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勇者祭  作者: 牧野三河
第二十章 老いた剣客
210/758

第210話


 郊外のあばら家。


 カオルとシズクには馬と待ってもらって、マサヒデが中に入っていく。


「おはようございます」


「おお、マサヒデ殿。おはようございます。遠乗りですか?」


 見張りの騎士2人が挨拶を返してくる。


「いえ。道場破りに行くんです」


「え!?」


「ははは。冗談ですよ。少し行った所に、凄腕の方の道場があると聞きまして。

 ついでに遠乗りって所です。で、アルマダさんも誘いに来たわけで」


「そんな道場があったんですか?」


「らしいですよ。小さいから、あまり知られていないそうです」


「ほう。そんな道場が・・・」


 アルマダが裏から出てきた。

 裏の水場で汗を流していたのだろう。


「やあ、マサヒデさん。おはようございます」


「おはようございます。アルマダさん、今日は遠乗りでもしませんか」


「遠乗りですか?」


「ええ。この道をずっと行った所に、小さな道場があって、それはすごい腕の方がおられるとか」


「ほう?」


「昨日、その道場主のお父上にお会いしたのですが、父上と同じか、もしかして・・・」


「え!? そんな方がおられたのですか!?」


「ええ。カオルさんなんか慌ててしまって『危険です! ご主人様!』なんて」


「ははは!」


「ですが、レイシクランの忍まで看破されたとなると、相当ですよ」


「ほう。レイシクランの方々まで看破されましたか。

 それはカオルさんも慌てて当然ですね」


 アルマダは笑顔のままだが、目から笑いが消えた。


「名は聞かなかったんですが、道場に行けばすぐ分かる、と同心の方から聞いたんですが、良かったらどうです」


「行きましょう。興味が湧きました」


「アルマダさんなら行くって言うと思いましたよ。

 ファルコンも連れてきました」


「ありがとうございます。では、着替えて来ますので、少しお待ち下さい」



----------



「よっと」


 しゃ! くる! ぴた! とマサヒデとカオルが馬に跨る。

 それを見て、アルマダが驚いて声を上げる。


「マサヒデさん!?」


「どうされました?」


「何ですかその乗り方!?」


「ああ、サクマさんに教えてもらったんです。

 さすが、熟練の方は違いますね。良い乗り方を教えてもらいました」


 こくり、とカオルも頷く。


「サクマさんに!? あの人はこんな技術を・・・秘密にしてたのか・・・」


「そうだったんですか? 帰ったら、サクマさんに聞いてみては」


「ええ、そうします」


 アルマダもファルコンに跨る。


「ん? アルマダさん?」


「どうされました?」


「なんでそんなにゆっくり乗るんです?

 今の、サクマさんの乗り方じゃないですか」


 カオルも不思議そうな顔をしている。


「え?」


「足の少し前から、足をかけたら手を回して地を蹴る。

 全く同じ乗り方ですよ。サクマさんに教えてもらったの、それです」


「どういう事です?」


「こっちが聞きたいですよ。そんなにゆっくり乗らなくても。

 ファルコンが傾いちゃいますよ。ねえ、カオルさん」


「ええ。そんなにゆっくり乗っては、鞍が傾いたりしませんか?」


「・・・ああ・・・そうですよね」


 この2人は身が軽すぎるのだ・・・

 しかし、マサヒデに出来るなら、アルマダも少し速く乗れるかもしれない。

 ここまでの速さは無理かもしれないが、帰ったら練習してみようか。



----------



 ぽくぽくと速歩で馬を進める。

 カオルとアルマダは慣れたもので、座ったままだ。

 マサヒデも少し慣れたので、前ほど跳ねるような感じではない。

 帰りには座れるようになるかもしれない。


「マサちゃん、もうちょいゆっくり行かない?」


 小走りで横を並んで走るシズク。

 シズクは重すぎて馬に乗れないのだ・・・


「あなたの体力なら、1日走っても平気でしょう」


「疲れることには変わりないよー」


「途中で休憩も入れますから。馬が疲れちゃいますし」


「私じゃなくて馬なの!?」


 ははは! と笑い声が上がる。


「マサヒデさん、どのくらいの所ですか? 結構来ましたけど」


「どうですかね・・・今朝、ハチさんから聞いたんですが、私の足で急いで行っても昼は過ぎると言ってました」


「ハチさん?」


「ああ、同心の方です。その凄腕の方やご老体、奉行所も何度かお世話になってるそうです。よく知ってるみたいですよ」


「そうだったんですか」


「なんでも、ご老体の方は、若い頃は随分と名を馳せた方だとか」


「ほう。カゲミツ様はご存知なのでしょうか?」


「この近くにいることは、父上も知らないのでは?

 知っていたら、おそらく我々も引っ張って連れて来られたはずですよ」


「確かにそうですね。町からも結構離れていますし、小さな道場となると知られていなくても無理はありませんね」


 そういえば、この街道は祭の最中なのに人が少ない。

 トミヤスの村からオリネオの町の街道のように、屋台も出ていない。

 途中に寺があるからか、祭の参加者があまり通らないのだろう。

 周りも田んぼと畑ばかり。ぽつぽつと小さな百姓家が見える程度だ。


「アルマダさん、田んぼばっかりですけど、本当にあるんでしょうかね?

 正直に言いますと、私、心配になってきました」


「私もですよ。何もありませんね」


「ご主人様、同心の方が嘘など申しますまい。必ずありますよ」


「なかったら困るよ! 私、ずっと走ってるんだよ!」



----------



 しばらく馬を進めると、ぽつんと小さな茶屋があった。

 馬を止め、休憩を入れる。


「馬に乗ってるだけでも、結構疲れますね」


「マサヒデさんはまだ慣れてないだけですよ」


「いいよなあ、馬に乗れて!」


「シズクさんは魔獣を捕まえて来ませんとね」


「ははは、調教が大変そうだ」


 茶屋の主人が茶と団子を持ってくる。


「はい、おまちどう様!」


「ありがとうございます」


 団子を一口食べる。

 馬にもりんごをあげようか・・・


「あ! しまった!」


「ん、マサヒデさん、どうしました。急に大声を出して」


 もぐもぐと団子を食べながら、カオルもシズクもマサヒデを見る。


「馬のりんごは持ってきたのに・・・弁当、用意するの忘れました・・・」


「ははははは!」


 アルマダ達が大声を出して笑う。

 後ろで聞いていた茶屋の主人も大声を出して笑う。


「ははは! 兄ちゃん、弁当ならうちで買ってきな!

 握り飯くらい作ってやるよ! ははは!」


「お願いします・・・」



----------



 ぽくぽくと馬を進めていくと、何か前方に見えてきた。

 小高い丘の上に、小さな建物。鳥居が見える。


「あんな所に神社があったんですね」


「寺も神社もあるんじゃ、この街道は祭の参加者はあまり通らないですよね。

 田んぼと畑だらけで、野営の場所もないし。静かなわけだ」


「そろそろ昼になりますね。あの神社の近くで休憩しましょうか。

 追い払われなければ良いんですが」


「ねえ、私、鬼だけど、人族の神社に行っても大丈夫かな? 怒られない?」


「見つからなければ平気ですって。

 頭に布でも巻いておけば、鬼だなんてバレたりしません」


「そんなの神様はお見通しじゃないの?」


「神社の神様が、そんなに心が狭いわけないでしょう。

 歩いてる人に、神社に鬼が来てるってばれなきゃ良いんです」


 神社の入り口まで馬を進め、鳥居の側の木に馬を止める。

 よっと馬から降りて、茶屋で用意してもらった握り飯を出す。


「ふう。ここらはのどかですね・・・」


 ちちちちち、と雀が飛んでいく。

 こくん、と水筒から水を一口飲み、握り飯にかじりついた。


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