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勇者祭  作者: 牧野三河
第二十一章 魔剣ラディスラヴァの力
219/764

第219話


 翌朝。


 荷はまとめてあり、出発の準備は済んでいる。

 着替え、寝袋、数枚の手拭い、縄、干し肉と干し果物。

 昼飯の握り飯に、水筒。地図。

 そして、魔剣。

 一応火打ち石も持っていくが、マツとクレールがいれば必要のない物だ。


「じゃ、もう一度荷物の確認をしといて下さいね」


「はい」


 す、す、とマツが奥から出てくる。


「クレールさん、靴が出来てますよ。

 我ながら、良い出来上がりになったと思います」


 マツがクレールに靴を差し出す。

 クレールが受け取って、


「おお! 軽いですね!」


 と驚きの声を上げる。

 ちょっと興味が湧き、


「軽い? マツさん、ちょっと持たせてもらえますか?」


「はい。どうぞ」


 渡された靴が、すごく軽い。

 がっつりした、分厚い生地、分厚い底の、丈の長い靴なのに、重さがない。

 草履程度の軽い重さはあるが、大きさがあるので、まるで羽のように感じる。


「か、軽い・・・ですね」


「でしょう。中々良い具合に出来ました」


「丈夫さとかは、変わったりしてないですか?」


「ええ。もちろん、そのままですよ」


「ううむ、これはすごい。私も一足買っておけば良かった」


「昨日買ったばかりで、慣れない靴ですもの。

 やはり軽い方が良いですよね」


「そうですね。皆さんには、これから普段から履いてもらって、慣れてもらおうと考えていたのですが・・・全然必要ないですね」


 からからから。


「おはようございます! ハワードです!」


「お、アルマダさんですね」


 カオルが迎えに出、アルマダと一緒に入ってくる。

 薄手のローブを小脇に抱え、準備は万端のようだ。


「おはようございます。興奮してるようですね」


「そりゃあしますとも! 楽しみで楽しみで」


「ふふふ。アルマダさん、ちょっとこのブーツ持ってもらえますか」


「ああ、皆さんの登山用のですか」


 手に持ってアルマダも軽さに驚く。


「うっ!? こっ、これは!?」


「軽いでしょう。マツさんが魔術をかけて軽くしてくれたんですよ」


「・・・すごいですね」


「丈夫さもそのままなんですよ」


「ううむ、素晴らしいですね。これは、買ったらかなりしますよ」


「マツさん、良い稼ぎ方が見つかったじゃないですか。

 こういうのを作れば、いくらでも稼げそうですよ」


「うふふ。でも、一晩かかってしまいますからね」


「え!? 一晩で作ったんですか!?

 マツ様、これ冒険者に売れば、大金持ちになれますよ・・・」


「そうですか? お小遣い稼ぎにでもしましょうか」


 からからからー・・・


「おはようございます! ラディスラヴァ=ホルニコヴァです!」


「お、ラディさんですね」


 ラディも部屋に入ってくる。


「おはようございます、ラディさん。昨晩は眠れましたか?」


「いえ・・・あまり・・・」


「やはり興奮して眠れませんでしたか」


「はい」


「うふふ。さ、ラディさん。これ、ラディさんの靴ですよ」


 マツがラディに靴を手渡す。

 受け取って、ラディも驚く。


「む!? か、軽い・・・」


「ふふ、やはり驚きましたか」


「ううむ・・・素晴らしいですね・・・」


 ラディはしげしげと手に取った靴を眺める。


「丈夫さそのままで、そこまで軽くなりました。

 さすがマツさんですね」


「そんなに褒めてくれなくても。照れてしまいますよ」


「ははは! じゃ、皆さん行きましょうか」



----------



 街道を歩き、山の手前まで。


 マツ、クレール、ラディと足の弱い3人に合わせて来たので、日も高くなってきている。


「あの山を登って行きますよ。

 そんなに登りませんけど、この足並みだと、到着は夕方より前って感じです。

 休み休み、ゆっくり登って行きましょう」


「はあ・・・あの山を」


 3人が山を見る。


「てっぺんまでじゃないですから、安心して下さい。

 あの辺の、よく見ると平たい感じの所です」


 マサヒデが指さした所を、マツが目を細めて、山の方を見る。


「んん・・・マサヒデ様、良く分かりませんが・・・」


「見られやすい所だといけませんからね。

 ここから見ても、ほとんど分からないですよ」


 荷を降ろし、地図を取り出す。


「今ここにいます。あの山の、ここです」


「はあ・・・」


 マツ、クレール、ラディが地図を覗き込む。


「マサヒデさん。道がないですが」


「道があったら、誰か登ってくるかもしれないじゃないですか」


「あ、確かに」


「なので、道なき道を登って行きます。

 シズクさんに前に立ってもらって、少し開いて行ってもらいます。

 それでもお三方には厳しいと思います」


「はい」


「特にラディさんは得物が重いし長いので、気を付けて下さいね。

 後ろに引っ張られて転んだり、枝とかに引っ掛けたりしないように」


「はい」


「じゃあ、ここから街道を外れて、あの山の入り口辺りで昼食といきましょう」



----------



 べき。がさがさ。ばさっ。ばりばり。めきめき。


 シズクが枝や茂みをなぎ倒しながら、山を登っていく。

 登山道と違い、まっすぐ登っていくので、傾斜がきつい。

 マツもクレールもラディも息が荒い。


(そろそろかな)


 最後尾のアルマダを見ると、アルマダも頷く。

 3人の息が完全に上がってしまう前に、休憩を取ろう。


「この辺で、休憩しましょうか」


「はい・・・」


 ふう、と息をつき、3人がぺったりと座り込む。


「お三方、どうですか」


「厳しいですね・・・」


「もう疲れました・・・」


「私、ここで休んだら、風で飛んで行きます・・・」


 3人共、はあはあと息を荒くしている。


「シズクさんが道を作ってくれているので、すごく楽なんですよ」


「ええー! これですごく楽なんですか!?」


「クレールさんは、風で飛んで行けますけどね。今回は歩きの練習ですから」


「はい・・・」


「クレール様、帰ったら風の魔術を教えて下さい・・・」


「ラディさんは銃が重いですからね。疲れるのも仕方ないですね」


「マツ様、帰ったら、この銃を軽くお願い出来ますか・・・」


「下りはもっときついですよ」


「え? 下りるのにきついんですか?」


「そうです」


「うへえ・・・」


 クレールがげんなりして、下を向いてしまう。

 ラディも、ふう、と息をついて、空を見上げる。


「カオルさんが見つけた馬のいる所なんて、もっときついんですから。

 地面はぬるぬる、虫や蛇もたくさん。死んじゃうきのこまで生えてるんですよ。

 あっちじゃなくて良かったですね」


「うーん・・・」


「さ、水を飲みましょう。

 少しずつ、口の中を濡らしながらくらいで、ちびちび飲んで下さい。

 ぐいっと一気に飲んじゃいけませんよ」


「はい・・・」


 3人は水筒を開け、ちょびちょびと水を飲む。

 山を歩き慣れた、マサヒデ、アルマダ、カオル、シズクは、3人の様子を見て、にやにや笑っている。


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