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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十六章 二日酔い
423/762

第423話


 魔術師協会。


 坊主が去り、しばらくして。

 シズクが胸を撫で下ろしながら、


「怖かったねえー・・・」


「まあ、そうですが。でも、ありがたかったですね」


「ええ。本当に」


 ふう、と息をついて、シズクが冷めた茶をぐいっと飲み干し、


「でもさ、帰る時、ちょっと笑ってたよ。嬉しそうだった」


「そうでしたか」


「ありがたいことです」


 マサヒデとマツは箱に数珠をしまい、


「奥の間に置いておきましょう。今日のこと、忘れないように。

 パーティーには、着けていきませんと」


「はい」


「んふふ、折角あげたのになんだ! って、お坊様が怒っちゃうもんね」


「違いますよ。これは、結婚指輪と同じ物なんです」


「え? そうなの?」


「そうです。わざわざ、届けてくれたんですよ」


「ふうん・・・」


 シズクはじっと箱を見つめ、顔を上げて、


「ね、マツさん」


「なんでしょう?」


 くす、とシズクが笑い、マサヒデを指差して、


「マサちゃんの顔。腫れてきちゃったよ」


 あ、とマサヒデが叩かれた頬に手を当てる。

 マツもマサヒデの顔を見て、


「あら本当! マサヒデ様、動かないで」


 マツが手を当て、治癒魔術をかけると、マサヒデの真っ赤な頬が戻る。


「ありがとうございます」


「んっふふふ。気付かなかったら、ぱんぱんに腫れたね!」


「ふふふ」


「あ、そうだ!」


 ぱん! とシズクが膝を叩き、


「ねえねえ、マツさん。さっき、マサちゃんと話してたんだけどさ」


「なんでしょう?」


「あのさ、パーティーに行く時って、中に刀は持ってけないの?

 預けちゃうって聞いたけど」


「ええ、そうですよ。入り口で預けるんです」


「じゃあさ、クレール様が言ってた作戦、出来ないじゃん。

 預けちゃったら、皆、刀見れないよ」


「出来ますとも。私達は、会場の前のロビーで、皆様をお出迎えするんですから。

 皆が、マサヒデ様のご立派な刀を見ながら、中に入って行くんですよ。

 わあ、すごい! って。ね?」


 ぽん、とシズクが手を叩いて、


「あ、外で皆の迎えするのか! なーるほどねー!」


「そういう事です」


「でもさ、ホテルの人も大変だよね。皆の得物、預かるんでしょ?

 そりゃ全員が持ってるってわけじゃないと思うけど、すっごい一杯だよねー」


「そうですとも。帰りに間違えてお渡しなんかしたら、大変なんですから」


「でもさ、カゲミツ様の刀も預かるでしょ?」


「そうですが、何か?」


「あれ、預けて大丈夫? 魔剣よりヤバいかもって刀でしょ?」


「あ、そうですね・・・大丈夫でしょうか・・・」


 ふ、とマサヒデが笑って、


「大丈夫ですよ。カオルさん、シズクさん、レイシクランの皆さん。

 これだけの警備がいて、盗まれたりなんかしませんよ」


「帰る時に、さあどうぞ! あ! 間違えて誰かに渡しちゃったー! なんて!」


「あ、そういう事もあるのか。もしそうなったら大変ですね」


「うふふ! お父上も大慌てでしょうね!

 まあ、そんな事はないと思いますよ」


「どうしてです?」


「他の方の得物と一緒に預かったりは、絶対にしないでしょう。

 別にして、それはもう厳重に預かると思いますよ。

 中身を知らなくたって、『剣聖の得物』なんですもの。

 万が一間違えたりしたら、文字通り首が飛ぶかもしれないんですから」


「あははは! 怖いねえ!」


「間違えてしまう心配はいりません。

 ブリ=サンクは有名店ですから、パーティーも少なくないでしょう。

 パーティーがあれば、いつも同じ事をしているんですから。

 こんな事、慣れてますよ」


「ああ、そうですよね」


「そういう事です。間違えてマサヒデ様の雲切丸がどこかへ、何てこともありませんから、ご安心下さいませ」



----------



 昼餉の時刻。


 坊主が来て時間を取られたので、シズクは代稽古に行かず、3人で。

 マサヒデは軽くに済ませておいた。

 また二日酔いになりはしないかと、緊張している。


「うむ。オオタ様、いつ来ますかね・・・」


「マサヒデ様。カオルさんのお薬は確かなんです。

 ご安心なさいませ」


「そうだって。それにさ、私もいるんだぞ。

 一緒に呑んだら、持ってきた酒なんかあっという間に無くなっちゃうって。

 さあどうぞ! って言われたら、遠慮なく行っちゃうからな!」


「シズクさん。あなたが頼みです。よろしくお願いしますよ」


 から・・・


 玄関の開く音。

 ぴく! とマサヒデの身体が固まった。


「只今戻りました」


「ふう、カオルさんか・・・」


 さ、さ、と静かに上がってきて、カオルが手を付いて頭を下げた。

 す、と頭を上げて、


「ご主人様。ご加減は」


「ええ。大丈夫ですよ」


「昼餉はもう?」


「はい」


 カオルが懐から畳まれた紙を取り出す。薬だ。


「では、そろそろこちらを。酔い止めです。

 オオタ様が、仕事が一段落したらすぐに参ります、と。

 半刻もかからないかと思いますので」


「もう飲んじゃって良いんですか?」


「はい。人によりブレはありますが、短くても三刻は持ちますから」


「え、そんなに長く?」


「今からであれば、夕餉の時刻までは、必ず持ちましょう。

 ただ、即効性ではありませんので、今のうちに」


「む、分かりました」


 マツが湯呑に水を入れて持ってきてくれた。

 さらさら、と口に入れ、ごくんと飲み込む。


「む・・・うむ?」


 マサヒデが首を傾げる。


「ご主人様? どうかなさいましたか? 気分でも」


「あ、いや。先日の、あの二日酔いの薬、あれ、さーっと効いたもんだから」


「こちら、即効性ではございませんので」


「あ、そうですよね・・・ところで、これ、何か副作用とかあるんですか?

 飲んじゃってから聞くのもおかしいですけど」


「特にどうということもないかと。

 ただ、今日は呑むからといって大量に飲みすぎると、肝臓を痛めます。

 どんなに長く呑むとなっても、必ず、1日にこれ1包までで。

 過ぎれば薬も毒となる、という事になります」


「分かりました」


「それと、乾酪チーズを買ってきます」


「乾酪? 二日酔いに効くんですか?」


「二日酔いというより、少しですが酔いが回らないようにしてくれます。

 酒が入ると、肝臓は酒を分解しようと、とにかく全力で回ります。

 乾酪はそこに栄養を送り、肝臓を助けてくれる訳です」


「へえー・・・」


「結果、酔いが回るのを、多少ですが、抑えてくれるという訳です。

 よくワインのつまみについてくるのも、こういう効能があるからです。

 呑む前に、まず乾酪をつまんでから、という形がコツですよ」


「へえ・・・そうだっだんですね・・・」


 少し得意気な顔でカオルは立ち上がり、


「では、行って参ります」


 と、ささー、とカオルは出て行った。

 マサヒデは感心した顔で、


「マツさん、知ってました?

 乾酪が酔いが回らないようにするだなんて。

 私、初めて知りましたよ」


「いえ、全然。私も初めて知りました。カオルさん、すごいですね。

 きっと、色んな薬を作れるように叩き込まれて、こういう知識もあるんですね」


「うーん・・・あのさ」


 シズクが首を傾げながら、


「マツさんに、そういう知識、いる?

 魔王様の一族が、酒で酔うのかな?

 私よりも、お酒に強いんじゃないの?」


「まさか! シズクさんみたいに、沢山飲めませんよ。

 すぐにお腹がいっぱいになっちゃいますし」


「ほら、火が着くくらい強いお酒だったら、量も少なくて済むでしょ。

 今度、クレール様も入れて、そういうので飲み比べしてみない?

 鬼とレイシクランと魔王一族、どの種族が一番呑めるか!」


「む・・・それ、興味ありますね・・・」


「カオルはどっかにバレないように流しちゃうだろうし、あいつは抜きね」


「ははは!」


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