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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十七章 パーティー準備
451/778

第451話


 冒険者ギルド、訓練場。


 マサヒデが、ぎい、と重い扉を開ける。

 開けた所で、後ろの準備室の戸が開いて、クレールが出てくる。

 たたた、と走って来て、


「マサヒデ様」


 と、マサヒデの稽古着の背中を、ちょん、とつまむ。


「どうしました」


「先日お話ししてた、魔術師相手の稽古、してみませんか?

 ずっと雀の稽古やってましたし、腕が鈍ってないか確認もしたいですし」


「おお、良いですね。魔術師の皆さんが来てくれたら、やってみましょうか」


「でも、どういう形にしましょう。

 かまいたちみたいな、危険な術は無しが良いですよね」


 マサヒデが腕を組む。


「ううむ・・・火の魔術もやめておいた方が良いでしょうか。

 水ですぐ消せますけど、壊れたりしたらマツさんを呼ばないと」


「では、何か飛ばすような術は、なしの方が良いでしょうか?

 石とか飛ばして、周りの誰かに当たったりしたら大変です」


 確かに。

 皆が皆、クレールのように魔術の達者ではないのだ。

 何か飛ばしたら、そのまま飛びっぱなし。

 後ろの誰かに、流れ弾が・・・何てことは十分あり得る。


「ううむ・・・かなり制限が多くなりますね・・・」


 しかし、これではまともな稽古にならない。

 周りには魔術を使って戦う者が多くいて、対戦稽古をする絶好の場所なのに。

 ぽん、とクレールが手を合せて、


「あ! マサヒデ様、良い案を思い付きました!」


「聞かせて下さい」


「周りに、分厚い土の壁を作って囲ってしまいましょう!

 場所は限定されますけど、普段の稽古でも、大体やっている場所は同じです。

 その辺りを囲ってしまえば」


「おお! 名案ですよ!」


「でも、マサヒデ様、火の魔術はやっぱり禁止しましょうか」


「何故です? 火傷は治癒の魔術で治せるでしょう?」


「火傷は治せますけど、服が燃えてしまったら、恥ずかしいです」


「ははは!」



----------



 マサヒデが稽古を始めて、しばらく冒険者達をあしらっていると、


「マサヒデ様ー」


 と、後ろからクレールの声。

 お、来たな。

 するっと冒険者の剣を避け、崩れた所で、首に竹刀を乗せる。


「ここまでです」


 冒険者達の方を向いて、


「剣は体重を乗せて斬るものですから、避けられただけでも簡単に崩れます。

 剣を使う方は多いですから、ここに気を付けて下さい。

 しっかり体重を乗せた一撃、かつ、崩れないような身体の使い方です」


 冒険者の首に乗せた竹刀を引き、ぽん、と手に乗せて、


「刀より簡単に扱えるように見えて、剣も非常に難しい。

 崩れないように、と体重が掛からず、手振りになっては斬れません。

 余程の腕力ならいけますが、かなりの鍛錬が必要です。難しいですよ」


「「「はい!」」」


「打撃を与えることは出来ますが、ならば最初から棍棒で殴った方が効率的。

 剣を得物として選んだ方は、崩れない体重の掛け方、崩れない身体の芯。

 この辺りを意識して鍛えて下さい」


「「「はい!」」」


 さて、とクレールの方を向く。

 クレールの後ろに3人。

 思ったより少ない。

 剣、槍、剣。


「皆さん、始まったばかりですが、少し休憩です」


 すたすたとクレールの方に歩いて行くと、クレールも近付いてくる。

 後ろから魔術師達も歩いて来て、マサヒデに頭を下げる。


「本日は私の我儘にお付き合い下さり、ありがとうございます」


 マサヒデも頭を下げる。


「いえ! 参加出来て、光栄です!」


「さ、皆さん、頭を上げて下さい。

 しかし、クレールさん」


 マサヒデが3人に顔を向ける。


「はい・・・その、皆、尻込みしてしまって、集まらなくて・・・」


「ううむ・・・厳しく打ち込むような稽古は、あまりしてないんですが」


 あまり。

 3人がちらちらと目を合わせる。

 少し不安そうな顔だ。


「まあ、私の稽古に来てくれた皆さんの中にも、魔術師の方もいるでしょうし。

 剣は私が、魔術はクレールさんの方で見て頂き、気付いた所があれば・・・

 という感じで、立ち会い稽古を行いましょう」


「はい! マサヒデ様、私、頑張りますね!」


「では、皆に今日は魔術も使って稽古しよう、と伝えましょう。

 そうしたら、クレールさん、壁を作ってもらって」


「分かりました!」


 マサヒデがすたすたと皆の前に戻る。

 隣にクレールが立つ。

 クレールに付いてきた魔術師達も、冒険者達と並んで座る。


「ご存知の方も多いでしょうが、こちらはクレールさん。

 以前、特別師範として来て頂きましたので、ご存知の方もおられるでしょう。

 所謂、純粋魔術師の方ですね」


 皆の目がクレールに向けられ、クレールが綺麗にお辞儀をする。


「クレールです。皆様、本日はよろしくお願いします」


「で・・・本日はですね、皆さんの得物だけでなく、魔術も使った立ち会いを行いたいと思います。私の稽古だと、どうしても剣ばかりで、魔術も使った本当に実戦的な稽古って、あまり出来ないでしょうし」


 冒険者が手を挙げ、


「トミヤスさん。魔術を使うとなると、何か飛ばすなどありますが、そこはどうされるのでしょう」


「クレールさんが、いつも使っているこの辺りを、ぐるりと分厚い土の壁で囲ってくれます。ですので何でも、と言いたい所ですが、3つだけ禁止します。


 一つ目。これは当然ですけど、即死するような魔術。

 二つ目。ええと、かまいたちの魔術みたいに、手足を斬り落としてしまうような、治癒魔術で治せない魔術。稽古ですからね。

 最後、三つ目。火の魔術です」


 別の冒険者が手を挙げ、


「壁で囲うのに、火の魔術は、何故禁止なのですか?」


 ふふ、とマサヒデは笑顔を浮かべ、


「怪我は治癒魔術で治せます。

 しかし、稽古着が燃えてしまったら、皆さん、恥ずかしいでしょう?

 ははは! 素っ裸になってしまうじゃありませんか!」


 あははは! と冒険者達が笑う。


「とは言え、ただ石ころを飛ばしただけで、頭に当たって頭蓋が、なんて事も十分ありえます。これは真剣を使った稽古だと思って、気合を入れて下さい。死んだり、斬り落とされたりさえしなければ、傷は治癒魔術で治りますから」


 死んだり、斬り落とされたり。

 にこにこしながらマサヒデは言ったが、笑っていた冒険者達が、しーんと静まり返ってしまった。


「では、クレールさん、壁をお願いします」


「マサヒデ様、どのくらいの厚さにしましょうか」


「ええと・・・そうですね、念の為、2尺くらいで、硬めに作って下さい」


「はい!」


 クレールが杖を持って、ぐぐっと集中する。

 大きな範囲で作るのだから、時間が掛かるのだろう。

 しばらくしてから、ぼん! と音がして、周りが壁で囲まれた。


「おお、すごいですね。流石はクレールさんです」


「えへへ・・・」


 クレールが照れ笑いを浮かべる。

 マサヒデは壁まで歩いて行き、竹刀でばしばし叩き、ごん! と蹴る。

 手で触ると、土というより石に近い感じがする。

 触れば砂が手の平に着くが、ぎっちりと固まっているのが分かる。


「うん、びくともしませんね。ええと、そちらの方」


 マサヒデがクレールに付いてきた魔術師の方を向いて、


「試しに、壁に向かって、思い切り、勢いよく石を飛ばしてみて下さい」


「あ、えっと、はい! やります!」


 立ち上がって、む、む、と小さく唸ると、拳くらいの石が顔の前に浮かんだ。

 浮かんだと思ったら、すごい速さで飛んでいく。

 ごん、と音がして跳ね返り、どすっと落ちる。


「うん、大丈夫そうですね」


 マサヒデが皆の前に向かって歩き出すと、さらっと落ちた石が消える。


「私の稽古に来ておられる方の中にも、魔術を使う方もいると思います。

 本日は遠慮なく魔術を使い、実戦のつもりでいきましょう。

 魔力が無くなったら、いつも通り得物の稽古という感じで」


「「「はい!」」」


「じゃあ、せっかく来てくれたんですから、最初の師範役は、クレールさんにお願いします」


「え」


「え? えって何です。そんな顔して」


「師範役って」


 マサヒデが呆れた顔をして、


「クレールさん、しっかりして下さいよ・・・

 私、魔術は使えないじゃないですか。

 まずはクレールさんに見てもらいませんと」


「ええー!?」


「師範役なら、前にここでも道場でもやったじゃないですか。

 一回りしたら代わりますから」


 すたすたとマサヒデが歩いて行き、冒険者達の前でくるりとクレールの方を振り向いて、すっと正座で座り、頭を下げた。


「では、クレールさん。よろしくお願いします」


 次いで、後ろの冒険者達も頭を下げる。


「「「よろしくお願いします!」」」


 大声で勢い良く言われて、


「あっ・・・あっ・・・よろしく、お願いします・・・」


 と、おどおどしながら、クレールも頭を下げる。

 マサヒデは軽くクレールに頷いてから、後ろの冒険者達の方に向いて、


「では皆さん、そちらから順に行きましょう。

 流れ弾にはくれぐれも気を付けて下さい」


「「「はい!」」」


 マサヒデが立ち上がって、並んだ冒険者達の端に座る。

 反対側の冒険者が立ち上がって、クレールの方に歩いて来る。

 シズクのように、ごつくて背が高い。すごい威圧感。


「い、い」


 ぴし! と背筋を伸ばし、クレールに頭を下げる。


「よろしくお願いします!」


「あ! はい! よろしくお願いします!」


 クレールが頭を下げ、ばっと顔を上げると、自分と同じくらいの高さもあろう大きな木剣が、びたっと構えられる。


「はじめ!」


 マサヒデの合図。


(ええー!)


 あんなので殴られたら稽古用のでも・・・


「だあー!」


「わっ」


 ごつん!


「かっ・・・」


 剣を振り上げた冒険者の顎の下から石が飛び、もろに入った。


「そこまで!」


 マサヒデの声が響く。

 ばったりと冒険者が倒れる。


「あ、あ! ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」


 まずい! 顎を砕いてしまっていたら大変だ!

 咄嗟に出してしまったから、威力はどうだっただろうか?

 慌てて駆け寄って、治癒魔術をかける。


(良かったあー・・・)


 死んではいない。

 だが、顎にもろに入ったせいか、気を失ってしまった。


「すみません! 頭が揺れちゃったのか、気を失ってしまいました!」


 座っていた冒険者が2人立ち上がり、倒れた冒険者を引きずって行く。

 ぼーっと見ていると、次が立ち上がった。

 あ、と気付いて、慌ててクレールも真ん中に戻る。


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