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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十八章 お七夜
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第473話


 ホテル・ブリ=サンク、ロビー。


 皆が座った所で、カオルが指示を出し終えたのか、外から入って来た。

 ノブタメの横に立ち、綺麗に頭を下げ、


「タニガワ様、本日はご足労、ありがとうございます」


「おお、あなたは確か・・・ふふふ」


 カオルを見て、ノブタメが笑顔を浮かべる。


「や、先日はお世話になりましたな」


「恐れ入ります」


 お。これは良い機会だ。

 カオルの隠した武器を、ノブタメに見てもらおうか。

 マサヒデはにやにや笑いながら、


「カオルさん」


「は」


「折角の機会です。タニガワ様に、見てもらいましょう」


「見てもらう・・・何をでしょう?」


 マサヒデはノブタメの方を向いて、


「タニガワ様。ご存知の通り、カオルさんは忍です。

 今も色々仕込んでますけど、どこに仕込んでいるか教えてもらえませんか。

 私も、どこに仕込んでいるかは知りません」


 ぴく! とカオルが頭を下げたまま固まる。

 ノブタメが、お? という顔をして、にやっと笑う。


「ふふふ。トミヤス殿、それは私に対する挑戦状という奴ですか」


「いや、そうではないんです。

 カオルさん、隠し方が下手なんですよ。

 一応、注意はしたんですけど、直せたのかどうか。

 上手く隠せているか、タニガワ様に見てもらえれば、と」


「ええー! カオルさん、すごい隠し方してたじゃないですか!」


 クレールが声を上げる。

 マサヒデは笑って、


「ははは! クレールさんは分かってませんね!

 実は、あれじゃあ、すぐばれちゃうんですよね」


「むー・・・そうだったんですか・・・」


 ハチがノブタメの後ろで、す、と小さく鼻を鳴らす。


「あ、そうそう。ハチさんは目で見て下さい。鼻はなしで」


「むっ! トミヤス様、それは難しいですよ!」


 ノブタメが厳しい顔で後ろに立っているハチに振り向いて、


「おい! ハチ、それでは同心失格ではないか。

 一目で分かるようにせよ」


「は・・・」


 ノブタメは立ち上がり、


「さ、カオル殿。頭をお上げ下さい」


「は」


 カオルを見ながら、ノブタメがくるりと一回り。

 正面に戻って、反対にもう一回り。

 正面に戻り、うんうん、と頷く。


「ほう。いや、上手い隠し方をするものです。

 さて・・・うむ、ハチ。お前も見てみろ。鼻は使うなよ」


「は」


 ハチがカオルの前に立ち、じっと上から下まで眺める。

 じろじろ・・・

 ぷっとアルマダが吹き出して、


「ハチ様! それじゃあ痴漢みたいですよ!」


「あははは!」


 と、シズクが膝を叩いて笑い、マツとクレールは口を押さえている。

 う! とハチが顔を上げると、カオルが気不味い顔で、目を逸らす。


「あ、いやいや! あ、その、失礼致しました・・・申し訳ありません!」


 と、頭を下げる。

 ノブタメもにやにや笑いながら、


「ふふふ。さあ、ハチ。見抜いてみせろ。

 さあてと・・・当たっているかな? 私が分かったのは、この程度・・・」


 ノブタメが懐紙を出して、すらすらと書き、懐にしまう。


「ううむ・・・?」


 ハチが眉を寄せて、カオルの周りをぐるぐる回る。


「ハチ。そこまでだ。分かった物を書け」


「は」


 ハチが懐紙を出して、すらっと書く。


「では、カオル殿。答え合わせといきますか。

 さあ、ハチ。見てもらえ」


「は。こちらで」


 ハチがカオルに懐紙を差し出す。


「・・・」


 ちら。

 ハチが真剣な顔でカオルを見ている。

 気不味そうに、カオルが懐紙を畳んで、


「ハチ様。申し訳ありませんが、正解、1。懐の短銃だけ」


「え」


「ははははは! ハチ、まだまだだな!」


「う、ううむ・・・面目もございません」


 ぺこりとハチが頭を下げる。


「では、カオル殿。こちら私の」


 ノブタメが懐紙を差し出して、


「は」


 と、カオルが受け取り、目を通す。


「む、む、む・・・」


「見落としはいくつありましたかな」


「2、あります。書かれているものは、全て正解です」


 ノブタメが渋い顔をして、顎に手を当てる。


「ううむ・・・私もまだまだですか!」


 マサヒデが笑いながら、


「カオルさん。いくつ見抜かれました」


「7、です」


「絶対にバレないと自信があったものは、見抜かれましたか?」


「はい」


「では、見つからなかった所を参考に、隠し方をもう一度考えて下さい」


「は。タニガワ様、ハチ様、ありがとうございました」


 カオルが頭を下げると、ノブタメが笑いながら、席に戻る。


「ははは! いや、面白い余興でしたな。私も勉強になりました」


 ノブタメがカオルの方を向いて、


「して・・・残りの2つは教えて頂けましょうな?」


「それは・・・」


 目を泳がせるカオル。

 マツが笑って、


「うふふ。タニガワ様、ここはお見逃ししてくれませんか?

 カオルさん、お仕事が出来なくなってしまいますもの」


「ははは! いや、それはそうですな! では、またの機会にでも」


 ノブタメがにこにこしながら、席に座った。

 がらがらと馬車の音。

 ノブタメが入り口の方を向く。


「む、トミヤス殿」


 アルマダも入り口の方を向いて、


「マサヒデさん。そろそろ来ますよ。力を抜く」


「ううむ・・・はい」



----------



 時刻は申の刻前―――


 オリネオの町、入口。


「んん?」


 衛兵が声を出す。


「なんだ?」


「あれ、見えねえか?」


 街道の向こうを指差す衛兵。

 ずらずらと歩いて来る集団。


「キャラバンか?」


「違くねえか? 馬車がねえな?

 あいや、後ろー・・・に一台あるな。でも小せえぞ?」


「んんー?」


 衛兵2人が目を細める。

 段々、集団が近付いてくる。


「う?」


 どす、どす、どす・・・

 ざ、ざ、ざ、ざ・・・


 大きな馬に跨った男。

 後ろには、槍を持った者がずらり。


「ありゃあ、剣聖のカゲミツ様じゃねえか!? 前にも見たぞ?」


「にしても・・・なんだあの馬!?」


「ありゃあ、トミヤス様んとこの馬だ。ばかでけえのが1頭あるんだ・・・」


 衛兵が見ていると、行列が近付いてくる。

 街道をおれて真っ直ぐ、町に向かってくる。

 衛兵達の前で、派手に飾り付けられた馬に跨ったカゲミツが笑い、


「ご苦労!」


 と、一声かけて、そのまま町の中に入って行く。

 従っていく者達も、軽く目礼して行く。

 後ろから、がらがらと派手な馬車が付いて行く。


 通り過ぎてから、衛兵達が振り向いて、町の中を覗く。

 通りの左右に町人達が並び、ざわざわしながら、カゲミツの行列を見送る。


「おいおい・・・何だありゃあ・・・」


「さっきもトミヤス様ん所から、すげえ馬車が出てったな」


「おお。目が潰れるかと思ったぜ」


「もしかして、誰かえれえお人が来るのか? あんなんで来るとはよ」


「いや、そんな報せは出てねえが・・・」


 馬上で左右に手を振りながら、カゲミツが遠ざかって行く。


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