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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十八章 お七夜
472/762

第472話


 ホテル・ブリ=サンク、ロビー。


 アルマダがくるり、くるり、と周りを見る。


「おや。もう誰かは来ていると思いましたが・・・」


 クレールも、あれ? と周りを見渡し、


「そうですねえ・・・ちょっと意外ですね」


 マツがカップを置いて、


「あ、そうでした。招待状をお送りしたのは、ほとんどこの町の方々ですよね。

 じゃあ、あまりがつがつした方はおられないでしょう。

 要職の方々は、大体、私とはお知り合いですし」


「ああ! そういえばそうですよね。

 はは、マサヒデさん、脅し過ぎちゃいましたね」


「ええ・・・」


 ふ、とアルマダが苦笑して、ぱん! とマサヒデの背中を叩く。


「マサヒデさん、しっかりなさい。

 カオルさんから聞きました。奉行所にも、警備をお願いしたのでしょう?

 お奉行様も、もうすぐ来られますよ」


「あ、はい、そうでした」


「その後、すぐに他の方々も来られます。

 マツ様とクレール様が囲まれるのは分かっています。

 私とカオルさんで、出来る限り、貴方を助けます。助けますが・・・」


「が・・・なんでしょう?」


「貴方も囲まれるかもしれませんから、覚悟はしておいて下さいよ。

 この町の要職の方々が多いという事は・・・分かりますよね?

 貴方、試合でこの町に大きく貢献してるんですから。

 間違いなく、来ますよ。我々の手助けにも、限界があります」


「うっ・・・」


「普通に『来てくれてありがとうございます』『いつもお世話になっております』とか、適当に挨拶をして、適当に話をしたら、『これからも宜しくお願いします』で良いんです。腰が引けてると、貴方の子も甘く見られるという事をお忘れなく」


「む」


 自分とマツの子が甘く見られる。

 それはいけない。


「ううむ・・・アルマダさん!」


 急にマサヒデの目に火が入った。


「な、なんです」


「頑張りますよ!」


「ええ、頑張って下さい?」


「はい・・・」


 まるで戦いに向かうような目をしている。

 大丈夫か?

 マツもクレールも、ぽかん、として、マサヒデの変わり様を見ている。


「マサヒデさん。言っておきますが、気合の入れすぎはいけません。

 初めてギルドで交渉した時と同じ。こういうのは武術と通じる所があります。

 特に、パーティーはそれが顕著です。

 脱力ですよ。全身の力を抜いて、力は最小限」


「む・・・なるほど」


「力を入れすぎると、簡単にやられます。

 マサヒデさんなら分かりますよね。

 さあ、まずは脱力して」


「はい」


 すうー、と息を吸って、かくん、と肩を落とす。

 身体の力を抜いて、深く呼吸をし、丹田に・・・


「宜しい。身体が固くなると、心の芯も固くなる。

 では、そのまま、力を抜いておいて下さい」


「はい・・・」


 アルマダが立ち上がり、マサヒデの後ろに立って、肩に手を置く。

 正面のマツとクレールに向かって、ぱち、と片目を瞑る。

 横にいる給仕にも、軽く笑って口に人差し指。


「む。まだ少し抜けきっていませんね。

 もう一度、力を抜いて」


「はい」


 すうー・・・


「・・・うん。大丈夫でしょう。

 マサヒデさんは、言葉遣いに関しては、特に気を付ける事はない。

 普通に喋っているだけでいけるはず」


「む・・・そうですか」


「少しでも身体が固くなった、と感じたら、脱力です」


「はい」


 にやっとアルマダが笑い、マツとクレールがにっこり笑う。

 ぼすん、とアルマダがマサヒデの隣に座り、


「マサヒデさん。何事も、武術に通じるということですよ。

 このような場では、心技体の心の部分が大きく物を言う」


「ふむ」


 アルマダが真面目な顔で、


「マナー等は、所謂、技の部分。心がなければ、所詮は小手先。

 なんなら、無くても良いくらいです。

 貴方程、心の部分が練れているなら、大抵の者は相手に出来るはず」


 なるほど。アルマダは、道場の中でも一番の努力家だ。

 心技体の心の部分は、マサヒデ自身も遥かにおよばないと感じている。

 そうか! だから、アルマダはパーティーでも平気なのか!

 マツもクレールも魔術師だから、心の部分はそれは練れている筈だ。


「ううむ・・・良く分かりました!

 アルマダさん、ありがとうございます!」


「何度かパーティーに出れば、身体が自然に分かる事です。

 まあ、いきなりの主役ですからね。

 これは分からなくても、仕方のない事です」


 と、アルマダは横を向いて、マサヒデに見えないように、にやにや笑う。


 随分と落ち着いた・・・と顔を上げる。

 はて。クレールが口を押さえ、横を向いて細かく震えている。


「クレールさん?」


「ぎょ・・・ごめんなしゃい、ちょっと、むせそうで・・・」


 ぶは! と横でシズクが紅茶を吹き出す。


「わ! シズクさん!?」


「ぷくっく・・・あ、あっつーい! 舌が火傷しちゃったあー!」


 マツ達にかからなくて良かった。

 ドレスが汚れたら大変だ。


「失礼しましたー! すぐにお取替えを!」


 慌てて駆け寄った給仕の顔が笑っている。



----------



 少しして、ノブタメとハチが入ってきた。


 お、とマサヒデ達の方を向いて笑顔を向け、受付に招待状を出し、記帳する。


 入り口でカオルが与力達の前で図を広げ、あっちこっち、と指を差している。

 与力達も、一見奉行所の者と分からないよう、普通の羽織袴だ。

 さすがに鉢金巻いて刺股を持って並んでいたりしたら、何か事件でも、と勘違いされてしまう。

 1人2人とロビーに入って来て、マサヒデ達に頭を下げ、壁に並んでいく。


 ノブタメが歩いて来て、マサヒデ達も立ち上がる。


「やあ、トミヤス殿。本日はお誘い、ありがとうございます」


「トミヤス様! お誘いありがとうございます」


 と、2人が頭を下げる。


「お忙しい中、ご足労頂き、ありがとうございます」


 マサヒデが頭を下げる。


(上手く行ったな)


 アルマダが心の中でほくそ笑みながら、頭を下げる。


「マツ様、此度はおめでとうございます。や、今日は一段とお美しい。

 ははは! 文字通り、輝いておりますな!」


「うふふ。タニガワ様、ありがとうございます」


「タニガワ様! ご足労、ありがとうございます!」


「クレール様。先日は・・・」


 あ! と、タニガワがマサヒデの刀に目を向け、


「それは! もしや?」


 ハチがにこにこしながら、


「タニガワ様、これですよ。どうです、すごい拵えでしょう」


「なんと、青貝!? 本物だったのか!?」


 む、とハチがノブタメに不満そうな顔を向け、


「ちょいとタニガワ様・・・私の言う事、お疑いだったんですか?」


「いや、そうでは・・・ううむ、すまん、ハチ。

 知らんだろうが、青貝の鞘と言えば、王族や上級貴族でも中々持てんのだ」


「え!?」


「それゆえ、似ている物を、見間違えただけかと思ったのだ。

 いや、これほど間近で見るのは初めてだ!」


 マサヒデはソファーに立て掛けてあった雲切丸を取り、


「どうぞ」


「よろしいのですか?」


「構いません。お好きなだけ」


「では、失礼して」


 ノブタメが雲切丸を受け取る。


「ううむ・・・鞘も見事だが・・・この鍔、まさか、金無垢?」


「いえ。鍍金です。金無垢じゃなくて良かったですよ。

 金無垢では、柔らかくて、すぐ痛めちゃいますし」


「むう・・・」


 ほんの少し傾けると、きらきらと鞘が輝く。

 ほんの少し回すと、また輝く。

 これはすごい。


「これ程、輝く物か・・・」


「100年以上前の物というのは確実ですからね。

 青貝は、時が立つほど、輝く物ですから」


「いや、恐れ入った! これは素晴らしい! ううむ、眼福でした」


 ノブタメは一礼して、両手で恭しくマサヒデに返す。

 マサヒデは軽く受け取って、ぽん、とソファーに立てかけた。


(これ程の物を、こんなに軽く扱うとは!?)


 研ぎも寝刃研ぎであったし、これ程に貴重な拵えの物を普通に扱う。

 ノブタメにはとても真似出来ない。


「お眼鏡に叶ったようで、良かったです」


「う、ううむ・・・いや、トミヤス殿には恐れ入りました」


「ははは! おやめ下さい。私なんか、この刀には負けちゃってますからね!

 腕が全然追いついてないんですよ!」


 ぽんぽん、とマサヒデが腕を叩く。


「ふふふ。腕はともかく、心の方はとうに追い越しているように見えますが」


「それこそ、まだまだ! 毎日、自分の心の未熟さを痛感してます」


 ノブタメがにっこり笑って、


「いや、お見事。さすがトミヤス殿です。感服致しました」


 マツもにっこり笑って、


「ソファーもあるのに立ち話もなんですから、皆様、座りましょう。

 お茶でも頂きませんか?」


「では、失礼致しまして」


 と、皆が座る。

 給仕が茶を出した所で、カオルが外から戻って来た。


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