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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十八章 お七夜
475/762

第475話


 ホテル・ブリ=サンク、ロビー。


 また馬車が到着して、4人入って来た。


「あ、ラディさん達ですね」


 イマイも一緒に来ている。

 同じ馬車に乗ってきたようだ。

 マツやカゲミツ達が立ち上がる。


 4人が記帳を終わらせると、マサヒデ達を見つけて、歩いて来る。

 イマイが先頭で、マサヒデ達の前で足を止め、ぴし! と頭を下げる。

 あ、とラディ達も慌てて頭を下げる。


「トミヤス様、本日はお招き、ありがとうございます」


 マサヒデ達も頭を下げ、


「ご足労頂き、ありがとうございます」


 イマイが頭を上げて、にっこり笑った。

 アルマダが1歩前に出て、


「皆さん、こちら、火付盗賊改のお奉行、ノブタメ=タニガワ様。

 同じく同心のハチ様です」


「いつもお世話になっております」


「タニガワ様、こちら、研師のイマイ様と、鍛冶師のホルニ様御一家。

 イマイ様は、マサヒデさんの腰の物の研ぎを手掛けて下さいました方。

 ホルニ様は、マサヒデさんのお子様の守り刀を手掛けて頂きます方です。

 カゲミツ様のご所蔵にも、ホルニ様の作があります」


 おお! とノブタメが声を上げ、


「おお! あなたがイマイ殿か! ううむ、お噂はかねがね・・・

 ホルニ殿・・・うむ、トミヤス殿の守り刀を手掛ける御方となりますと、やはり、恐ろしい腕をお持ちなのですな」


「いえ、大したものでは。まだまだです」


 ホルニが縮こまって、頭を下げる。


「や、そうお固くならず、頭を上げて頂いて。

 まあ、火盗の奉行となりますと、心休まるものではありませんでしょうが」


「は・・・失礼を」


 イマイは場に慣れているからか、そう固くもなっていないが、ラディの一家は、まだ人も多くはないのに、がちがちになっている。外の警備を見て、緊張してしまったのか・・・と、


「ああっ!」


 ラディが声を上げ、ホルニの腕をぐいぐい引っ張り、マサヒデの刀を指差す。

 ん? とホルニが顔を上げて、マサヒデの刀を見て、目を見開く。


「こっ・・・コウアン・・・」


 ホルニの小さな声を聞いて、びく、とカゲミツが動きを止めた。

 きりきりきり・・・

 と、ゆっくりマサヒデの方に顔を回し、ば! とマサヒデの両肩に手を置く。


「マサヒデ! てめえ、やっぱり!」


「似ているだけです」


 ぶんぶんとマサヒデを前後に揺らす。


「嘘つくんじゃねえ!」


「拵えが派手だから、そう見えるだけです」


「お前っ! ホルニさん達が見間違えるはずねえだろうが!」


「誰にだって間違いはありますよ」


「マサヒデ!」


 イマイやホルニ達、ノブタメとハチが驚いてカゲミツとマサヒデを見る。

 マツ達はくすくす笑っている。

 マサヒデはカゲミツの手を掴んで肩から下ろし、ラディの前に進み、


「ラディさん。これ、酔い止めです。

 即効性の物ではないので、始まる前に飲んでおいて下さい」


 と、袂からカオルからもらった酔い止めを出して、ラディの手に握らせる。


「あっ・・・ありがとうございます」


 アキの前にも歩いて行き、


「母上。これ、酔い止めです。すごく良く効きますよ。

 ただ、即効性ではありませんので、始まる前に飲んでおいて下さい」


「ありがとう、マサヒデ」


 さささ、とイマイがマサヒデを挟んでカゲミツから隠れるように立ち、


(ちょっと、トミヤスさん)


「ん?」


(カゲミツ様。大丈夫? 取られない?)


(多分、何とかなります)


(凄い勢いだったよ)


 ちら、とイマイがカゲミツの方を見ると、凄い顔でマサヒデを睨んでいる。


(すっごい見てるよ? 大丈夫?)


(マツさんも、クレールさんも、この刀、気に入ってるんです。

 あの2人に止められたら、無理矢理に持ってく事なんてないと思います)


「イマイさんよおー」


 カゲミツが声を掛ける。

 大きな声ではないが、すごい迫力だ。


「は!」


 ぴし! とイマイが背を伸ばす。


「何こそこそ話してやがる。

 今、アルマダが言ってたな。それ、研いだの、あんただな」


「はい!」


「あんた、それどう見た。贋作か?」


 ええ・・・とイマイが目をマサヒデに向ける。

 マサヒデが苦笑して頷く。

 イマイがカゲミツから目を逸し、


「ええとー・・・いやあ、何て言うか・・・本物、です、かね・・・」


「マーサヒデぇー!」


「ははは! さすがは父上! お目が高い!」


 は、と気付けば、恐ろしい顔のカゲミツがマサヒデの目の前。

 誰の目にも動きが見えなかった。

 うお、と皆が驚いて目を見開き、口を開ける。


「てめえ! てめえ!」


「やめて下さい、父上。皆様がそこに居るんですよ」


「関係ねえ! 親に嘘つくたあ、どういう了見だ!」


「だって、父上、欲しがるでしょう」


「当たり前だ!」


「駄目です」


「寄越せ!」


「嫌です」


「ち、く、てめえ・・・良い度胸だ・・・」


 ばん! とマサヒデを押し、どすどすとソファーまで歩いて、三大胆を取る。

 あ! とノブタメが声を上げ、


「カゲミツ様!?」


 ノブタメの声を無視して、ぐっと三大胆を腰に差す。


「そこまで言うなら!」


 と、柄に手を掛けた瞬間。

 ふいっとマサヒデが横を向いて、


「父上ー! まさかー! 刀欲しさにー! 子に刀を向けるんですかあー!」


 マサヒデの大声がロビーに響く。

 給仕達が足を止め、マサヒデに目を向ける。

 ぴく、とカゲミツが止まる。


「剣聖ともあろう者があー! 刀欲しさにー! 子に刃を向けるとはー!」


 しーん・・・

 ロビーの皆がマサヒデとカゲミツを見ている。

 ぎりぎりぎり・・・カゲミツの歯ぎしりの音が聞こえる。


 ばたん! とマサヒデが膝を付き、頭を抱え、


「あー! これが剣聖かあー! 我が父ながらー! なーんて情けなーい!」


「く・・・く・・・く・・・」


 カゲミツの肩が震えている。

 皆、カゲミツの気迫におされ、声も出せず、息を飲んでいる。


「く・・・すうー・・・ふうー・・・」


 と、カゲミツが深く呼吸して、力を抜いた。

 固い笑顔で大きく笑い出し、


「はっ! ははははは! いやあー! 悪ふざけが過ぎたなあ!

 ちょっとした試験! な! お前がどんだけ出来たのか、試しただけ!

 ははははは! 勘弁して?」


 マサヒデがすいっと立ち上がって、にやっと笑った。


「ははは。父上、悪ふざけも過ぎますよ。

 ほら、皆さん驚いてしまって」


「てっ! てめえ・・・」


 きりきりと歯噛みしながら、腰に差した三大胆を取る。

 ぶんぶんと手を振りながら、


「やーあ! 皆さん! 驚かしちまってすまねえ! はははは!

 ちょっとした稽古みたいなもんだよー!」


 固い笑顔でどすどすとソファーに歩いて行き、ばすん! と座って、三大胆を投げ出す。鋭い目を給仕に向け、


「茶あ、くれ」


「は!」


 給仕が恐る恐る、カゲミツの前に茶を差し出す。

 マサヒデが歩いて来て、マツの後ろに立つ。


「覚えとけよ」


「相応の物と交換なら構いませんよ。

 だから、無理矢理にでも欲しいなんて、言わないで下さい。

 人前なんですよ? 全く・・・」


「ち・・・」


「マツさんとクレールさんも、これ気に入ってるんです。

 交換するにしても、お二人が気に入る物にして下さいよ」


「はあー・・・分かったよ! 俺も大人気なかったよ! 悪かったあー!」


 ぷん! とカゲミツが横を向く。

 くす、とマツが小さく笑って、皆も小さく笑い出した。

 場の雰囲気が変わって、周りの者達も、ほっと息をつき、胸を撫で下ろす。


(中々やる。やはり、練れているな)


 ノブタメがにこにこしながら、顎に手を当てて小さく頷く。


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