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勇者祭  作者: 牧野三河
第六章 試合準備編

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第43話

『本物の魔術師』の腕やいかに。

魔術を主に戦う、純粋魔術師。

マツとの訓練は、2人を驚かせる。


 日が昇り、ついにマツの挨拶の日。

 マツは午前中は忙しいとのことで、皆には午後、ギルドに来るように伝えてある。


 昨晩の話が効いたのか、皆ぴりぴりして、まるで真剣での立ち会いのような雰囲気が漂っている。


「皆様。それでは、我々は先にギルドに向かいます。昼食は、皆様もギルドの食堂に来てもらっても構いませんが・・・絶対に、酒は控えて下さい。いいですね」


 言われずとも、昨晩の話で、酔っ払って向かおうなどと考える者はいまい。


「・・・」


「場所は、2階の会議室です。受付の方に聞けば、案内してもらえるかと思います。私達の連れの者だと伝えれば大丈夫でしょう」


「分かりました」


「荷物はここに置いておいても結構ですが、一応、隠しておいて下さいね。必ず、全員で来て下さい。町は非常に混んでいます。気を付けて下さい」


「トモヤ」


 マサヒデから声をかけられたトモヤが、びく、と顔を上げた。


「な、なんじゃ」


「寺に顔を出してこい。許しはもうもらっておろうが、一応、挨拶はしてこい」


「うむ・・・」


「トモヤ。腹をくくれ。来たいと言ったのはお前だ。もう、話は伝えた。今更、やめたは通用せん。どうせ、いつかは顔を合わせるのだ。それに、ここで逃げたら、どうなるか・・・」


「うむ・・・そうじゃの・・・そうじゃ・・・」


「よし。では、昼にな。2階の会議室だぞ」


----------


 マサヒデとアルマダはギルドに向かう。


「・・・やはり不安が残りますが、もう成り行きに任せるしかありませんね」


「ええ・・・マツさんが、気を損ねなければ良いのですが」


「少し、驚かせすぎてしまいましたかね・・・」


「うーん、逆に緊張しすぎてしまうかもしれませんが・・・あのくらいで良いと思います」


「とりあえず、あの魔術の試し切りですね」


「あれは不思議でしたね・・・寝かせる、とか言ってましたが、魔術って寝かせなければならないものなのでしょうか?」


「さあ・・・たしか、マツ様の特製の魔術とか仰ってましたから、なにか特別なものなのかも」


 町に近付くと、喧騒が聞こえてきた。


 一日で、随分と話は広まったらしい。


 町の入口のすぐそばに、いくつもキャンプが出来ている。

 初日にも野営をしている者が何組かいたが、今回は商人ギルドの紋章の旗が立った大きなキャンプがいくつもあり、そこで何人も寝ていたり、朝食を食べたりしている。


 町に入りきれない者たちを、商人ギルドがキャンプを作って泊まらせているのだろう。

 馬車も止まっていて、大きなテントが出来ており、キャラバンのような感じだ。


「マサヒデさん。随分と人気者になりましたね。皆が、あなたへの挑戦者ですよ」


「楽しみですね!」


「ははは! そこで『楽しみです』と言い切ってしまえるのが、あなたらしい」


「何か、おかしなことを言いましたか?」


「ふふふ、いいえ。何も。さあ、行きましょう」


----------


 ギルドに着くと、朝から大忙しのようだ。

 受付にずらりと列が並んでおり、人間も魔族もいる。

「本日の受付は1時間後からでーす!」

 と、受付嬢が大きな声で叫んでいる。


 マサヒデ達は「ギルドの関係者の者です。通して下さい」と言って、列を通って行った。


 と、そこで受付嬢がこちらに気付き、


「あ、トミヤス様!」


 と、声を掛けてきたから大変だ。

 マサヒデもアルマダも、一瞬、ぎくっとして動きを止めた。


 「あいつか」「随分と細いな」「すごい立ち会いをしたそうだが」


 などと、声が上がる。

 2人は慌てて、


「すみません! 通して下さい!」


 と、無理にかき分けて中に入っていくが、こちらを見る列の面々からすごい視線を感じる・・・

 中に入っても、外からこちらを覗き込んでいる視線を、ひしひしと感じる。窓から覗き込んでいる者もいる。


「これは、大変ですね・・・えらいことになりました」


「ギルドの方々には、大変な迷惑をおかけしますね・・・」


 2人は早足で、訓練場に続く奥の廊下に入って行った。


----------


 訓練場に入ると、既にマツは来ており、機材の前で2人を待っていた。

 既に片付け等は終わったのか、訓練場はマツ1人だ。


「マサヒデ様、ハワード様。おはようございます」


 と、綺麗に頭を下げる。


「おはようございます」


 と、2人も頭を下げる。


「今日は、あの防護の魔術の試し切り、ということでしたね」


「はい。早速ですけど、お願い出来ますか」


 そう言って、マツが石の柱に手をかざすと、昨日と同じように膜に覆われた。

 見た目は変化がない。


「では、まずは軽くいきますね」


 マサヒデは刀を抜いて、8分ほどの力で振り下ろした。

 また、あの不思議な感じで、刀はまっすぐ止まる。


 相変わらず、変な感じだ。

 ぴったりとまっすぐ止められたのに、腕に衝撃もない。


「では、ハワード様もお願いします」


 アルマダも剣を抜いて、振り下ろす。

 剣が、ぴたり、と止まる。


「では、今度は本気で。お二方、お願いします」


 マサヒデは昨日と同じように、逆八相に構えて、集中。

 音もなく振り下ろされた刀は、ぴたりと止まった。


「む・・・」


 マサヒデが剣を引き、アルマダが踏み出した。

 まっすぐ、大上段から振り下ろす。

 これも、ぴたりと止まった。


「・・・」


「ありがとうございます。これで、機材の調整はすべて完了です」


 マサヒデは刀を納め、


「早めに済んで良かった。では、昼過ぎに皆さんが来ますので、よろしくお願いします」


 と、頭を軽く下げた。

 アルマダも「よろしくお願いします」と頭を下げる。


 マツはその2人を見て、


「それでは、時間も出来ましたし・・・早速ですが、ここでやりましょうか」


 そう言って、2人を見つめた。


「やる、と言いますと・・・」


「ええ。魔術師との、特訓ですよ。いかがでしょう」


「ここで、ですか? 大丈夫でしょうか」


「大丈夫です。お許しは頂いておりますし、私もここを()()()()()()()しますので」


「壊れないように、ですか?」


 マサヒデとアルマダは目を合せ、頷いた。


「では・・・よろしくお願いします」


「うふふ。お二人の本気のお力、見せてもらいますよ。真剣で構いません。さあ、行きましょう」


 マツは訓練場の真ん中に向かい、マサヒデとアルマダも後を着いていった。


「さ、では参りますよ」


「お願いします」「お願いします」


 と頭を下げた瞬間、空気が変わった。

 音がしない。

 さっきまで、ロビーから人の声がしていたが・・・


「?」


 と2人は周りを見渡すが、静かになった以外、何か起こった気配はない。

 マツは笑顔で、


「お二人共、今、死にましたよ。私が一本いただきました」


「え?」


 何かが起こったようだが、さっぱり分からない。


「今、ここは、訓練場ではありません。別の世界です」


「別の世界?」


「さあ、良く見て下さい。感じてみて下さい。何か、分かりませんか?」


 2人は周りを見渡すが、何が変わったのか、さっぱり分からない。


「すみません、マツさん。一体、何が起こったのでしょう? 静かになったのは分かりますが・・・」


「では、扉を開けてみて下さい」


「扉? 分かりました」


 マサヒデは答えて、扉を開けに行ったが・・・


「あれ?」


 扉を押しても引いても、びくともしない。


「さあ、ハワード様も」


 アルマダも扉の前に行き、マサヒデと一緒に扉を押したり引いたりしてみるが、全く動かない。

 鍵をかけられたとか、古くなって動かなくなったとか、そういう感じではなく、壁のように全く動かない。

 2人はマツの元に戻り、


「これは一体?」


 と聞いた。


「そうですね・・・ここは先程と同じ訓練場のように見えますが、閉じ込められています。出ることは出来ません。他の方からも見えません。声も聞こえません。誰かが訓練場に入っても、あなた方にも見えませんし、その方からも見えません。もちろん、触ることも・・・あなた方は、誰にも見えない幽霊のように、飢えと乾きで死ぬまでずっとこの中・・・」


「え!」


「もちろん、この魔術をかけた私は、出ることが出来ます。さて、私が一本ですね」


「・・・」


「まあ、これは私特製の魔術の一つ。他に使える方はいないと思いますが・・・ふふふ。いかがですか。これが、魔術です」


「・・・参りました・・・」


「さあ、訓練場に戻りましょう」


 また何か空気が変わった。

 急に、ロビーからの喧騒が聞こえる。

 周りの景色は、全く変わっていない・・・


「さあ、今度は基本的な魔術で参りますよ。お怪我をされても、すぐに治します。お二方、真剣でご遠慮なく」


「・・・お願いします」


「では」


 と、マツが言った瞬間、足元から熱を感じ、2人は飛び下がった。

 瞬間、火柱が上がる。すごい熱だ。


「うわ!」


 熱に耐えきれず、2人はさらに後ろに飛んだ。

 そこに・・・


「あ!」


 背後の宙に大きな水玉が浮いていて、ばちゃん、と2人はそこに飛び込んでしまった。

 水の向こうに、マツの姿がゆらゆらと見える。

 何とか飛び出そうとするが、足が宙に浮いていて、跳ぶことが出来ない。

 腕をかいて出ようとしたが、光が見えた瞬間、2人は気を失った。


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