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勇者祭  作者: 牧野三河
第三十三章 洞窟

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第366話


 カオルが門の前に戻ると、カゲミツがじっと白百合を見ていた。


 カゲミツは白百合を見ながら、


「随分と早かったな? 良い物あったかい?」


 カオルは深く頭を下げ、


「は。ぴたりと馴染むものが」


「どれ選んだ」


 カゲミツがカオルに顔を向け、カオルが選んだ2振を差し出す。

 おや? とカゲミツが眉を上げた。


「こいつで良いのか? 長くねえか?」


 と、モトカネを手に取った。


「はい。ちゃんと抜けますので」


「ほおーう? 抜いてみてくれるか」


 と、カゲミツがモトカネを差し出す。

 カオルは腰の小太刀を外し、モトカネを差し、右手を前に出した。

 ぴ! と抜かれたモトカネを見て、


「おや、三傅流じゃねえか。この辺じゃ、あまり見ねえが・・・誰に習った」


「研師のイマイと申されます方に」


 カゲミツが胡乱な顔をして、


「何? 研師?」


 ふふ、とイマイを思い出し、カオルが笑いを漏らす。


「はい。職人街では『変態』と呼ばれておられるそうで。ふふ」


「変態ぃ? なんだ、やべえ研ぎでもするのか?

 研いだら地金にお花畑でも咲くのか?」


「イマイ様が、首都で研ぎの修行をしておられました頃、一番近かった道場が、三傅流だったそうです。刀が好きで好きで仕方なく、只々、自分の研ぎの出来を試したくて、ちゃんとした刀の振り方を習った、と」


 カゲミツが顔を空に向け、大声で笑い出した。


「ははは! そこまで刀好きで変態か! ははは!」


「ふふふ。強くなりたい、強い者と戦いたい、などという気持ちは皆無だそうで。

 ですが、刀を鞘から投げて抜いたのには驚きました」


「何!? そこまで使えるのに、強くなりたいって気持ちは皆無ってか!

 面白い研師じゃねえか! ははは!」


「研ぎの腕は確かで御座います。

 あのホルニ様の、名無しの名刀は、イマイ様の手で研ぎ上げた物で」


 お? とカゲミツが笑いを止め、


「あの刀、その変態さんの研ぎだったのか?」


「ええ。国の職人大会でも、何度も入選されておられるそうで」


「ほお・・・それは面白いな。ふふふ、選んだ2本、見せてやってくれ。

 見てもらった通り、蔵にはその程度の物は山になってるんだ。

 気になったら、いつでも来い、好きなだけ見せてやるって伝えてもらえるか」


 にや、とカゲミツは笑い、


「機会があれば、特別なのも、ってな」


「は」


「で、もう1本はそれか。確か、それ、銘は切って無かったよな」


「はい」


「誰のか分るかい?」


 カゲミツが探るような目で、口の端を上げてカオルを見る。


「誰の作かまでは・・・おそらく、ジョウサン派の作ではないかと」


 笑いながらぱちぱち、と拍手して、


「当たりだ! 流石に中々の目だな。良い物、選んだじゃねえか」


「恐縮です」


「ふふふ。どっちも斬れるが、そのモトカネはとびきり繊細だぞ。荒く扱うなよ」


「肝に銘じます」


 カゲミツは白百合に目を戻し、


「ところで、こいつの名は?」


「白百合です」


「ええ? 白百合・・・カオルさん・・・」


 ごつくて大きな白百合を見て、カゲミツが眉を寄せた。

 カオルは慌てて、違う違う、と手を振り、


「あ! いえ、私ではなく、奥方様がどうしても花の名が良いと!

 その・・・名付け親は奥方様でして・・・」


「マツさんが? そうかい・・・マツさんがねえ・・・」


 ふ、と小さくカゲミツが笑い、


「ふ、ふふふ。マツさんも面白い所があるな。ふふふ、白百合か」


「は・・・」


「優しそうな馬だな?」


「はい。度胸もありますが、この馬は優しさが一番かと」


「うん。良い馬だ」


 ぽんぽん、とカゲミツが白百合の首を叩き、


「ありがとよ」


 と言って、カオルの方を向いた。


「で、稽古してくんだろ? どうだ、少しは分かったか?」


「あ・・・その、申し訳ありません。午後から所用がありまして。

 お誘いは大変ありがたいのですが、本日はこれにて」


「そうか。じゃあ、また稽古に来いよ」


「は。また、よろしくお願いします」


 と、カオルが頭を下げた。

 カゲミツはにかっと笑って、


「引き止めて悪かったな。じゃ、またな!」


 と、手をひらひら振って、道場に戻って行った。

 去って行くカゲミツの背に、もう一度頭を下げ、手綱を解いて白百合に跨った。



----------



 町には、何とか正午ぎりぎり前に帰る事が出来た。


 貰った無銘のジョウサンとモトカネを部屋に置いて、白百合を厩に戻し、慌ててギルドの食堂で飯をかき込んで、戻ればとっくに昼は過ぎていた。


 既にラディとアルマダ達の組が来ている。

 待たせてしまったか。

 居間に入って手を付き、


「皆様、申し訳ありません。お待たせしました」


 少し慌てた感じのカオルを見て、マサヒデが笑って、


「お帰りなさい。急がせてしまったようですね。

 で、父上から何を貰ってきました」


「ジョウサン派の作と、モトカネの作を」


 ぴく、とラディが反応した。


「おや、2本も頂けましたか。良かったじゃないですか」


 反応したラディを見て、くす、とマサヒデが笑い、


「ラディさん、どう思います?

 ジョウサン派の作とモトカネなら、流星刀を出した価値はありましたかね?」


「出来によります」


 と、口では厳しい言葉を吐きながら、眼鏡の向こうの瞳が輝いている。

 くすくすと皆が笑う。


「カオルさん。どちらを差して行きます?」


 カオルは少し考え、


「ジョウサンを」


「じゃあ、モトカネはラディさんに預けてもらって良いですか。

 我々が洞窟の中を歩いている間、ラディさんに見てもらいましょうか」


 ふ、とカオルが笑い、


「承知しました」


 と、部屋に戻って、腰の小太刀をジョウサンに替え、モトカネを持つ。

 居間に戻って、ラディの前に座り、


「どうぞ」


 と、モトカネを差し出した。

 ラディが受け取って、柄に手を掛けた時、


「ラディさん。後でですよ。我慢して下さい」


「えっ」


 ラディが顔を上げた。

 マサヒデがにやにや笑いながら、


「向こうで、我々を待っている間の暇つぶしに、見て下さい」


「あの、少しだけ」


「駄目です。いつまでも見ちゃうんですから」


「はい・・・分かりました」


 何とも言えない顔で俯いたラディを見て、皆が笑い声を上げた。

 落ち着いた所で、カオルが縁側で笑っている騎士を見て、


「時にハワード様、もうお一方は?」


 4人いる騎士が、3人しかいない。


「ああ、荷物の見張りや、馬の世話をする者が1人は必要ですから。

 トモヤさんも、明るい内は寺にいますので」


「留守居ですか・・・それは少し、お可哀想な」


「私もそう思いますが、仕方ありませんね。金に鎧に馬に・・・

 あのあばら家は、今、宝の山になってしまっていますから」


 カオルが頷き、


「確かに」


「ちゃんと公平に、くじ引きで決めたんですよ。

 私も含めて、留守居を誰にするかって」


「え? ハワード様もですか?

 もし、当たりを引いてしまったら、どうなさるおつもりで」


「私が留守を預かりました」


「え? それは・・・」


 縁側に座ったサクマが振り向いて、


「こういう所が、アルマダ様の良い所なのですよ」


 と、笑った。

 アルマダは少しだけ照れくさそうに笑い、顔をほんの少しだけ逸して、


「カオルさん。後で選んだ得物、見せて下さいね」


 と言って、立ち上がった。


「じゃあ、マサヒデさん。マツ様」


 マサヒデとマツが頷き、


「行きますか」


「うふふ。皆様、お任せ下さい」


 皆がぞろぞろと庭に降り立った。

 マツの側に、マサヒデ、シズク、アルマダが並ぶ。

 クレールの横に、モトカネを両手で抱いたラディが立つ。


「さ、カオルさんもこちらへ」


「は」


 と頷いて、カオルもマツの前に並んだ。

 クレールはラディ1人、マツはシズクも含めて、4人。


「一度に運べるのは、これが限界ですので・・・

 では、クレールさん、付いて来て下さいね。

 皆様、速く飛びますから、飛んでいる間は、目を開けてはいけませんよ。

 風で目を痛めたり、潰れてしまったりする恐れがありますので」


 と言って、ぶわ! とまとめて4人と共に空に浮いた。


「行きます!」


 クレールもラディと浮き上がったが、


「あーっ! ちょっと待って下さい! マツ様! 待って!」


 と、風の中で大声を上げ、クレールが降りた。

 クレールは驚いたラディの顔を見上げ、


「ラディさん、風で眼鏡が落ちてしまったら大変です。

 外しておいて、落ちないように、大事に懐にしまっておいて下さい」


「あ、あ、そうですね。落ちたら・・・」


 慌ててラディは手拭いを出して眼鏡を包み、懐に仕舞い込んだ。

 うん、とクレールはうなずいて、


「マツ様、お待たせしました! 行きます!」


 クレールとラディが再び浮かぶ。

 2人が顔を見合わせ、頷いた後、マツ達がぶわっと上がって行った。

 少し遅れて、クレール達も飛んで行った。


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