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勇者祭  作者: 牧野三河
第二十一章 魔剣ラディスラヴァの力
215/758

第215話


 からからー・・・


「只今戻りました」


「おかえりなさいませ」


 カオルが手を付いて迎える。


「カオルさん。今日は、この後用事は?」


「夕餉の買い物くらいですが」


「そうですか。そろそろ、ラディさんの様子を見に行きましょう」


「は」


 魔剣の調査・・・

 ぴりっとカオルに緊張感が走る。

 後ろにいたシズクも声を上げる。


「おお、ついに行くのか! 楽しみだね!」


「マツさん、クレールさんもいますね」


「は」


 マサヒデが居間の前に来ると、クレールは手の平に乗せた雀をじっと見ている。


「クレールさん」


 は! とクレールが顔を上げ、雀が飛んでいく。

 くるっとマサヒデの振り向く。


「稽古中、すみません。午後は予定はありますか?」


「あ、いえ。ここで雀を見るか、訓練場に行こうか、くらいで」


「そうですか。そろそろ、ラディさんの様子を見に行きましょう」


「分かりました!」


 そのまま、廊下を進む。執務室前。


「マツさん」


「はーい」


 さらりと襖が開く。


「お仕事の方は」


「すぐ済みますよ。何かご用事でも?」


「仕事が終わったら、ラディさんを見に行きましょう。そろそろ、調査に」


 魔剣・・・


「はい。すぐ終わらせますね」


 すー、と襖が閉じる。

 マサヒデは奥の間に入り、金の袋を出した。

 ラディの銃を用意せねば。



----------



 職人街。


 ぞろぞろと全員でホルニ工房へ。

 店は開いており、かん、かん、と金属を叩く音。

 ずっと店を閉めて魔剣の柄を作ってくれていた、ラディの父。

 静かに戸を開ける。


「こんにちは」


 カウンターで雑誌を読んでいた、ラディの母が顔を上げる。


「あ、トミヤス様! こないだはなんか大きな仕事をくれたそうで・・・」


「ええ。ですが、お二人は無料でやると言って、金を受け取ってくれません。

 お二人には内緒で、こちらを」


 小袋を出し、金貨を渡す。


「そんな、構いませんのに」


「他の仕事を蹴ってまでやってくれたんです。

 しかし、それはこの店の信用にも関わってくることです。

 これは仕事の代金ではなく、詫び料です。

 どうぞ、受け取って下さい」


「トミヤス様」


「さ、お二人にバレないうちに。どうぞ」


「ありがとうございます」


 ラディの母は、そっと金を受け取り、カウンターの下へ置いた。

 こくん、とマサヒデは小さく礼をした。


「ところで、ラディさんは」


「今は部屋でごろごろしてますよ」


「そうですか。用事がなければ、ラディさんをちょっとお借りしたいのですが」


「あら!」


「ははは、色っぽい話じゃありませんよ。見てもらいたい物がありましてね。

 すぐ近くですから」


「残念。トミヤス様なら、娘を預けても良かったんですけど」


「申し訳ありません。もう妻が2人もおりますもので・・・

 今はいっぱいいっぱいなんですよ」


「え!? もう奥方様が!? 2人も!?」


「そうなんですよ。自分でも節操ないな、と反省してます」


「あはは! じゃあ、ラディを呼んできますね」


「お願いします」


 少しして、ラディが店の奥から出てきた。

 薄い緑の着流し。

 着流しを着ているラディは、新鮮だ。


「やあ、ラディさん。休めましたか」


「はい」


「そろそろ、調査に行こうと」


 調査。

 あの魔剣の力を調べる・・・


「よろしければ、調査の際は、ラディさんにも、是非来てもらいたい。

 あなたには、見届ける権利があります。どうでしょうか」


「行きます」


 うん、とマサヒデは頷く。


「そう言ってくれると思いました。

 今日はその準備です。時間はありますか?」


「はい。大丈夫です」


「すぐ近くの店ですので、そう時間はかかりません」


「はい」


 つっかけを履いて、ラディが下りてきた。


「では、ラディさんをお借りしますね」


「はーい。ラディ、せっかくのお出掛けだから、楽しんできてね」


 からかうような母の声に、ラディがむっと振り向く。


「お母様」


「ははは。じゃあ、行きましょう」


 店の外には、マツ、カオル、シズク、クレールと全員が揃っている。


「お待たせしました」


「ラディ! 元気になったか。こないだは途中で寝ちゃって・・・」


 は! とラディがシズクに厳しい目を向ける。


「シズクさん・・・私を抱き上げてここまで来たとか・・・」


「そうだよ。おんぶが恥ずかしいって言うから」


「・・・」


 きり、と小さく歯ぎしりの音。


「随分と、お世話になりました・・・近所の方からは色々と・・・」


「気にするなよ! すげえ疲れてたもんな」


 ぷ、と小さな笑い声。

 シズク以外はラディから顔を逸らせ、口を抑えて肩を震わせている。


「く・・・」


 ラディの拳がふるふると震える。

 ふ、と小さく笑い、ぽん、とマサヒデはラディの肩に手を置く。


「まあ、許してやって下さい。分かってないんですから」


 ラディはぐっと目を瞑り、ゆっくりと深呼吸。


「なんだよ、分かってないって・・・」


「気にしないで下さい。さあ、店に行きますか」


「はい・・・はい」



----------



「こんにちは」


「いらっしゃい」


 鉄砲屋を戸を開けると、相変わらず無愛想な太った店主。

 こちらを見もせず、雑誌を読んでいる。


「先日はどうも」


「ん?」


 ぞろぞろと入ってくる女性陣。


「お、あんたは・・・あれ、ラディちゃん」


「どうも」


「あんた、前に銃を女に贈るとか言ってたな」


「はい」


「おいおい・・・こんなにか」


「まさか。ラディさんだけです」


「え?」「何?」


 ラディは驚いて、マサヒデの方を向いた。


「ラディさんには、これから銃を持って頂きます。

 あなたには、後ろから我々を援護する役割もしてもらいます。

 今回の調査に行く際は、得物も持って行きます。ラディさんはこれです」


「は?」


「あなたは治癒師。前には出てほしくないですからね」


 後ろでは「高いねえ」「こんなに種類が」と、物珍しそうな声が上がっている。


「銃なんですか? 弓では?」


「弓を扱えるんですか?」


「いえ・・・弩では?」


「あなたでは引くのが大変でしょう。だから銃です」


「銃は高くはないですか?」


「私は、値段以上の働きは十分すると思います。

 ご店主、先日の物を見せて頂けますか」


「ああ」


 ごと、と木の部分が多い長物の銃が置かれる。


「ご店主、持ってもよろしいですか」


「構わんよ。ふふ、まさかラディちゃんに贈るとはな」


「さ、ラディさん。見てみて下さい」


 マサヒデはラディに向いて、促した。

 ラディが頷いて、置かれた銃を手に取る。


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