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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十七章 パーティー準備
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第459話


 ついにパーティーは翌日。


 ちちち、と雀が飛ぶ早朝。

 マサヒデ、クレール、シズクが玄関に立つ。


「なあ、なんでお前も来るんだよ」


「シズクさんの按摩術に興味が」


「なんで昨日来なかったんだよ」


「ちょうど、ハチ様が来られましたもので」


「お前、ずっと忙しかったじゃないか。

 無理にでも休んでおけよ」


「平気です」


「じゃあ、マツさんの仕事、手伝ってやりなよ。

 お前、誰の字でも書けるんだろ?」


「もうほとんど片付いて、昼には終わるとの事で」


 むっすー、とシズクが頬を膨らませる。

 せっかく笑い転げようと思っていたのに、カオルが付いてくるなんて。

 見張られているようで、面倒だ・・・


「まあまあ、シズクさん、良いじゃないですか。

 何なら、カオルさんにも」


「ご主人様、私は肩こりなどございません」


「ま、そうですよね。私もありませんし。

 じゃ、行きましょうか」


「はあい」「はーい!」「は」



----------



 ずったらずったらとのんびり歩き、職人街。


「そうだ。シズクさん、今日は気を付けて下さいよ」


「んー? 何を?」


「また、町の人を呼ばないように。

 職人街の人まで相手してたら、明日までかかっちゃいますよ」


 シズクが顔をしかめ、


「うげえ・・・それはやだな」


「他の人にもって言われても、何とか断って下さいね。

 昨日のあの数、きっと、町中に知れ渡っちゃってますよ」


「うっそおー!」


「誰かに頼むって言われても、昨日だけの特別だったとか言って。

 人前でやりだしたら、そこら中から集まりますからね」


「うん、気を付けるよ・・・」


 シズクがげんなりした所で、


「あっ!」


 と、店の前を掃除していた男が顔を上げた。


「あんたあ、昨日の!」


 箒をぱたんと落として、シズクに駆け寄ってくる。


「いやあ、効いたよ!

 布団に入ったらどうだい、もう泥みてえに眠れてよ!

 さっきも目がぱっちりよ! 肩こり治すだけで、こんなに違うんだな!」


 これはもう職人街にまで広まってるな・・・

 マサヒデとクレールがシズクの顔を見る。

 シズクが苦笑いと照れ笑いの混じった笑顔を浮かべている。


「あー、あははー・・・そ、そう?

 いやあ、役に立ったかなあ・・・」


「どうだい、うちの母ちゃんにも、ごきっと一発、頼めねえかなあ?

 これ、弾むからさ! どうかな?」


 後ろからマサヒデが、下でクレールがシズクを突付く。

 シズクが目を泳がせながら、


「あー、その、ごめん! あれさ、昨日だけの特別だったんだ!

 ええと、本当は、あんま見せちゃいけないみたいな・・・

 あー! そうそう! 武術で言う奥義みたいな! そういう奴だから!

 あんまり、軽くやっちゃいけない奴だったんだよね! ごめん!」


 男が腕を組んで、神妙な顔でうんうん、と頷き、


「奥義・・・そうか、そりゃそうだよな、こんなにすっきりすんだもんな。

 ううむ、すげえ技を見せてもらったって事か・・・

 いや、残念だ。母ちゃんにもやってもらいたかったが」


「ごめんねー、そういう事だからさ!

 人前だとか人がいなけりゃとか、そういうのもないんだよ!

 もうやらないというか、やれない感じだから。

 師匠にバレちゃったら、私殺されちゃうからさ・・・」


 ぎょ! と男が驚いて、


「ええ!? 殺されるって、あんた・・・」


「あ! ああ、いいやあー! 教えてくれたの、同じ鬼族の武術家なんだよ!

 私みたいに、適当に武術やってるのとは違ってさ! 超すっごいんだ!

 えと、魔王様に「よ! 魔王さん元気?」て挨拶出来るぐらい、ヤバい人」


「うぇ!? ほんとかいそれ!? じゃあ、じゃあ・・・

 ちょっと、ねえさん、どうすんだい!? もう町中の噂だぜ!?」


「い!?」


 既に町中に広まっているのか!?

 シズクが背を仰け反らせる。


「やってたの、冒険者ギルドじゃねえか!

 すぐにそこら中に広まっちまうぜ!?

 魔の国まで届いたら、あんたやべえだろ!?」


 だらだらとシズクが脂汗を流す。

 ごん、こつん、とマサヒデとクレールがシズクを突付く。

 カオルの冷たい視線が突き刺さる。


「あーいやいや! 普段は山奥でずっと修行してるような人だから!

 100年とか、200年とか普通に!

 だからさ、降りてくる頃には、噂なんて消えてる・・・と、思う・・・」


 男は少しほっとした顔になり、すぐきりっと顔を引き締めて、


「そうか・・・ううむ、こりゃ、皆に口止めしとかねえとな・・・

 ねえさん、俺に任せとけ。町中にこの話して、箝口令敷いてやるから」


「え!?」


「鬼族って事は、かなりの田舎の出だろ。

 こういうのは、俺ら町人に任せとけ。

 明日には、だーれも口にしねえようになるから」


「う、うん、ありがと」


「ねえさん、もう少し気を付けなよ。

 うっかり乗せられて、人前でそんな奥義を出しちゃいけねえ。

 お人好しも良いが、何も命まで差し出す事ぁねえんだ! 分かったな!」


 ぱん! と男がシズクの腕を叩く。


「はい・・・気を付けます・・・」


 む、と頷いて、男は店先に戻って行った。



----------



 4人が職人街を歩く。


 マサヒデ達が呆れ顔で、


「シズクさん・・・あれはまずかったのでは・・・」


「これ、逆に話が大きくなって、どんどん広まってしまうやつですよね。

 見せたら死ぬ! 伝説の武術家の、幻の奥義を伝授された鬼!

 誰にも喋ってはいけない! みたいな感じで・・・」


「ご主人様、私もそう思います」


「う、ううん・・・どうしよう・・・」


 はあ、とマサヒデが溜め息をついて、足を止めた。

 後ろを振り向いて、


「シズクさん。先程の方に、本当は面倒だったから、嘘をついたと謝ってきなさい。あれだけ心配してたんです。それは怒るでしょう」


「だよね」


「でも、頭を下げて、何とか許してもらいなさい。

 母ちゃんにやってくれって言ってましたから、謝罪代わりにやってきなさい。

 変な噂が大きく広まるより、全然ましです」


「そうする」


「じゃ、私達は待ってますから」


「うん・・・」


 とぼとぼとシズクが戻って行った。

 マサヒデ達が長椅子で待っていると、しばらくして「ぎゃあー」と叫び声。


 ほ、とマサヒデが息をつく。

 クレールがにっこり笑う。

 カオルが呆れ顔で首を振る。


「ふう・・・許してもらえましたかね」


「伝説の奥義の鬼にならなくて良かったですね!」


「昨日だけの特別、で止めておけば良かったのに・・・

 嘘に嘘を重ねるから、ああなるのです」



----------



 しばらく待っていると、シズクが戻って来た。

 にこにこ笑いながら、手を振り、小走りでどすどす走って来て、マサヒデ達の前に立つ。


「許してくれましたか」


「うん! 最初は怒ったけど、すぐ笑いだしてさ!

 びっくりしたけど、話が面白かったからいいやって!

 お母さんにやってきたら、ありがとう! って!」


「そうですか。では行きますか」


「うん! ラディとホルニさんの叫び声、楽しみだね!」


「あははは!」


 え? とカオルがマサヒデに向いて、


「ご主人様? 今日はそれが目的で? 日頃のご感謝だと」


 マサヒデはちらっとカオルを見てから溜め息をつき、


「全く・・・勿論、感謝ですよ。

 そうですよね? クレールさん。シズクさん」


 ぷん! とクレールが眉を寄せ、


「そうですよ! カオルさん、なんでそんな風に見るんです」


 シズクも呆れ顔で、


「はあ・・・カオル、お前、普段から僻んでるから、そうなるんだよ・・・」


「は・・・その、申し訳ありませんでした」


 頭を下げて、気不味い顔でカオルが長椅子から立ち上がる。

 笠の下でマサヒデがにやっと笑い、


「でも、あのホルニさんが叫ぶ所って、想像も出来ないですよね」


 ば! とカオルが座っているマサヒデに振り返る。


「ぷ!」


 クレールが口を押さえる。


「ご主人様!?」


「感謝は勿論です。こっちはおまけですから」


「あーははははは!」


「ご主人様! それはいくら何でも!」


 ちらと、菅笠を上げて、マサヒデがにやにやしながらカオルを見つめる。


「興味ないんですか」


「そういうことでは!」


「あのホルニさんが叫ぶ姿・・・興味ないんですか」


「ご主人様!」


「ラディさんが叫ぶ所、興味ないんですか」


「おやめ下さい! そんな目的で」


「ないんですか? あるんですか?」


「そういう問題ではありません! そんな無礼な!」


「そうですか。では、ここで帰ってもらって結構。私達は、行きます」


「そんな!」


 ぽん、とシズクがカオルの肩に手を置く。


「なあ、正直になりなよ。あのホルニさんだぞ?

 叫ぶ姿なんて、想像も出来ねえよな?

 見れるかもしれねえぞ?」


 にひ、とクレールが笑い、


「カオルさん、もう忘れちゃったんですか? マツ様の教え。

 いーたーずーらーごーこーろ! えっへっへー」


「ええい!」


 カオルはシズクの手を振り払い、ふん! と顔を背け、


「行きます! しかし、私はシズクさんの按摩術が見たいから!」


「ふふふ。それで良いのです。では、参りましょう」


「あはは! どっちが目的だっていいじゃん!

 肩こり治すのは同じなんだから、そんな顔すんなよ!」


「くっ!」


 マサヒデが立ち上がり、歩き出した。

 クレールもシズクもにやにや笑いながら続く。

 にやにやしながら歩く3人の後ろを、ぶすっとした顔でカオルが付いて行く。


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