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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十七章 パーティー準備
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第443話


 3人は香水店に向かう。

 シズクとラディの間にクレールが挟まれ、親子3人連れのようだ。


「うんうん、どんな香りにしましょうかねえ。

 何となくで良いので、お二人の好きな香りを教えて下さい!」


「おっ酒ー!」


「鉄です。叩いた時のあの匂い」


 クレールの勢いががっくりと下がる。


「・・・他にはどんな物がありますか?」


 シズクとラディが少し考える。


「んん・・・と、肉だね! 焼いた肉!」


「ん・・・丁字油とか」


 かくん、とクレールの肩が落ちる。


「あの、好きな花とかないんですか? せめてハーブとか」


「ハーブ? 香草だね! 香草焼きは大好きだよ!

 鳥のさ、皮の所をぱりっとね! 黒胡椒をがつんときかせてさ!

 にんにくをがっつり塗って、バターでさ!」


「いや、すごく美味しそうですけど、そうではなくてですね」


「・・・ハーバリウム?」


「匂いがしないじゃないですか!」


「申し訳ありません。病院に並べてある瓶詰めの花くらいしか」


「くっ・・・」


 シズクはともかく、ラディまで。

 2人共、ここまで女らしさを捨てているとは・・・

 そうだ、色。色でイメージを決めよう。


「では質問を変えましょう。お好きな色なんてどうですか?」


 は? という顔でシズクがクレールを見下ろす。


「色?」


「お二人共、好きな色を仰って下さい。そこから香りをイメージしますから」


「色、ねえ・・・」


「・・・」


 シズクもラディも、眉間に皺を寄せて黙り込む。

 色でこんなに考え込むとは。


「うん、色は透明なのがいいな。きりっとしたやつが好みかな」


「・・・透明・・・」


 色がないではないか。

 ほへえ、とクレールが呆れて口を開けていると、ふ、とラディが顔を上げ、


「研いだ刀の・・・青みが入った物は最高です」


「ラディさん、ぎりぎりセーフ!」


 ぴし! シズクを指差して、


「シズクさん! きりっとしたやつって、それお酒の色ですね!?」


 シズクがにっこり笑う。


「そう!」


「シズクさんアウト!」


「え!? 駄目なの!?」


「透明って、そもそも色がないじゃないですか!」


「む! 確かに!」


「はあー・・・何でも良いですから・・・」


 クレールが額に手を当てて、首を振り振りしていると、シズクが「ぽん」と手を叩いて、耳のピアスを指差す。


「あ、これこれ! クレール様、見て! この色!」


 うむ、とクレールが頷いて、


「宜しい。では、その色で香りをイメージして作って頂きます」


「作る?」


「今回は既製品ではなく、ブレンドしてお作りします。

 長持ちはしませんけど、次にお二人が買う時の目安になるでしょう」


「長持ちしないの? どのくらい?」


「半年持つか持たないかくらいです。

 ですから、ちゃんと使い切って下さいね」


「はあい」


 ラディが真剣な顔で、


「香水・・・銃の手入れには、気を付けないといけませんね」


「銃? ラディさん、香水の何がいけないんですか?」


「あまり匂いが強い物は、分解中は良くない気がします。

 銃油に少しでも染み込む」


「そこまで!」


 ぱん! とクレールが手を叩く。


「ラディさん。ご心配でしたら、香水はお母様に預かって頂ければよろしい!

 シズクさんも、早く使い切らないと、なんてどぼどぼ使わないこと!

 1滴ずつ使うのですよ!」


「はあーい」「分かりました」


 へぁー・・・と変な溜め息をついて、クレールが歩いて行く。

 この2人の香水は大変そうだ。



----------



 職人街から広場を左に曲がって行く。

 このまままっすぐ行くと、アルマダ達の所。


「こっちずーっと行くと、ハワードさん達の所だね」


「はい。すぐ近くですよ。ここから少し歩けばありますから」


 しばらく歩いて行って、ぎく、とシズクとラディが足を止めた。

 『オリネオ香水店』と、小さいが派手な店が見える。

 だが、驚いたのは店の派手さではない。


 ずらりと店の前にメイドが並んでいる。

 店のドアの脇に、クレールの執事が立っている。

 奥には、目も眩みそうな馬車が停まっている。


 シズクが喉を鳴らして、


「クレール様・・・皆、来たの?」


「全員ではありませんけど、香りにセンスがあると思う者は呼びました。

 今回は、オリジナルをブレンドするのです。

 1人、2人では、香りをしっかり決められませんからね」


「・・・」


 こくん、とラディも小さく喉を鳴らす。


「皆の意見を聞き、ぴったり合う物を作って頂きます。

 安心して下さい。フローラル・ソムリエの資格を持つ者もいますから。

 さあ、ぐずぐずしないで。行きますよ」


 とてとて、とクレールが歩いて行く。


「まじかよ・・・なあラディ、フローラル・ソムリエって分かる?」


「ソムリエですから・・・香水の鑑定士・・・みたいな感じでしょうか」


「なあ、あそこにさ、この格好で入って良いのか?」


 シズクが稽古着の襟をつまむ。

 ラディも自分の服を見下ろす。

 ただの着流しと、つっかけ。


「・・・」


「おい、黙るなよ・・・不安になるじゃないか・・・」


「クレール様も、あの服ですし・・・」


 クレールも普段の軽い冒険者姿。

 言ったものの、ラディの足も前に出ない。

 あの服も、安い冒険者姿に見えて、最高級の生地を使っている。

 他は誤魔化せても、ラディの目は誤魔化せない。


「お前はまだ着流しだから良いよ。私、稽古着だよ?」


「安売り銀貨2枚の服です。そっちの方が遥かに高いです」


 2人がこそこそ話していると、くるっとクレールが振り返り、


「大丈夫ですよー! うちの者達を信用して下さい!」


「あーいやいや! そうじゃないんだ!」


 固い笑顔でシズクがクレールに近付いて行き、


「あのさ、私もラディも香水のお店って初めてだからさ!

 いやー! さーすがにちょっと緊張しちゃってさー! あははー!」


 クレールは首を傾げて、


「うーん? 緊張しますかね? 別にそんなお店ではないんですけど」


「ええと・・・ほら! 私もラディも、裾にうっかり! がしゃん!

 なーんてやったらまずいなー・・・なんて・・・ね?」


 冷や汗を垂らし、固い笑顔のシズクを見て、ぷ! とクレールが吹き出し、


「あははは! そういうのは、緊張してると逆にやっちゃうんです!

 中は楽しいですよ! あ、シズクさん、その棒は置いて入って下さいね」


「もーちろん! そのくらいは分かってるよ!」


 あんなに高そうな店に、こんな大きな鉄棒を持って入れるものか。


「さあ、ラディさんも、そんなに緊張しないで下さい。参りましょう!」


 クレールが手で招く。


「はっ・・・はい・・・」


 ぐっと腹に力を入れ、一歩。

 ラディの方を向いたシズクの顔も固い。

 これから、あの店に入るのだ。


 クレールの後ろを少し離れて、恐る恐る店に近づいて行くと、店の前に並んだメイド達が、さ、さ、さ・・・と、順番に頭を下げていく。


 2人の額に、つー、と冷や汗が一筋。

 執事がにこっと笑って、頭を下げた。


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