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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十七章 パーティー準備
442/762

第442話


 時は戻って、昼前。


 クレールとシズク、奉行所からの帰り道。


「シズクさん! これから香水を買いに行きます!」


「はあーい。私は外で待ってて、ってねー」


「あなたの香水を買いに行きます!」


「ええ!? 私ーっ!?」


 シズクが足を止めて仰け反る。

 クレールも足を止め、シズクにぐいっと顔を突き出し、


「パーティーなんですよ! 正装して行くんですよ!」


「いや、いいよ・・・」


「いけません!」


「そりゃ、欲しいっちゃ欲しいけど、こぼしたり、割りそうだし」


「瓶は私がお預かりします! よろしいですね!」


「いや、いいって。お気持ちはありがたくって感じで」


 びし! とクレールが人差し指を突き出し、


「シズクさん! 香りも正装の一部です! 着けていかないのは無礼です!」


「え? そうなの? 無礼なの?」


「そうです! ラディさんも呼んできますよ!

 お二人共、全く頓着しないのですから・・・

 こんな事、常識なんですよ!」


「ううん・・・常識なんだ・・・じゃあ、仕方ないか」


「仕方ない!? 何を言ってるんです! 当然の事ですよ!」


 こんな事も知らないのかと、ぶつぶつ言いながらクレールが歩き出す。

 しょぼんとした顔で、シズクが後ろを付いて行く。


「全く。お二人共、女性なんですよ?

 例え正装の場でなくとも、香りくらいは気を付けて欲しいですね。

 メイクもと言いたい所ですが、そちらはカオルさんにして頂きます」


「はい・・・ごめんなさい・・・」



----------



 職人街、ホルニ工房。


 がらり。


「おはようございます!」


「おはっ・・・クレールっ様・・・」


 つい先日、クレールが魔の国で1、2の大貴族と知らされたばかり。

 カウンターのラディの母の顔が、少し青ざめる。


「あれ・・・? 奥方様、顔色が?

 体調でも優れないのですか? 私、解毒の魔術使えますけど」


「あ、いいえ。大したことはないんですよ! 平気ですから!

 ただの夏風邪ですから! 熱も全然・・・」


「そうですか? ああ、ラディさんが居ますものね!

 何かあったんなら、とっくに治してもらってますよね!

 そうそう、今日は、ラディさんはご在宅ですか?」


「ええ、おります。仕事場で、亭主を手伝っておりますが」


「あ、お仕事のお手伝いですか・・・

 出来れば、ラディさんと少しお出掛けしたかったのですが」


 いけない!

 機嫌を損ねてはいけない!


「構いませんとも! 最近、根を詰めてばっかりで!

 少しは休ませないとって!」


「そうですか! 良かったです!」


「今すぐ! 呼んで来ますね!」


 がら! ぱしーん!

 ばたばたばた・・・


 やけに慌てるラディの母を見て、クレールとシズクが顔を見合わせる。


「何だあ?」


「何でしょうね?」


 ばたばたばた・・・

 すたすた。


「ラディ! 早く!」


「はあ」


 すたすた。


「おはようございます」


「おはようございます!」「おはよ!」


「何か」


 てい! ぴし!


「あいた」


 ラディが後ろを振り向くと、母が見えないように後ろから肘を入れている。


(気を付けな!)


「? ・・・すみません。今日は何か」


 ぴし!


「ラディさん! お出掛けしますよ!」


「仕事」


 ごす。


「ぐっ!?」


「あ、やはりお忙しいのですか? でしたら」


 ラディの母が後ろから顔を出し、


「いいええ! 大して忙しくもないんですよ!

 この子ったら鍛冶が好きなもんだから、仕事場に入り浸っちゃって!

 もう、主人の邪魔ばっかりなんですから! おほほほほ!」


「うふふ。ラディさんらしいですね」


「お母様、いそ」


 どす。


(忙しくない!)


「がっ・・・しくは、ないです」


「お誘いありがとうございますね! ほら、早く着替えてらっしゃい!」


 ぴし。ぴし。


(早く!)


「・・・少々、お待ち下さい」



----------



 カウンターに出された茶とまんじゅうを、もむもむと食べていると、ラディが着流しで出て来た。


(あんた!)


「は?」


 クレールがにっこり笑って、


「ラディさん! 今日は少しお買い物に行きましょう!」


「何を買うんですか?」


「香水を買いに行きましょう!」


「香水?」


 ばし!

 カウンターの後ろで、ラディの母が足を蹴る。


「ラディさん、香水はお持ちでないでしょう?

 いつも着けて来ませんもの」


「ありません」


「パーティーには着けて行きませんと。

 香りも正装の一部なんですよ」


「そうなんですか?」


「そうです! ですから、買いに行きましょう!」


「香水は分かりません」


「お見立て致しますから!

 大した額ではありませんし、私の奢りです!」


 ちらり。

 母の顔はにこにこ笑っている。

 だが、目が全く笑ってない。


「・・・では、お言葉に甘えて」


「では行きましょう!」


「クレール様、この格好で良いでしょうか?」


「構いませんよ。私もこの格好ですし。シズクさんも」


 クレールも、いつもの冒険者服。

 シズクは稽古着。

 さすがに、あの染みだらけのシャツではないが、軽い服装だ。


「では」


 つっかけを履いて、すぱすぱとラディが出てくる。


「それでは、少しラディさんをお借りしますね!」


「はーい! クレール様、娘をよろしくお願いします!」


「それでは、失礼致します!」


「お母様、行って参ります」


「失礼のないようにね!」


 一瞬、母の目が鋭く光った。

 何なんだろう?

 シズクが店の中に入って来て、驚いているのだろうか。

 頭の中を疑問符で一杯にしながら、ラディがすぱすぱとつっかけで出ていく。


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