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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十八章 お七夜
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第469話


 魔術師協会、奥の間。


 カオルに手伝ってもらいながら、マサヒデが紋服に着替える。


「着込みは無くても良いですかね?

 カオルさん達の警備もありますし」


「今の季節、紋服の下に着ていくと、少し暑いかもしれません」


「では、着込みは置いておきましょうか」


 ぱさり、と着込みを落としてから、


「あ、でも、アルマダさんもいつも服の下に着てるって言ってましたね。

 やはり着ておきますよ。少しくらい、暑くても我慢します。

 ホテルの中は、涼しいでしょうしね」


 着込みを拾って着る。

 するりと手首に手裏剣入れを巻く。


「短銃はどうしましょうかね? 無くても良いでしょうか」


 ちら、とカオルが考えて、


「会場内には、大小は持って入れませんし、鉄扇と棒手裏剣だけでは不安が。

 私も服に仕込んだ物はありますが、短銃も懐に忍ばせて行きます」


「では、私も持って行きますか。

 少し脇の方にずらしておいた方が良いかな。

 見えると物騒でしょうし・・・」


「その方が良いでしょう」


 短銃を差し込んで、羽織を着る。


「短銃、見えます?」


「大丈夫です」


 羽織を取って、


「持ってるって分かりますかね?」


 す、す、とカオルが素早く左右に回る。


「大丈夫でしょう。カゲミツ様や、奉行所の方々には分かるかもしれませんが。

 あ、マツモト様にも分かってしまいますか」


「ふむ」


「まあ、見て分かってしまう方々は、皆様、気になさらないでしょう。

 それより、手首の棒手裏剣は、もう少し上に上げておいた方が」


「ああ、そうか。これだと、袖が少し上がっただけで見えますもんね」


 少し緩め、肘の方まで上げて、締める。


「左手を上げてみて下さい」


 すっと上げると、カオルが前から見る。


「ううむ・・・左手は、肩より上に上げない方が宜しいでしょう。

 肘から先は、あまり上に向けませぬよう、お気を付け下さい。

 やはり、少し袖が上がると、見えてしまいます」


「む、左袖には気を付けます」


「グラスを上に上げる時などは、右手で持つようにしましょう」


「ですね。うっかり袖が捲れてしまうと、あいつ何か隠し持ってる! なんて・・・そんな目で見られたくないですし、不安がらせてもいけませんし」


「かと言って、何も持たずに、では、ご主人様も不安もございましょう」


「ううむ・・・帯に挟み込んでおきますか?」


「お試し下さい。見てみます」


 1本抜いて、帯に差し込む。


「これだと、落ちてしまいますかね?」


「手裏剣の先を、帯の内側に軽く刺しておくのです」


「あ、なるほど」


 手を突っ込んでみる。


「ううむ・・・抜きづらいですね。

 面倒ですが、やはり腕に巻いておきます」


「では」


 ささ、とカオルが羽織を着せて、着替え終了。

 もう一度、薬をまとめた紙を開けて、中を確認。

 袂に薬と覚書、念珠を入れ、鉄扇を差して、香水の小瓶を取る。


「良し、と。忘れ物はないか、な・・・」


「お似合いでございます」


「では、シズクさんをお願いします」


「は」



----------



 居間の廊下にカオルが手を付く。


「ご主人様、終わりました」


「あーあ、面倒ですよねえ・・・」


 と文句を言いながら、紋服のマサヒデが戻って来る。


「わあー! ・・・マサヒデしゃま・・・」


 じわ、とクレールの目に涙が浮かぶ。


「ぐしゅ・・・」


「ええ!?」


 皆が驚いて、クレールを見る。


「どうされました!?」「大丈夫!?」


 マツとシズクが慌ててクレールの肩に手を置く。

 きらり!

 マツのドレスが光る。


(う!)


 思わず目を背けそうになったが、すっとクレールの前に座る。

 クレールが、ぐぐっと力を入れて、涙を抑え、目の端をハンカチで押さえる。


「あの・・・レストランで見た、マサヒデ様、思い出して・・・」


「ふっ・・・ははは!」


 ぷ、とマツも吹き出す。

 後ろで、カオルも小さく笑う。


「も、もう! 皆さん! 笑うことはないじゃないですか!」


「ふふふ。今でもそんな風に思って頂けて、ありがたい限りですよ」


 マツもにっこり笑って、


「うん、大丈夫。今回は、お化粧は崩れてませんよ」


 くす、とカオルが笑って、


「さ、シズクさん。服を持ってきて下さい。着替えましょう」


「はいよー!」


 にこにこしながら、シズクが羽織袴を持って、奥に入って行く。

 ふう、と落ち着いて、マサヒデもマツも座る。


「さて・・・と」


 床の間の刀架から、脇差を取って差す。

 雲切丸を手に取る。


(ううむ)


 さすがにマツのドレスほどではないが、やはり光っている。

 鞘の青貝の粉末が、きらきらと日の光を反射する。

 よいしょ、と立ち上がって、腰に差す。

 横を向いて、マツとクレールに見せ、


「マツさん、クレールさん、どうですかね、これ」


 2人はにっこり笑って、


「ほらやっぱり! お似合いですよ」


「格好良いです!」


 マツとクレールは笑顔を見合わせて、


「私達の見立に間違いはありませんもの!」


「ですよね!」


 ふふ、と笑って、よ、と腰から抜いて、刀架に戻して座る。


「後は、父上に取られないようにするだけですね・・・

 ああー! もう不安ですよ! 父上、何て言ってくるでしょう!」


 がば! とマサヒデが頭を抱える。


「大丈夫ですよ、マサヒデ様。

 私達のタマゴが人質なんですから」


「ぷふー! マツ様、自分のお子が人質って!」


「うふふ! 変ですよね!」


 ふふん、とマツが笑い、


「マサヒデ様。寄越せと言われたら、まず大声ですよ。

 父上ー! 私の刀を奪う気ですかー! って。

 皆がお父上と、雲切丸を見ます」


 にこ、とクレールも笑う。


「こんな目立つ刀が無くなったら、すぐばれちゃいますもんね!

 お父上も何も言わなくなりますよ! ねー、マツ様!」


「それでも強く言われたら、タマゴはお父様(魔王)に! ですよ。

 その刀、私もすごく気に入ってるんですから!」


「そうです! 私も大好きなんです!

 例えお父様といえど、守ってみせます!」


 マサヒデは笑って、


「ふふふ。ありがとうございます。

 これは三大胆と交換でも譲りませんからね」


 クレールがにこにこしながら、


「魔神剣と交換だったらどうします?

 ここに置くのは危険、マサヒデ様では扱えない、っていうのは無しにして」


 あの魔神剣と交換!

 持つ者は神にも悪魔にもなれると言われる、魔剣以上の剣、魔神の剣!

 マサヒデは腕を組んで、天井を見上げてから、ぐっと目を瞑って下を向き、


「ううむ・・・魔神剣ですか! 魔神剣! ・・・魔神剣か!

 どうしましょうか・・・これは・・・正直、迷ってしまいますね!」


「じゃあ、月斗魔神だったら?」


 マサヒデが「ぱん!」と手を合せて、頭を下げる。


「あー! マツさん、クレールさん! 申し訳ありません!

 それは交換しちゃいます! 許して下さい!」


「うふふふ」


「あはははは!」


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