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勇者祭  作者: 牧野三河
閑話 魔剣、再調査
276/778

第276話


「じゃあ、魔剣の話も出ましたし・・・

 そろそろ、最後にもう一度、ですか」


 ちら、とマサヒデがマツの方を向いて、小さく頷く。

 ラディの着込みはもう出来ている。

 取りに来てもらって、試すのだ。

 他の剣の力まで、再現出来てしまうかどうか。


 この可能性を知っているのは、マサヒデ、アルマダ、マツ、ラディだけ。

 この調査はすぐに終わるが、絶対に見られてはならない。


「じゃあ、まだ日も高いし・・・やりますか。

 カオルさん。使いを頼みます。

 ラディさんと、あとアルマダさんも呼んできてもらえますか」


「は」


 すっとカオルは立ち上がり、静かに出て行った。

 クレールが首を傾げ、


「マサヒデ様、ハワード様もお呼びになるんですか?

 着込みはラディさんのだけですよね?」


「ええ。そうですよ。アルマダさんには他の用があって、来てもらいます」


「他の用ですか?」


「ええ。すぐ終わりますから、後はアルマダさんと訓練場でも行きましょうか。

 アルマダさんも、父上から教えを授けてもらったそうですしね」


「教え・・・」


 ば! とクレールがマツの方を向く。


「マツ様! 私に何か教えを下さい!」


「え? 教えですか? いたずら心?」


「他に何かありませんか!」


「ええ? ううん・・・急に言われても・・・」


 2人の様子を見て、にやにやとマサヒデが笑って、


「クレールさん。私にひとつクレールさんへの教えがありますよ。

 教えというより、思い付きですけど」


 がば! とマサヒデに振り向いて、前屈みにマサヒデに顔を近付ける。


「なんですか! 下さい! 教えを下さい!」


「クレールさん、死霊術を使うから、火や風の魔術に制限があるでしょう?」


「はい!」


「じゃあ、死霊術を使いながら、火や風も使えるようにしてみては?」


「ええ!? ど、どうやって・・・」


「さあ・・・私は魔術に疎いので、さっぱりですけど。

 でも、出来たらぐっといたずらの手が増えますよ?」


「む・・・むむむ・・・後は自分で考えろと・・・」


「いや。ただの思い付きですよ。まあ、無理かもしれませんけど」


 無理かもしれませんけど。

 これは私への挑戦状か!?


「む・・・むー・・・」


 きりきりとクレールの頭が高速回転する。


 火は難しい。

 死霊術で呼び出すのはあくまで生き物だ。

 生き物は基本的に火に弱い。

 両方を同時に相手に向かわせる事は出来ない。

 どう絡めていくか・・・


 風はどうだろう。

 今使っている虫ではない、簡単に飛ばされない大きな生き物を呼び出せば良い。

 しかし、大きな生き物となると、魔力も集中力も必要だ。

 それが出来るか!?


 頭から煙が出そうなほど真剣に考え込むクレールをよそ目に、


「マサヒデ様、それは無理では?」


「・・・すみません。素人の思い付きで」


「くぁっ・・・」


 変な声を出して、かくん、とクレールの肩が落ちてしまった。


「もーう! マサヒデ様、無理じゃないですかー!」


「いや、だから、ただの思い付き、無理かもしれないって言ったじゃないですか」


「むぐぐ・・・」


「あ、でも、これは出来そうってのがもうひとつありますよ」


「なーんですかあ?」


 クレールが全然期待を感じられない声を出す。


「うふふ。マサヒデ様、どんなものですか?」


「簡単に言うと、水鉄砲です」


「水鉄砲? あの、水を・・・あっ」


 マツがはっと目を見開く。


「ええ。水の魔術、水球をそのまま飛ばすだけでしょう。

 こう水をぎゅーっと押し込んでから、勢い良く飛ばすのは、どうでしょう」


「む、マサヒデ様、それは中々良いですよ・・・押し込んで、勢い良く・・・」


 マツは眉を寄せたまま、すっと立ち上がって庭に下りて行く。

 庭へ下りて行くマツを見て、クレールもこれは本当だ、と緊張して見つめる。


「・・・」


 ふわ、とマツの前に小さな水球が浮かんだ。

 す、と手を上げると、水球が宙でぐぐっと押され、押し潰されたような形になる。


「うわ・・・クレールさん、あれすごい形ですね」


「はい・・・」


 少しして、かん! と音がして、壁に綺麗に丸く穴が空いた。

 水球が飛んだのだろうが、2人には全く見えない速度だ。


「おお!?」


「す、すごいです! 水球で!?」


 2人が驚嘆の声を上げ、マツも驚いた顔で壁を見つめた。


「ううん・・・ここまでの威力が出るなんて・・・水鉄砲・・・水鉄砲・・・」


 また、ふわ、と水球が浮かぶ。

 すっと手が上げられ、水球が押し潰される。


「・・・」


 潰された水球の先から、細い水の線が出て・・・


「あ!?」


「ええ!?」


 マツがすーっと水球を動かすと、それに沿って水の線も動いていく。

 かたん・・・

 水で斬れた壁が落ちた。


「ううん・・・」


 マツが唸る。


「マツさん、すごいじゃないですか!」


「本当! すごい思い付きだったんですね!」


 2人は驚いたが、マツは今回は不満げに首を傾げている。


「ううん、これなら、かまいたちの術で出来ます。最初の使い方が良いですね」


「確かに。かまいたちの魔術もすごい斬れ方しますもんね」


「水も飛んでいけば勢いも弱くなります。すごく近くでしか切れませんし、この細さでは、ほんの少し離れただけで使い物になりません。魔力の使い方も複雑です。でも、最初の使い方なら、初心者でも簡単ですよ」


「ううむ、なるほど?」


「マサヒデ様、これはすごい発見ですよ。素晴らしいです。

 ほとんど基本的な使い方なのに、水の魔術の威力が大きく上がります」


「そうなんですか? 良く分かりませんけど、威力はすごかったですね」


「クレールさん、最初の使い方、見ておりましたね」


「はい!」


「この術、練習しましょう。魔力の操作もいたって単純です。

 こんな小さな水球で、シズクさんでも昏倒させられそうな威力です。

 押し込んでも弾き跳ばないよう、周りを抑え、最後に前の壁を取るだけです」


「そんなに簡単に!? マサヒデ様、すごいです!」


 2人の目は爛々としているが、マサヒデにはいまいち凄さが分からない。

 散々マツの魔術を見ているので、魔術の心得のないマサヒデにはさっぱりだ。

 2人の尊敬の眼差しが、きらきらとマサヒデに向けられた。


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