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勇者祭  作者: 牧野三河
第二十一章 魔剣ラディスラヴァの力
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第216話


 ラディがそっと銃を持ち上げる。

 長さは四尺三寸と言った所。

 重さは一貫目(4kg)より少し軽いか。


「ラディさん、銃の扱いは?」


「全くです」


「ご店主、こちらの銃の扱い、教えて頂けますか」


「ふふふ。良いとも」


 店主は「ぎし」と椅子を鳴らして立ち上がり、カウンターを回ってラディの横に立つ。手を伸ばし、ラディが持つ銃を取り上げる。


「構えはこうだ。肩に当てる時、変な当て方すると鎖骨折るから気を付けろよ」


 肩の前に銃の後ろの部分をくっつけて、左手を中程に、右手を引き金の後ろに置き、人差し指を引き金に。乗せて支えるように持つ。


「さあ、ラディちゃん。やってみな」


 ラディに手渡す。


「・・・」


 ラディが同じように構える。

 店主が刻みのある金具部分を指差す。


「これが照準。先っぽに、小さい三角の出っ張りがあるな。

 この刻みと、三角の出っ張りを、まっすぐに合せる。

 引き金を引くと、そこに弾が飛んでいく」


「なるほど・・・」


「右手に小さい棒があるな。上に上げてみろ」


 軽く上げただけで、かちゃっと上に上がり、まっすぐ上に立つ。

 ほとんど力を込めなくて良い。

 なんとなく、がっちゃん、と力を込めるイメージがあったが、軽い。


「ん」


「まっすぐ上に立ったな。後ろに引け」


 がちゃ。機械部分の中が見える。


「良し。これを上から押し込む」


 店主が弾が5発くっついたものを取り出す。

 弾の後ろの部分に、薄い板のような物が付いていて、弾がきれいに並んでいる。

 ぐっと押し込む。


「こうやって弾を詰めるんだ。

 今入れたのは、火薬が入ってない空の弾だ。安心しろ。

 前に押し込み、最初と同じように右に倒す」


 かち、かちん。

 前に押し込むと、軽く棒が右に下がる。

 見えていた機械部分が隠れ、しっかりと閉まる。

 ほとんど力はいらない。軽い。


「よし。しっかりはまったな。これで、引き金を引くと、ばん! てわけだ。

 しっかりはまってから、引き金を引くんだぞ」


 かちん。引き金を引く。

 これで、弾が飛んでいく。


「なるほど」


「もう一度、同じようにやってみな」


 棒を立てて、後ろに引く。

 中に入っていた弾が飛び出て、次の弾が入る。


「こうやって、次の弾が入るわけだ」


「これで、5発」


「そうだ。横に飛び出た空の弾に当たらないように気を付けろよ。

 火薬で熱くなってるからな。火傷しちまうぞ。

 ま、ラディちゃんは治癒師だから、火傷なんて怖かねえな」


「・・・」


 立てる。引く。押し込む。倒す。引き金を引く・・・

 繰り返し、5発目の弾が、からん、と床に落ちる。


「うん・・・5発」


「1発ずつ入れて射つことも出来る。後ろに引いて」


 棒を立て、後ろに引く。

 中に、店主が弾を置き、軽く押す。


「こうやって上から1発放り込んで、少し押す。前に押し込み、引き金を引く」


 がちゃん。かち。


「後ろに引くと、弾が横に飛び出る」


「そうだ」


 ラディの手に、5発の弾がまとまった物を乗せる。


「この、弾を5発まとめる奴は『挿弾子』って言うんだ」


挿弾子そうだんし


「こいつにこうやって・・・」


 かち、かち、かち・・・


「弾をまとめるってわけだ。これもいくつか買ってけ。

 実戦じゃ、弾を込めてる暇なんてねえ。

 こいつが無くなったら、さっきみたいに1発ずつ撃つしかねえぞ」


「はい」


「何回か試してみな」


 後ろに引く。挿弾子を押し込む。前に出す。右に倒す。引き金を引く。

 後ろに引く。弾が飛び出る。前に出す。右に倒す。引き金を引く・・・

 ラディは何度もその動きを繰り返す。

 店主はカウンターに戻り、腕を組んで椅子にぐっともたれ、その様子を眺める。


「うん・・・これが、銃」


「落ちた弾を拾って、こっちに持って来い」


「はい」


 落ちた弾を拾い、カウンターに乗せる。


「5発、打ち切ったな」


「はい」


「後ろに引いてみろ」


 かちゃ、棒が上がる。

 かち、後ろに引く。


「前に押し込んでみろ」


 がち。

 引っ掛かって、前に押し込めない。


「ん?」


「押し込めないな。5発撃ち終わって引くと、そうやって空いたままになる。

 弾を入れると、前に押せるようになる」


「なるほど・・・弾が無くなった、と、分かりやすい。

 空いたままになるから、弾も入れやすい」


「そうだ。引き金の前を見てみろ。小さい出っ張りがあるな」


「ん」


「親指で押し込め」


 くっと押し込むと、引き金の前の部分かするっと抜け落ちる。

 板バネの上下に、鉄板が付いている。


「押し込んだ弾を、そいつが上に送り出す。

 撃ちきった時、そいつがほんの少し出っ張って、前に押し込めなくなる」


「なるほど」


「上から見てみろ」


 ぽっかりと穴が空き、上から下まで見える。


「もし弾が詰まったりしたら、そいつを抜いて、後ろに引け。

 詰まった弾を取り出せる」


「はい」


「じゃ、そのバネを下から押し込め」


 すっと入って、小さくかちりと音がして、しっかりはまる。


「それでいい」


 そう言って、店主はごとりと短刀を置く。


「その銃の先っぽには、こいつを着けることが出来る」


「この短刀を?」


「その銃、長いだろう。近付かれたら、何も出来ねえぞ。

 そいつでぶん殴ることも出来るが、壊れちまったら大変だ。

 こいつを着けとけば、もし飛び込まれても刺す事が出来る」


「これを・・・」


 ラディは短刀を取って眺める。

 鍔の部分に、丸い穴。

 柄頭に、小さな穴。

 銃の先の方を見ると、小さな金具が付いている。


「こうですか」


 鍔の丸い穴に銃口を通し、小さな金具に柄頭をはめ込む。


「良く分かったな。取り外してみろ」


 柄を持って、引き抜く・・・が、抜けない。


「ん?」


 ぐぐっ。かちかち。

 強く引っ張ってみるが、抜けない。


「もし刺さった短刀が抜けちまったら、困るだろう。

 簡単に抜けないよう、細工がしてある。柄頭の横を良く見ろ」


「・・・」


 小さなボタン。装飾ではない。

 よく見ると、薄く隙間が見える。押し込めるようになっている。

 柄を握って、出っ張りを押しながら引いてみる。


「抜けた」


「そういう仕組になってるんだ。

 結構長いからな。短槍代わりにもなるってわけだ」


「なるほど」


「それを着けたら、当然、先が重くなるな」


「はい」


「先が重くなれば、弾を撃った時、跳ね上がらなくなる」


「なるほど・・・良く考えられています」


「気に入ったか」


「はい」


「これが、キジロウ=ミナミ作の八十三式だ」


「八十三式・・・」


 ぽつりと呟き、銃を眺めるラディ。

 店主は小さく頷いて、マサヒデの方を向き、にやりと笑った。

 ごとりと弾の入った箱をカウンターに置く。


「ふふふ。お買い上げ、ありがとうございます」


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