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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十七章 パーティー準備
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第439話


 冒険者ギルド、書記官室。


 国王陛下に直々の手紙の文章の依頼を、と聞いて、マツモトは書記官全員を緊急招集した。


 かち、かち、かち・・・

 時計が秒針を刻む。

 書記官の1人が手を挙げ、


「マツモト部長、断りましたら、どうなりましょう」


「マツ様、ハワード様、クレール様のいずれかが代筆するだろうな。

 いや、ハワード様は秘書官を連れていないな。

 自ら書く事は、あまりないかな・・・」


「代筆を出来る御方がおられるのでしたら、今回はお断りなされては?

 我々が書き上げた所で、特にこのギルドの名誉になりはしません。

 下手な文章を上げると、大恥ですし。

 リスクしかありませんが」


「一見、そう見えるが・・・」


 とん、とん、とん、とマツモトが指先で机を叩く。


「マツ様は今、大忙し。

 クレール様の方も、ホテルの準備で大忙し。

 非常に小さな、貸しとも言えぬものではあるが・・・」


「なるほど、お手伝い程度ではあるが、恩を売る、と」


「そう考えると、デメリットばかりではない、し・・・」


 マツモトは手を組んで、


「トミヤス様の御一家には、普段から世話になっている。

 ほぼ毎日、指折りの武術家が無料で稽古。

 先日は、大量の武器と杖まで寄付して頂いた。

 杖など、宝石が着いているのだぞ。それを束でどんと寄付だ。

 あれだけの数、揃えようとしたら、いくら掛かると思う」


「・・・」


「恩を頂いているのは、このギルド。

 無料で施設の使用を許可はしているが、全然釣り合わん。

 私個人としては、出来うる限り、恩を返したいと考えている」


「お気持ちは分かりますが」


「そうだな、私の個人的な感情が大きい。

 この依頼、リスクが大きく、得はほとんどない。

 我々も商売だし、恩は受けるだけ受ける。

 機を見て、小さな恩が大きく見える時に、小さく返す。これが利口だ。

 今回は、その機でもあるという訳だ」


「なるほど」


「断る事は出来る。いや、断った方が利口だな。

 いくら機とはいえ、今回はリスクが大きすぎる。

 今は忙しいというだけで、向こうには、用意出来る者がいるのだ」


「であれば、私は断られた方が良いかと思いますが」


 ふうー、とマツモトは息をついて、ぎしっと背もたれにもたれかかる。


「そうだな・・・私が書く訳ではない。書くのは君達、書記官だ。

 陛下への直々の手紙、とんでもないプレッシャーだろう。ミスは許されない。

 先程も言ったが、私の個人的な感情が大きい。

 得はほとんどなく、リスクが大きすぎる。

 今は忙しいというだけで、1週間もすれば、向こうで用意は出来る。

 断りの詫びは私がするし、トミヤス様は断られても恨みなど感じない方。

 だから・・・」


 マツモトは立ち上がって、


「少し、時間を取ろうか。30分。

 30分したら、戻ってくる。決めておいてもらえるか」



----------



 冒険者ギルド、受付。


 マサヒデと受付嬢が、にこにこした顔で何か話している。


「おや。盛り上がってますね」


「あ、マツモトさん」


「申し訳ありません。流石に陛下へ直々のお手紙となりますと、書記官も頭を抱えてしまいまして。30分程、お待ち頂けませんか。今、書記官達が相談中です」


「ああ・・・やはり、そうですよね・・・無理を言ってしまって」


「余程お急ぎでないのでしたら、パーティーの後、落ち着いた頃に、マツ様やクレール様にお願いして頂くのは如何でしょう。早馬は、特急をこちらが用意致しますので」


「その方が良いでしょうか?」


 マツモトは渋い顔を振って、


「情けない話ですが、陛下への手紙と聞いて、書記官は皆、尻込みしています。

 マツ様、クレール様であれば、間違いはありません。

 引き受けるとなっても、念の為、お二方に目を通して頂きたく思います」


「ううむ・・・分かりました。

 では、落ち着いた頃に、マツさんかクレールさんに書いてもらいます。

 少し遅くなってしまいますが、多分大丈夫でしょう」


「え」


 あっさり。

 緊張していたマツモトの肩が、かくん、と抜けそうになる。


「書記官の皆さんの仕事を、お邪魔するのも申し訳ありませんし」


「よろしいのですか?」


「構いません。無茶な依頼を頼んで、申し訳ありませんでした。

 書記官の皆様にも、お詫びを伝えて頂きますでしょうか」


「は・・・」


「では、マツモトさん、お時間を取らせて申し訳ありませんでした」


 軽く頭を下げて、さらっとマサヒデは帰って行った。

 受付嬢が少し心配そうな顔で、


「あの・・・マツモト部長、良かったんですか?」


「む・・・ううむ・・・」



----------



 魔術師協会。


 マサヒデが居間に座って、じっと床の間を見つめる。


(刀架が欲しいな)


 大小は、いつも部屋の隅に立て掛けている。

 太刀拵えではないが、太刀程の長さの刀が1本増える。

 ちら、と置いてある大小に目をやる。


 刀匠ホルニ会心の作の脇差。

 カゲミツから貰った刀。

 雲切丸。


 どれも、部屋の隅に転がしておいて良い物ではない。


 床の間の横、床脇。

 床脇の違棚の上の棚には、香炉と筆。

 下の棚には、ぽつんと硯箱だけ。


 印などは執務室に置いてあるし、香炉など飾りで使ってもいない。

 マツが置いている物だから、すごい値段の物だろうが。


 この床脇に、床の間に飾ってある、ノブタメから貰った鉄扇を置く。

 で、床の間に刀架を置く・・・


(ううむ)


 普通の刀架だと、刀がタマゴに当たる。

 高い刀架が必要だが、あるだろうか・・・


 考えていると、さらりと襖が開いた。

 執務室から、マツが出てくる。


「あら。またタマゴをじっと見て。また親馬鹿ですか?」


「違います。床の間を見てるんです。刀架が欲しいんですよ」


「とうか?」


「ほら、床の間に置く、刀を乗せておくあれです」


「ああ! あれですか」


「雲切丸が増えましたからね。

 そろそろ、ちゃんと刀を置く場所が欲しくて。

 いつも、部屋の隅に置いてますから・・・」


 立ち上がって、置いてある大小をひとつひとつ指差しながら、


「この脇差、ホルニさんの会心の作です。

 この刀、父上から頂いた物です。

 もうひとつ、国宝の酒天切コウアンの兄弟刀、雲切丸。

 どれも、部屋の隅に転がしておいて良い物ではありません」


「ううん、確かに、そうですよね」


「そこの違棚に、お奉行様から頂いた鉄扇を置いて。

 で、床の間に刀架を置いて。

 でも、タマゴに当たらないように、背が高い物でないと。

 それに、刀架っていくらするんだろう・・・って、考えてた所です」


 ちら、と縁側に目をやる。

 そろそろ昼。

 マツは昼餉を作りに出てきたのだろう。


「うん、マツさん、お疲れでしょう。

 三浦酒天の弁当を買ってきましょうか。

 精を付けないと、パーティーの時に参ってしまいますよ」


「お作り致しますよ」


「忙しいんですから、少し贅沢しましょう。お茶の準備だけ、お願いします」


「うふふ。では、お言葉に甘えてしまいます。

 照り焼きは必ず入れてもらって下さいね」


「ん、分かりました」


 立ち上がって、マサヒデは出て行った。


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