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勇者祭  作者: 牧野三河
第二十一章 魔剣ラディスラヴァの力
222/758

第222話


 小さなナイフから、杖が伸びた。

 小さなナイフから、刀の刃が伸びた。

 この魔剣の力はこれだ。


「マサヒデさん。私も良いですか」


 頷いて、アルマダに魔剣を手渡す。

 魔剣を睨み、ぐっと集中するアルマダ。

 しばらくして、音もなくアルマダの剣と同じ形の黒い刃が浮かぶ。


「・・・カオルさん」


 ふう、と息をつき、アルマダがカオルに魔剣を差し出す。

 カオルが魔剣を受け取り、眉を寄せ、ぐっと魔剣を睨んで集中する。

 黒い小太刀の刃が浮かぶ。


「・・・」


 少しして、す、と小太刀が消える。


「す、すげえ! どんな武器にもなるのか!」


 驚いた顔で、シズクが声を上げる。


「すごいですね・・・」


 マツも呆然と魔剣を見つめる。

 皆がじっとカオルの手の魔剣を見つめる。

 マサヒデ、アルマダ、カオルは険しい顔だ。


「カオルさん」


 カオルが頷いて、差し出されたマサヒデの手に魔剣を渡す。


「シズクさん、ちょっと枝を持ってきてもらえますか。

 一握りくらいの太さのやつを」


「分かった!」


 シズクが走って行って、木からめしっと枝を握り折って持って来る。


「このくらいでいいかな?」


 3寸程の太さ。ちょうど良いだろう。


「じゃあ、立てて持ってて下さい」


 ぐっと魔剣を握り、刀を思い浮かべて、思い切り集中。

 刀の刃がすっと浮き出る。

 集中を切らさないよう、横に薙ぐ。

 何の抵抗もなく、枝を通り抜ける。


(これは!?)


 驚いて集中が切れ、すっと刃が消えた。


「ん? 切れた?」


 シズクの手にも、何の感触もなかったようだ。

 おかしいな? という顔で棒を横に向けると、ぱら、と枝が落ちる。


「ああっ! なんだこれ!?」


 驚いて、シズクが声を上げる。

 切り口は綺麗に磨かれた家具のように、つるっとしている。


「うわあ・・・すごい・・・」


「こんなに・・・」


 クレールとマツも驚いて切り口を見る。

 ラディは気付いたのか、はっとして目が厳しい物になる。

 マサヒデは集中しすぎて気疲れしてしまい、魔剣を見て、息をつく。


「ふう・・・もう一度・・・シズクさん、今度は、枝を上から落として下さい」


「わ、分かった」


 思い切り集中力すると、刃が浮き出る。

 シズクが握っていた部分を落とすと、すとん、と枝が地面まで落ちて行った。

 地に落ちた枝が、真っ二つに割れる。磨かれたような切り口。


「す、すげえ! すげえじゃん! これなら何でも斬れるぞ!」


「ほんとですね! シズクさんの鉄棒でも切れそうです!」


「次はシズクさんの鉄棒で試してみましょう!」


 浮かれる3人。

 対照的に険しい顔のマサヒデ達。


「これは使えませんね。アルマダさんはどうです?」


「無理ですね。カオルさんは?」


「とても無理です」


 え? という顔を向けるマツ達。


「どうして使えないんですか? すごいじゃないですか」


「これ、ものすごく集中してしないと武器が出ません。

 斬り合いの最中に、自分の手元ばかり集中してたら、やられちゃいます」


「あ・・・」


「それに、切れすぎます。

 さっき、シズクさんが枝落とした時、すとんと落ちちゃったでしょう。

 これで相手の攻撃を受けたらどうなるか、分かりますか」


「えっと・・・どうなりますか?」


 マサヒデが魔剣を取り、頭の上で横に構える。

 すっと刀が出る。


「アルマダさん。枝を」


 アルマダがこくんと頷き、落ちた枝を拾って軽く振り下ろす。

 すとん、と切れて、枝がばさっとマサヒデの頭に落ちる。

 枝が当たって集中が切れ、す、と魔剣から刀が消える。


「こうなります。これが剣だったら、切れた剣先が頭に落ちてきます」


「あ・・・」


 ふ、とアルマダが笑う。


「おとぎ話に『何でも豆腐のように斬れる伝説の剣』なんてのがありますが、実際にそんな風に斬れちゃったら、こうなるんですよ」


 マサヒデは手に持った魔剣をじっと見つめ、鞘に収めて腕を組む。


「確かに、これは怖ろしい力です。何でも切れちゃうでしょう。

 父上の魔神剣も切れちゃうかもしれません。魔剣に相応しい力です。

 でも、実際に斬り合いに使うのは、とても無理です。

 得物を思い浮かべながら、針に糸を通すように、ずっと手元に集中。

 そんな状態で、攻撃は受けられないから、全て躱す。

 そして、動く相手に斬りつける・・・無理です」


「ええ・・・こんなに切れるのに使えないんですか?」


 がっかりしたマツの肩にアルマダがぽん、と手を置く。

 マサヒデも腕を組んだまま、マツに笑いかける。


「ええ。この力は使えませんね。魔力使い放題、という使い方が良いでしょう」


「勿体ないなあー。せっかくの魔剣なのに」


 ふーん、とシズクは頭の後ろで手を組む。


「ふふ、魔王様が贈り物に使え、って渡した訳はこれですかね。

 怖ろしい力ですけど、見世物くらいにしか使えないんですよ。

 魔力使い放題ってだけでもすごいんですから、十分です」


「うーん、残念ですねえ」


「ああ・・・」


 自分の手掛けた魔剣が・・・

 すごい力がある。なのに、使えないなんて・・・

 ラディはがっくりと肩を落とし、うなだれてしまった。


「ラディさん、そう気を落とさないで。魔剣に相応しい力は、確かにあるんです。

 新しい魔剣として、歴史に名を残すことは間違いないんですよ。

 きっと、選ばれた者にしか使えない、なんて感じで」


「はい・・・」


 クレールは目を輝かせて、ぐっと拳を握る。


「選ばれた者! かっこいいですね!」


「これを使えるくらい集中しながら戦える、ってくらいに精神を鍛えた者、ですね。

 私のような者では、この魔剣を持つにはまだまだって事です。

 ふふ、雀の稽古をもっとやりますか」


「ご主人様、そろそろ日が沈みます。野営の準備をしますか」


「そうですね。その前に、マツさん、皆ずぶ濡れなので、乾かしてもらえますか」


「あ、そうでした」


 ばふん! と風が巻き、皆の服が乾く。


「じゃあ、マツさんとクレールさんで、土の魔術で簡単な寝床を作ってもらえますか。壁作って、屋根置くくらいでいいので」


「はい」「はい!」


「カオルさんとシズクさん、何か捕まえてきてもらえますか?

 小さいので構いませんから」


「は」「任せてよ!」


「ラディさんは・・・」


 私達と薪を、と言いかけて、がっくり意気消沈してしまった顔を見る。

 そっとしておこう。


「・・・さすがに、銃を背負っての登山は疲れたでしょうから、休んで下さい。

 下山は今日よりもっときついですから」


「はい・・・」


「じゃ、アルマダさん。薪を集めに行きますか」


「はい。行きましょうか」


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