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勇者祭  作者: 牧野三河
第二十一章 魔剣ラディスラヴァの力
220/780

第220話


「私は先に」


 そう言って風の魔術で飛んできたマツ。

 確かに広い。

 木で、山の上からも見えない。

 大きな動物もおらず、狩人も来ないそうな。

 調査にはぴったりの場所だが・・・


「ううん・・・」


 草が高い。膝の下くらいまで高さがある。

 燃やしてしまおうか。


「うん」


 ぼ、と火を出して少し燃やした所で、煙がもうもうと・・・


「あ、あー!」


 生の草なので、狼煙のようにすごい煙が上がってしまう。

 慌てて水の魔術で水球を落とし、風を巻かせて煙を散らせる。

 目立ってはいけない・・・


(今の、見つかってないかしら)


 きょろきょろと周りを見るが、ここからでは見つかったかどうかも分からない。


(多分、見つかってないですよね! よし!)


 あの木の中を登ってくるのだ。

 少なくとも、マサヒデ達には見つかっていないはず。

 もし見つかっていたら、誰かが来てしまう。


 むくむくと不安が湧き上がってくる。

 一瞬だったが、今の煙は街道から丸見えだったはずだ。

 山火事と思われたらどうしよう?

 慌てて、誰かが駆けつけて来るはずだ。

 後で、カオルさんにこっそりお願いして、確認してもらおうか・・・


(そうだ! 草は刈ってしまえば良いんです! さすが私!)


 周りの木まで切り倒してしないように、慎重にかまいたちの術を飛ばす。

 ばささささ! と音を立て、草が倒れていく。


「うん! 気持ち良いですね!」


 向こう側の木の手前まで、ばっさりと草が無くなっている。


「えい、えい」


 ぶんぶんと手を振って、かまいたちを飛ばす。

 草がきれいに倒れていく。


「よし・・・むっ?」


 青臭い。

 大量に刈り倒れた草から、もうもうと青臭い臭い。

 息が詰まりそうだ。

 ぶんぶんと顔の前で手を振る。


「げっふ! くさーい!」


 ばさ! と風の魔術で刈った草を横に飛ばす。

 木の方まで全部飛んで行った。


「よし!」


 次はやんわりした風を吹かせよう。

 臭いを飛ばさなければ。

 ふわー・・・と風が吹いて行く。


「これで・・・」


 青臭い。

 刈った草は飛んでいったが、地表には短くなった草が大量に残っている。

 切れた所から、ものすごい臭いが立ち上ってくる。


「ごっほっ! くっさーい!」


 土の魔術で、ぼん! と地面に大きな穴を空け、上に土を被せる。

 これで草は無くなった。

 しばらくして、裸になった地面から、臭いは消えた。


「うん! これで良いですね! 掃除は気持ちが良いです」


 マツはにこっと笑って、木陰に座り、水筒の水を一口飲み、目を瞑った。

 しばらくして・・・


「ぐふっ!」


 また青臭い。

 風で飛ばした大量の草から、臭いが巻き上がってきている。


「むーん!」


 眉を寄せて立ち上がり、草を飛ばした方から、逆に強く風を吹かせる。

 大量の草が飛んできて、裸になった地面の真ん中に固まった。

 ぽん、と穴を空け、草を落とし、土で埋める。


「ふん! もう!」



----------



「む」「んん?」「?」「なんでしょう?」「この臭いは・・・」


 青臭い。

 マツにが大量に刈った草の臭いは、マサヒデ達の方まで下がって来ていた。

 シズクがばりばりと茂みを倒しているが、それでも分かるこの臭い。

 む、と皆が顔をしかめ、足を止める。


「なんか、すごい青臭いね?」


「ええ」


 アルマダが最後尾から登ってくる。


「マサヒデさん。どこかに潜んでいるかもしれませんよ」


「ええ。しかし、この臭いは・・・」


「ご主人様、少し登って探ってきましょう。

 この臭いに毒は混じっていませんが、気を付けて下さい。

 臭いは上の方から垂れて来ています」


「お願いします」


「皆様、警戒してお待ちを」


 さ、とカオルが枝に跳び、しゅ、しゅ、と枝から枝に飛んで行く。

 クレールとラディを囲むように、マサヒデ、シズク、アルマダが立つ。

 マサヒデとアルマダは鯉口を切り、シズクもぴりっと神経を尖らせる。

 クレールも杖を出し、ラディも銃の安全装置を外す。


「・・・」


 緊張した時間が過ぎていく。


 ちちち、と飛んで行く小鳥。

 さわさわと風で揺れる木の葉。

 リスかネズミか、かささ、と小さな音がする。


 人の気配はしない。

 しばらくして、青臭い臭いは消える。


「・・・」


 また、しばらく経った所で、カオルが戻ってきた。

 す、と枝から飛び降りてくる。


「皆様、大丈夫です。危険はありません」


 ふう、と皆の緊張がほぐれる。


「何だか分かったんですか?」


「はい。奥方様が、草を全部刈っておられました。地面は完全に丸裸に。

 昼寝をしておられまして、確認は出来ませんでしたが、その時の臭いでは」


 皆の肩が、がっくりと落ちた。


「はあ・・・そうですか・・・皆さん、休憩しますか」



----------



 日は傾きかかり、もうすぐ夕方。


「着いたよ!」


 シズクの声が上がる。


「うはあ・・・」


「ふう・・・」


 クレールとラディの疲れた声。

 2人を見て、マサヒデが声を掛ける。


「まだ日が沈むまでに時間があります。少し休憩したら、やりますよ」


「はあい・・・」


「・・・」


 クレールは疲れたなあ、という感じだが、ラディは一気に気合が入ったようだ。

 がさがさ進んでいくと、ぽっかりと地面が裸になっている。

 文字通り丸裸。草一本生えていない。


「マサヒデ様ー!」


 マツが満面の笑みでぶんぶん手を振っている。

 マサヒデが手を振り返すと、小走りで駆け寄ってきた。


「お待ちしておりました! どうですか! 綺麗にしておきました!」


「ありがとうございました。すごい青臭い臭いで、皆、驚いてしまいましたよ」


「うふふ」


「何者かが潜んでいるのかと思って、皆緊張してしまいましたよ。ははは」


 ぴた、とマツの笑顔が固くなる。


「・・・」


「私もアルマダさんも、剣の鯉口を切ってしまいましてね。

 シズクさんも神経を尖らせてしまって。

 ラディさんも銃を構えて、そりゃあ皆ぴりぴりとしてしまいました。ははは」


「そ、そうですか」


「いやあ、助かりましたよ。これなら見やすくていいですねえ」


「そうですよね!」


「ええ。そうですとも。ははは」


 マサヒデはくるりと振り返り、じっとりとマツを見る皆に、


「じゃあ、皆さん、荷を降ろして休憩しましょうか」


 と言って、木陰に向かった。

 おずおずとマツがマサヒデの後に付いてくる。



----------



 水筒の水を飲み、一休み。


「ふう・・・」


 ぐったりしたクレールとラディの様子を見る。

 もう少し、休ませようか。


 一息ついてから、降ろした荷から、魔剣を取り出す。

 皆の目が魔剣に注がれる。

 マサヒデも、じっと魔剣を見つめる。


「・・・」


 無言で魔剣をすっと抜き、目の高さまで上げる。

 皆の喉が鳴る。

 マサヒデは険しい目で魔剣を見つめたまま、口を開く。


「クレールさん」


「は、はい!」


 ぴし! とクレールが正座する。


「お疲れでしょうが、まずは、あなたに試してもらいます」


「はい!」


「マツさん」


「はい」


「皆に、防護の魔術と、力の見定め・・・よろしくお願いします」


「はい」


「ラディさん」


「はい」


「万が一の時は、よろしくお願いします」


「はい」


「それと、力によっては、あなたにも試してもらいます」


「はい」


 マサヒデの目が、少し細くなる。

 今から、この魔剣の力を調べるのだ。

 どんな力があるのか、分からない。

 皆、緊張で包まれ、ぴりっと雰囲気が変わる。


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