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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十七章 パーティー準備
454/766

第454話


 夢中で冒険者達の相手をしていると、壁の向こうから、


「メシに行こうよー」


 と声が聞こえた。

 そろそろ昼か。


 ぽん、と小手に木刀を置いて、


「ここまでです」


「ありがとうございました」


 頭を下げて、冒険者が下がる。

 マサヒデも後ろに付いて歩いて行き、皆の前で足を止めた。


「では、そろそろ昼ですし、本日はここまでにしましょう」


「「「ありがとうございました!」」」


 冒険者達が頭を下げる。


「ええと・・・」


 クレールはまだ転がっている。

 周りを見れば、高い壁。


「ううむ・・・すみません。魔術使える方、周りの壁、壊してもらえますか」


「あ・・・はい!」


 何人かが立ち上がって、壁に向かって手を向ける。

 手を向けて、冒険者達が驚き、


「げ!」「何だこれ!?」「固っ!」「石か!?」


 うんうん唸りながら、冒険者達が眉間に皺を寄せて、魔力を送っている・・・の、だろう。そのように、マサヒデには見える。


「もっと手伝ってくれ!」


 さらに数人、冒険者達が立ち上がり、手を向けてうんうんと唸り出す。

 少しずつ、さらさらと砂が落ちていく。

 これでは足りない、と、さらに冒険者が立ち上がる。


 はて。どういう事だろう。

 土に穴を掘ったり、壁を立てたりは簡単に出来る。

 只の土ではなく、石だって、出したり消したり自由自在。

 なのに、土の壁を消すのに、これほど苦労するものなのか?


 マサヒデは首を傾げながら、


「皆さん、崩せないなら、下に穴掘って、落としてしまっては。

 それで、上から土を被せちゃえば良いじゃないですか。

 同じ土なんだから、何も問題ないと思いますが」


「ああっ!」「トミヤス先生!」「すげえ思い付きだ!」


「・・・」


 壁に向かっていた冒険者達が、尊敬の眼差しをマサヒデに向ける。

 ぱちぱちと数人の冒険者が拍手を挙げる。


(それ程か?)


 マサヒデが怪訝な顔をしていると、どすん! と壁が落ちて、地が揺れた。


「なんだ!?」「地震か!?」


 と、壁の向こうから声が上がる。

 べぎん、と壁が折れて、穴に落ちていく。

 どすん、どすん、と壁が穴に落ち、最後に、さーっと土で埋められた。


「終わりました!」


「ありがとうございました」


 ぺこっとマサヒデが冒険者達に頭を下げた。

 頭を上げて、にこにこ笑う冒険者に疑問を尋ねる。


「すみません、ひとつ質問良いですか」


「はい! 何でしょう!」


「皆さん、普通に石とか、出したり消したりするじゃないですか。

 何で、只の土の壁を崩すのに、あんなに力がいるんです?」


「ああ、自分のだと、さらっといけますが、他人が出した物だと大変なんです。

 何て言うか、魔力の固まり方とか、そういう感じのが違ってて。

 石だとか、固いとかって驚いてたの、そういう魔力が固いって意味です」


「魔力の固まり方? 魔力が固い?」


「魔力がぎゅっと詰まってるっていうか・・・ええとですね・・・

 上手く口では説明出来ないんですけど・・・例えば・・・」


 冒険者が手の平を合せたり回したりしてから、左手を顎に当て、右手の平をマサヒデに向けて、押し引きするように、ゆっくり前後に動かしながら、


「ううん、例えばですよ・・・

 もし、他人が出したのも簡単に消しちゃえるなら、魔術師って困りますよね。

 火の魔術に水を、とか関係なく、何を出しても、さっと消されちゃいます」


「あっ!」


 その通りではないか!

 立ち会う時に使うのは、さっと簡単に出せる術が多い。

 大きな術だって、ほとんどは基本を大きくしたり、形を変えたもの。

 ならば、基礎を少し使えるだけで、ほとんど簡単に潰せてしまうのでは。

 簡単に潰せるなら、魔術など少し学ぶだけで済む。

 得物を使う魔術師でも、魔術師の色が濃い者は、簡単に終わりだ。


「確かに! 確かに、そうですね!」


 冒険者は自分の手を見つめ、


「これ、個人ごとに魔力の流れ方の・・・癖? 体質? と言うんでしょうか。

 そんなのがあって、それを無視して消そう、壊そうとすると、大変なんです。

 クレールさんのは、魔力が、ぎゅーっ! と強く固まってて、全然でした」


「ううむ、私には良く分かりませんが、何かそういう感覚があるんですね?」


 冒険者は頷いて、


「少し魔術が使えるなら、誰でも感じられます。クレールさんみたいに、物凄い魔力を送り込めるなら、無理矢理でも消せますが、私程度だと、こう・・・隙間、隙間にじりじりと滲み込ませる感じで、少しずつ、という感じで」


「しかし、先程の稽古の時、目の前に出された水球、消してませんでしたが」


 冒険者は手から顔を上げて、手の平を前に突き出し、


「無理矢理に消すなら、強い魔力を、ばーん! と送らないといけません。

 集中して、魔力を一気に高めて・・・何と言うか、ばんっ! と送るんです。

 これは、クレールさん程の魔術師でも、流石に難しいと思います。

 出来ても、すぐに魔力や集中力が切れると思いますね。

 飛んでくる石とか、集中して魔力を送って、なんて余裕もありませんし」


「ううむ、なるほど・・・いや、勉強になりました」


「いや、それにしても、さっきの土の壁は落として、という発想は素晴らしかったです。私達も勉強になりました。トミヤスさんも、魔術を習ってみては如何です」


「いやあ、それより剣術を練習したいです。

 今日の稽古で分かりましたよ。まだまだ、全然。

 見て下さい、これ」


 稽古で石を流して削れ、少しささくれた木刀を上げる。

 これがコウアンだったら・・・考えたくもない。


「ここ、ぼろぼろに削れてますよね。木刀だから、これで済みました。

 真剣だったら、とっくに使い物にならなくなってましたね。

 稽古じゃなかったら、今頃、私は」


 とん、とマサヒデが首に手刀を置く。


「ううむ・・・」


「この木刀の瑕が、私程度じゃまだまだって証拠です。

 身の程を深く思い知らされました。

 いや、今日の稽古では、皆さんに叩きのめされましたよ」


 話していると、ううん、と声を上げ、むっくりとクレールが起き上がった。


「あ、目が覚めたようですね。

 すみません、お引き止めして。ありがとうございました」



----------



 ぐったりしたクレールの手を引いて、食堂に向かう。


 疲れているようなので、湯は後。

 クレールには、とにかく飯だ。


 お互い、稽古着を着たマサヒデがクレールの手を引いていると、仲の良い兄妹のようで、すれ違う冒険者やメイド達が少し微笑ましい顔になる。


「おお?」


 声を上げてマサヒデが足を止めると、クレールも顔を上げた。


「あ」


 廊下の向こう。

 ロビーに人が並んでいる。

 まだやっていたのか?


「あれ、シズクさんですよね。まだ終わってないんでしょうか」


 クレールがマサヒデを見上げて、


「私、とっくに終わって、家で寝てるのかと・・・」


「来た人と、お喋りでもしながらやってるんですかね」


 歩いて行くと、うわあ、と叫び声。

 げらげらと笑う声。

 少し近付くと、また叫び声。

 さくさくと進めているようだが、まだ終わっていなかったか。


「さすがに、事務やメイドの方々も入れると、多かったんですね」


 すたすた。


「んん?」


 ロビーに町人が並んでいる。

 仕切りが出来て、ずらりと入り口から人が並んでいる。


「・・・あちゃあ・・・」


「町の人まで来ちゃったんですね・・・」


 冒険者が喋ったか、叫び声が上がるものだから、誰かが覗いたのだろうか。

 ちゃりんと箱に金を入れ、次の者が座る。

 叫び声が上がり、次いで驚きと感謝の声と、周りの笑い声。

 隣のテーブルで、メイドが銀貨、銅貨を並べ、1枚、2枚と数えている。


 マサヒデ達が歩いて行くと、あっとシズクが顔を上げた。

 2人は苦笑しながら手を振って、ロビーを通り過ぎて行った。


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