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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十八章 お七夜
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第474話


 ホテル・ブリ=サンク、ロビー。


 先程到着した、見た事のない男にマサヒデ達が挨拶をしていると、ああっ、と外の警備の者が大きな声を上げた。

 マサヒデとアルマダがぴく、と入り口の方を向く。


「あっ・・・もしかして」


「来られましたかね?」


 マサヒデが窓の方へ数歩歩いた所で、


「カゲミツ=トミヤス様! ご到着!」


 と、声が上がった。


「・・・もう来たのか・・・」


「あ! お父上ですね!」


「お父様が来られましたよ!」


 マサヒデ達が窓の方へ歩いて行く。

 きり! とした顔のカゲミツが、馬上でゆっくりと周りを見渡している。

 少しして、ば! と黒影から降りると、横の門弟が黒影の口を取って、繋ぎ場へ引いて行く。


 後ろの馬車が開き、アキが不安そうな顔で歩いて来て、カゲミツの少し後ろに立つと、門弟達が駆け出して、入り口からずらりと左右に並んだ。


 にや、とカゲミツが笑い、アキと歩き出すと、門弟達が、す、す、す、と順に頭を下げる。外で警備の奉行所の与力達が、目を丸くしている。


 入り口でカゲミツが足を止め、マサヒデ達の方を、ちら、と見て、受付の方へ歩いて行き、懐から招待状を2枚出して、すっと差し出した。受付の者が驚いている。


「マサヒデ=トミヤスの父、カゲミツ=トミヤス」


 くい、と後ろのアキを親指で差して、


「こっちは、マサヒデ=トミヤスの母のアキ=トミヤス。

 招待状の確認を頼む」


「は!」


 ぺら、と封を開け、中を取り出し、


「確認致しました! こちらにお名前を願います!」


「うむ」


 さらさらと名前を書いて、


「ご苦労」


 と、くるりと振り向いて、マサヒデ達の方を見る。


「あなた、書きました」


 ちら、とアキの方を向いて、にやりと笑い、


「さ、挨拶に行こうぜ」


 マサヒデ達の方に歩いて来る。


(来てしまった)


 ちら、と雲切丸に目をやって、頭を下げる。

 アルマダ、シズク、カオルも頭を下げる。

 マツもタマゴを抱えて、頭を下げる。

 クレールはドレスの端をつまんで、優雅に頭を下げる。


「よう、マサヒデ! おいおい、マツさん、今日はすげえな!」


「うふふ。お父上」


 すっとマツが頭を頭をあげると、ドレスがきらきらと輝く。


「お、おお・・・今日のマツさんは、文字通り、輝いてるな・・・」


「ま! お上手ですこと! おほほほ!」


「い、いや、ほんと・・・」


 カゲミツが、こくん、と小さく喉を鳴らす。

 後ろでアキが「まあ!」と声を上げる。

 外でがらがらと馬車の音。

 また誰か来たようだ。


「む、父上。あちらにソファーがありますので」


「だな。立ち話もなんだし」


 目をやると、ソファーの側に3人の男。

 1人はどこぞの貴族か? 大した事はなさそうだ。

 2人は奉行所の。おそらく、話に聞いた鬼のノブタメと、その部下か・・・

 くる、とマサヒデが振り向いた時。


(む!)


 カゲミツの目が見開かれた。

 あの刀はマサヒデのか!? あれは一体!?

 派手な拵えも凄いが、醸し出す空気が尋常ではない!

 あれはただの名刀ではない・・・


「・・・」


 目を細めて、ちらちらマサヒデの刀に目をやりながら、後に付いて行く。

 近付いて行くと、男達が立ち上がって頭を下げた。


「どうも。お初にお目にかかります。

 私、火付盗賊改のノブタメ・・・」


「私、オリネオ商工会の・・・」


「どうも、初めまして。マサヒデの父、カゲミツ=トミヤスです」


 と、適当に頭を下げたが、マサヒデの刀が気になって仕方がない。

 相手の挨拶は右から左に抜けていく。


 腰から三大胆を抜いて、ぼすん、とソファーに座り、隣にアキが座る。

 向かいに、マツとクレールが座る。

 給仕が茶を差し出す。


「ありがとよ」


 と、声を掛け、ずずうー・・・と茶を啜る。

 ちらちらと、マツの後ろに立っているマサヒデの刀に目をやっていると、


「お父上」


「ん! あ、ああ、何だい?」


「ほら、見て下さい。今日も元気ですよ」


 マツがテーブルにタマゴを置いて、掛けられた袱紗を取る。


「む・・・」


 ノブタメから小さな声。

 ハチから聞いてはいたが、ここまでとは。なんと禍々しい姿か・・・

 顔には出さず、にこやかに笑って、


「おお、これがお子ですか! うむ、健やかに育っておりますな」


「あら」


 マツとクレールが驚いて顔を上げ、ノブタメの顔を見つめる。


「む? 何か」


 くすくすとマツが笑い出し、次いでクレールも笑い出す。


「うふふ。タニガワ様! 正直に驚いて頂いてもよろしいんですよ!」


「あはは! 初めて見る人、皆、驚きますものね!」


 横でマサヒデ達もくすくす笑う。

 ノブタメは苦笑して、


「や、はは。これは見抜かれましたか・・・」


 ハチもにやにや笑って、


「ほおら、タニガワ様、言った通りでしょう? 絶対に驚くって」


 ノブタメが、ぱちん、と額に手を当て、


「ううむ! 参った! ははは、いや、実は驚きました。

 顔に出さないようにするのが精一杯で」


 マサヒデが笑いながら、


「ははは! 叩いたりしなければ、火は吹きませんから、ご安心下さい」


 ぷ! とシズクが吹き出す。

 カゲミツもげらげら笑い出して、


「ははは! マサヒデ、お前、自分の子にそれはねえだろ!

 お奉行様よ、このタマゴは何もしねえから、安心してくれ!

 見た目はこの通りだが、やっぱりただのタマゴなんだ!」


 ぽんぽん、とカゲミツがタマゴの頭を軽く叩く。


「ふ、ははは! や、失礼致しました! ははは!」


 ノブタメも声を上げて笑い出した。



----------



 ぐいっと紅茶を飲み干し、カップを置いて、カゲミツがマサヒデの方を見る。


(来るな)


 にこにこしながら、マサヒデの背にぴりっと緊張が走る。


「ところでさ、マサヒデ」


 ちら。アルマダがマサヒデを見る。

 ちら。カゲミツの後ろのカオルが、マサヒデを見る。

 マツとクレールも、あ、来たな、と目を見合わせる。


「そーの刀ぁ・・・ちょおーっと、見せてくれねえかな?

 すんげえ拵えじゃねえか! 青貝なんて、滅多に見られねえもんよ!」


「・・・」


 腰から抜いて、カゲミツの横に膝を付き、両手で上げる。


「ほう」


 カゲミツが受け取って、じーっと見る。


「こりゃあ年代物だな。形からして、多分、古刀だよな。

 7、800か・・・いや、もっと前かな?」


 鞘を着けたまま、柄を握る。


「おう! なんだこりゃあ! すげえ釣り合いの良さじゃねえか!

 ふうん・・・ふんふん・・・」


 くい、くい、と手首を動かす。


「ここで抜いちゃあ・・・だよな」


 ちら、とノブタメの方を見ると、ノブタメが笑って軽く首を振る。


「鍔元の少ーしだけ・・・お奉行様! どうです?」


 カゲミツが片目を瞑り、親指と人差し指で、これだけ! と示す。

 ふ、と苦笑して、ノブタメが頷く。


「へへへ・・・じゃあ、マサヒデ。見せてもらうぜ・・・」


 くい。


「う! こりゃあ!」


 カゲミツの目が驚いて開いた後、きっと細められる。

 ゆっくり目の前に上げて、じーっと見る。

 窓開けされた、鍔元2寸。

 ロビーに入る日の光を浴びて、きらきらと輝く。


 小板目肌。地沸。地斑。

 鍔元2寸では刃紋が分からないが、この肌の特徴と、この鮮やかさは・・・


 つー・・・とカゲミツの額に汗が垂れていく。


「マサヒデ・・・お前・・・」


「何でしょうか」


 カゲミツは軽く首を振って、笑い出した。


「ふ、ふふふ、まさかな・・・ははは! まさかな!

 はーっはっは! んな訳ぁねえ! そうさ、似てるだけだ!」


 くい、と鞘に納め、マサヒデに突き返す。

 マサヒデが受け取って、腰に戻す。


「いやあ、良く出来てる、良く出来てる!

 うんうん、これ程の出来なら、贋作でも使えるよな!」


「はい。十分使えるかと思いまして」


 後ろでノブタメとハチが顔を見合わせ、小さく肩を竦める。

 カオルとシズクも、くす、と小さく笑う。

 がらがらと馬車の音がして、また誰かが到着した。


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