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勇者祭  作者: 牧野三河
第二十七章 狩りに行こう
298/758

第298話


 森の反対側。

 ラディが鹿を撃った時。


 ぱぁん・・・ぱぁん・・・ぱぁん・・・

 銃声が響いて聞こえた。


「おっ?」


「あっ」


 マサヒデとシズクが足を止めた。

 そのまま、しばらく経って・・・


「ラディさんですね」


「当たったのかな?」


「どうですかね・・・」


 またしばらく待ってみたが、2発目の音はしない。


「当たったのか、逃げられたのか・・・次を撃ちませんね」


「当たったんだよ! 私達も早く何か見つけようよ!」


「そうですね。負けてはいられませんよ」


 マサヒデとシズクは、かさかさと落ち葉を踏んで歩き出した。


「何が狩れたのかな? 鹿かな? 猪かな?」


「でしょうね。小さな獲物なら、おそらくカオルさんが弓で仕留めるでしょう」


「じゃあ、私らも大きい獲物を見つけないとね!」


「ええ。鹿は見つけたいですね・・・」


 歩きながら、シズクがたまにすんすん、と鼻を鳴らす。

 風は殆どないが・・・


「何か臭うんですか?」


「んん・・・いや、いるんだよ。確かにいるんだけどさ・・・

 今、近くにはいないかなあ・・・そんな気配も感じないし。

 何かの縄張りに入ったのかな? はっきり分からないけど」


「ふむ。少し気を付けて進みましょうか」


「だね」


 周りに慎重に目を配りながら、2人は歩く。

 何か痕跡はないか・・・


「ん」


 ぴた、とシズクが足を止めた。


「どうしました」


「木の匂いだ。何かが、木をかじったか、引っ掻いたか・・・

 生木の匂いがする。こっちの方だよ」


 がさがさ・・・


「この辺だね・・・」


 何もいる気配はしないが、一応・・・

 す、とマサヒデは弓を取り出す。


 すんすん、と鼻を鳴らしながら、シズクが周りを見回し、ゆっくりと歩く。

 マサヒデにも匂いが分かる。

 これは、新しい傷だ。


「うーん・・・近いね。すぐ近くにいる。何かいるよ」


 獣の臭いはしない。

 木の匂いで紛れているのだろう。

 地面を見てみるが、落ち葉が積もっていて良く分からない。

 土の出ている所には、痕跡がない。


「・・・」


「マサちゃん、何か分かる?」


「ううむ・・・土が出ている所には、足跡がないですね。

 落ち葉の上を歩いていったのでしょう。

 カオルさんなら分かるかもしれませんが」


 2人は目を瞑って、耳を澄ましてみる。

 さわさわと揺れる木の葉の音。

 かさかさと小さく舞い、転がる落ち葉の音。


「シズクさん、分かりますか」


「いや・・・でも、近くにいるよ。多分、いるね。私の勘だと、あっち」


 す、とシズクが指を向ける。


「では、あちらへ行きましょう。

 シズクさんの勘なら、間違いないでしょう」


「ふふーん!」


 シズクも懐から石を出した。

 ぽん、ぽん、と軽く投げ、


「木を削ってるから、猪かもね」


「猪・・・ちょっと、この矢だと無理がありますか」


「何本も当てればいけると思うけど、急所にばしばし当てないと。

 猪は硬いから、多分逃げられるよ」


「やはりそうですか」


「走り出したら、結構速いよ。

 逃げると思ったら、すぐ跳び込んで、足斬っちゃいなよ」


「む、分かりました」


「まあ、私がこれ投げつけてもいいけどね!」


「ああ、そうですね。じゃあ、止めは任せます。

 最初だけは、私に射たせて下さいよ?」


「どうぞどうぞ!」


「よし・・・行きますか」


「はーい」



----------



 四半刻ほど歩いて行くと、


「む・・・シズクさん、あれ」


「んん?」


 近付いていくと、地面が浅く掘り返されている。

 人のものではない。

 これは、獣だ。


「猪でしたね」


 すぐ横に足跡がある。

 特徴的な、前がふたつの足跡。


「ふっふーん。今日の晩飯は、豪華になりそうじゃなーい!」


「ふふふ。楽しみですね」


 手で掘り返された穴の土を触る。


「土がそんなに乾いていない・・・新しい。近くですね」


「だね。んー・・・分かるよ。いるね。あっちだね。間違いない」


 方向を変えて、少しそれたようだ。

 茂みがある。


「ううむ。あんな茂みから突っ込んで来られたら、怖いですね」


「マサちゃんなら、避けられるでしょ?」


「あいにく、猪と立ち会った事はないんですよね」


 まっすぐ茂みに向かわず、横から回るように、ゆっくり向かって行く。

 見られている。はっきりと感じる。何かに見られている。


「見られてますね・・・近い」


「うん・・・」


 少し歩いて、ぴた、とマサヒデが止まり、手を挙げた。

 腰を落として、前を指差す。

 猪がいる。


「いたね」


 ふ、ふ、と鼻を鳴らしながら、木の陰からこちらを見ている。

 だが、威嚇している感じではない。

 すぐにでも逃げそうだ。


「角度が悪いですね・・・でも、少しでも横に出ると、逃げられそうだ。

 ゆっくり、下がってから回りましょう」


「ほーい」


 矢をつがえたまま、少しずつ下がる。

 猪は動かない。


「よし・・・」


 少しずつ、右に回っていく。


「ううん・・・美味そうだねえ・・・絶対に狩るよ」


「はい」


 すり、すり、と落ち葉を鳴らしながら、少しずつ。

 良し。猪の正面。

 この距離なら、突っ込まれても避けられる。


「では・・・シズクさんも、良いですね? 止め、頼みますよ」


「任せてよ」


 き・・・と弓を引いて、ぱ! しゅっと矢が飛んでいく。

 顔に当たった。


「あれっ」


「ぶぃぃー!」


 猪が後ろ足で立ち上がるように、前足を上げた。

 ぶん!

 マサヒデの顔の横を、石がすっ飛んでいく。

 ばつん! と音がして、猪の顔の前半分が弾けて、どすん、と音を立てて倒れた。


「どうしたの?」


「いや、胸の辺りを狙ったんですが・・・顔に当たっちゃいましたね」


「へへーん! まだまだだね! 私のはもろに入ったよ!」


「ええ・・・」


 近付いて行くと、ぴくぴくと猪が震えながら、足を動かしている。

 弾け飛んだ肉片と、猪の牙、折れた矢が落ちていた。


「あっ・・・矢が折れちゃったじゃないですか」


「あちゃー・・・ごめん・・・」


「ま、仕方ないですね。沢山買ってあるし、構いません」


 折れた矢と牙を拾って、


「じゃあ、ちょっと後ろ足を持って持ち上げて下さい。首、落としますから」


「ほーい」


 シズクが後ろ足を持って、持ち上げる。

 す、と刀に手をかけて、


「ん・・・そうだ。試してみますか」


 刀匠ホルニの、会心の作。

 脇差を握る。

 す、と抜いて、


「む!」


 ぴ! と脇差が横に振られた。

 手にしっかりと骨まで斬った手応え。

 振り切った所で、マサヒデが止まった。

 少し残して、首の斬り口が開き、血がどぼどぼと流れ落ちる。


「う・・・ううむ・・・」


「うわ! すごいね・・・」


「すごい斬れ味だ・・・こんな分厚い皮で、太い首なのに・・・

 これ、脇差ですよ。骨までこんなに簡単に斬れるとは・・・」


 懐紙を出して、そっと刃を拭い、よく刃を見てみる。

 シズクも顔を近付けて、刃を覗き込む。

 図太い猪の首を骨まで斬ったというのに、全然刃が傷んでいない。


「まじかよ・・・こんなぶっとい首、骨まで斬って、全然傷んでないよ・・・

 これ、もうマサちゃんの腕がどうこうって問題じゃないよね」


「恐ろしい出来だ・・・」


 これが、刀匠ホルニの会心の作。

 名刀と呼ぶのに、相応しい出来だ。

 マサヒデとシズクは、脇差をじっと見つめ、喉を鳴らした。


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