がいくつか」


 本当は自分の父が魔王だ、というのは秘密だ。

 そこを隠しながら、マツは話し出した。


「それはもう、酷い有様だったみたいですね。

 そもそも、まだ『国』というものはなかったのです。

 皆、同じ一族だとか、気の合う仲間達で集まって暮らしている程度。

 おそらく、当時の人の国もそうだったのではないでしょうか」


 マツは抱きかかえたタマゴをさすりながら、話を始めた。


「最初は、何万年か、それとも、何十万年、何百万年も前になるのか・・・

 まだ魔王様も産まれる前ですし、良く分かっておりませんが・・・

 当時、世には『悪魔』と呼ばれる者が・・・

 いや、者と言って良い存在かどうか」


「悪魔と、言いますと、神話に出てくるような、あの悪魔?」


「ええ。世は、その悪魔達と、大量の魔獣が跋扈する時代でした。

 まだ、魔王様が産まれるずっと前からです。

 魔獣も、このホテルくらいの大きさのものが多かったみたいですね。

 魔王様は、その悪魔と魔獣達の時代の末期に産まれたのです。

 気付いた頃には悪魔から逃げ回り、皆と魔獣を狩ったりしていたそうです」


「まさか、悪魔って、本当に居たんですか?」


「ええ。私達が産まれる前は、今、悪魔と呼ばれる者達が絶対強者であった世だったのです。暦などなかったので、実際、何年前なのかは分かりませんが」


「なんと・・・」


「魔王様は、当時はただの・・・

 何と申しましょうか、無頼の輩の頭のような、そんな感じでしょうか?

 親も悪魔に殺され、独りぼっち。

 そこに、たまたま出会った、同じような者達と群れだすんですね。

 うふふ。我が家の初代も、クレールさんのご先祖様も、その1人です」


 クレールが驚き、声を上げた。


「ええー!? 私の何代も前の、お祖父様のお祖父様のお祖父様、くらいでしょうか? もっとでしょうか・・・ええと、ええと・・・」


 くすくすとマツが笑って、


「当時の魔王様は、それはもう血気に逸る若者で、しょっちゅうクレール様のご先祖様に怒られていたそうですよ。うふふ」


 マツは憂いを含めた顔で少し笑って、悲しげな顔になり、


「毎日、毎日・・・血を見ない日はなかったそうですが・・・

 魔獣を狩り、悪魔から逃げ回り・・・

 そうですね・・・ここから先は、信心深い方には、お怒りになられましょう。

 真偽は魔王様しか知りませんから、どうぞ聞き流して、お許し下さいまし」


「・・・」


「今、多くの宗教で崇められている、『神』という者は・・・

 元々は、その・・・」


 マツは少し言い淀み、


「神様って、元々は、悪魔と呼ばれる者達だったのです」


「え!?」「何ですと!?」


「いわば、悪魔同士の喧嘩に、魔王様達が加わり・・・

 人族の国でも同じようなことがあって、きっと人も加わっていたのでしょう。

 勝った方が、今、神と崇められている者。

 負けた方が、今、悪魔と言われる者。

 そうなったのですね」


「馬鹿な!」


 と、怒りをあらわににする者が声をあげた。

 周りの者が、彼を押さえる。

 マツが、ちら、と押さえられた男に目をやって、小さく首を振り、


「しかし、崇められている神は、喧嘩で勝ったから、だけではないんです」


「と、言いますと」


「まず、悪魔達というのは、どの種族も少数だったんです。

 今の魔王様の一族や、龍人族くらいでしょうか。いえ、もっと少ないかも。

 それが、点々と世にバラけていたのですね。

 何がきっかけか、偶然か。

 彼らは集まり、意見の違いで分かれて争いになりました。

 そうして、悪魔達の数はさらに少なくなって・・・

 それに加わった魔王様達や、魔の国の者も、おそらく人族の者も・・・」


「それで、どうして神と?」


「彼らは、各地で魔王様達のような者達を集めて、跋扈する魔獣や、乱暴な悪魔達から守ってくれました。それで、神と崇められるようになったんですね」


「え? 悪魔と呼ばれるような者達が、ですか?」


「悪魔と言えば、残虐非道、冷酷無比、と言われますが、実際は違うんです。

 普通に、私達魔族や人族と同じように、感情がある生き物なんです。

 まあ、生き物と言っても、我らの常識を遥かに超える存在ですけども・・・

 でも、当然ですよね。獣にだって、小さな虫にも、感情はあるんですから。

 感情がなければ、そもそも争いなんて起きませんし」


「なるほど。いや、確かにそうです」


「神から見れば・・・

 そうですね、かわいいペットを守る、という程度だったでしょうか。

 微力とはいえ、助けてくれたという恩を少しは感じてくれたのでしょうか」


「そうして、守られた事に感謝し、いつしか神と」


「ええ。そういう事です。神も悪魔も、実在していた・・・

 あ、申し訳ありません。していた、ではありませんね。

 今も、当時の神というか、悪魔というか。

 それらの皆様は、ほとんど生きておられますよ」


「え!?」


 これには皆も驚いた。

 神も悪魔も、この世に実在するのか!?


「想像から産まれた神や悪魔だとか、仏様のように人であるとかは別ですよ」


「では! では、神はどこに!? どこにおられるのです!?

 何故、お姿をお見せ下さらないのです!?」


 マツはにっこり笑って、


「うふふ。ひとつずつ、お答えしますね。

 まず、どこにおられるのか。

 当時から生きておられる魔王様なら、ご存知かも? 私は知りません。

 勿論、遠く離れた地の神様の居場所は、魔王様も知らないでしょう。

 そして、姿をお見せにならないのは・・・」


 くす、とマツが笑い、


「皆様、お疲れになって、寝ておられるのです」


「え!? 寝ているとは!?」


「封印されているとかですか!?」


「いいえ。争いの後から、ずっと魔王様達、弱者を守っておられて。

 毎日、昼夜休む暇もなく、危険な魔獣や、悪魔達を警戒して。

 それを、何百年、何千年、それとも、何万年かも・・・

 やっと世界に色々な種族が増えてきた。

 これなら、何とか身を守って生きていけるだろうか。

 もう、襲ってくる悪魔もいないだろうか。

 ああ疲れた。そろそろ休んでも良いかな、と」


「そんな・・・」


「そんな生活、いくら神様だって、お疲れになりますとも。

 ですから、神様の居所を探そう! なんてしてはいけませんよ。

 もし、偶然見つけたとしても、お休みの所をお邪魔するのは失礼です」


「いやしかし、かもしれませんが!」


「私達がここで生きているのは、神がご先祖様を身を挺して守ってくれたお陰。

 お疲れが取れるまで、ごゆっくりお休みして頂かなければ。

 そこまでして頂いたのに、無理に起きて下さい、なんて言えますか?

 それこそ、神に対する冒涜だと思いませんか?」


「ううむ・・・」


 ぱ! とクレールが手を挙げて、


「質問です!」


「はい。何でしょう」


「魔王様が弱者って、神様や悪魔って、どのくらい強いんでしょうか?」


「おお、そうだ。クレール様、それは気になります」


 私も私も、と周りが頷く。

 マツがちらちらと周りを見てから、皆を手招きし、しっと口に人差し指。

 皆もちらちら周りを見ながら、マツに顔を寄せる。


「これは魔王様の体面にも関わるお話しです。

 皆様、ここだけで、絶対にお話しになりませんように。

 話したのがバレたら、これですから」


 マツが首に、とん、とん、手刀を当てる。

 うん、と皆が真剣な顔で頷く。


「・・・これ、我が家の初代の記録ですけど・・・

 ほらばなしかもしれませんから、そこはご了承下さい。

 記録には、若き日の魔王様が、神に腕試しを挑んだ事があったとか」


「ええー! どっどど、どうなったんですか!?」


 マツは大声を出したクレールの口に、人差し指を当てて、にっこり笑って、


「神は笑った、魔王様の前に立ち、額を指で軽く弾いた、魔王様は山の向こうまで飛んで行った、何日も帰らず、皆が心配をし、やっと帰った魔王様を、クレール様のご先祖様が随分とお叱りに。魔王様は飯抜きでずっと正座をしていた、と記述がありました」


「それ、本当のお話でしょうか・・・」


「うふふ。魔王様に尋ねないと、本当かどうかは分かりませんけど・・・

 クレールさんの家にも、探せばその時の様子の記録があるかもしれませんね。

 他にも、魔王様の恥ずかしい記録が、沢山見つかったりして」


「探してみます!」


 クレールが笑った。

 これは、おそらく事実だろう。

 マツが魔王様から直に聞いた話。

 若く、血気盛んだった頃の、魔王様の失敗談のひとつだ。

 にこっとマツが笑って、顔を寄せ合った皆も元に戻る。


「神や悪魔と言われる者達は、私達とはそれ程の隔たりがある、と言う事です。

 気を付けて頂きたいのは、皆様、普通に感情があるということ。

 創造の神のような、ただ優しく、全てを助ける、という存在ではないのです。

 喜び、怒り、哀しみ、楽しみ。嫉妬もしますし、拗ねたりもします。

 そんな方々の怒りを買えば、もし機嫌を損ねたら・・・ね?」


 ごく、と皆が喉を鳴らす。

 魔王様を指先だけで、軽くのしてしまうような存在の怒り・・・


「国の存亡をかけた戦! お力を! なんて程度で起こしたりしませんように。

 神から見れば、お前達が勝手に喧嘩を始めたのに、なぜ自分が、ですもの。

 当時から見れば人口は遥かに増えておりますし、気にもなさらないでしょう。

 そんな理由で起こされてしまっては、逆にお怒りを買ってしまうかも」


 国程度。

 神にとっては、一国などその程度の存在なのか。


「まあ、そうして、神のお力で、魔の国の各地も安定してはきましたが・・・

 数が増えてきたので、種族間や地域間で、争い事も出るようになりました。

 悪魔は眠っても、魔獣はそのままおりましたし」


「魔王様の統治は、そこから始まったのですね」


「ええ。その頃には、我が家も代替わりしていて、記録が抜けている所もありますが、武器を振るう事もあり、話し合いに行く事もあり。でも、元々は、ただの無頼の輩の集まりから始まったのが、魔の国なんですね」


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