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勇者祭  作者: 牧野三河
第十七章 火盗
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第174話


 翌朝。


 マサヒデとカオルはブリ=サンクに向かう。

 クレールは、ギルドに着くまでは、あの楽な旅人姿で。

 馬車で着替えを運び、ギルドでドレスに着替え、肖像画を描いてもらうそうな。


 迎えに行く必要はないが、帰りは馬車に乗って帰ることも出来るし・・・

 ということで、何となく出てきたのだが。


「ご主人様、あれに人だかりが」


「おや、なんでしょう。物々しい」


 衛兵がぐるりと囲った回りを、町人達がわやわやとざわめきながら囲んでいる。

 こんな通りのど真ん中で、何かあったのか。

 これでは馬車も通れまい。クレール達に報せた方が良い。


「カオルさん、先にホテルに行って、この道は通れないとお伝えに」


「は」


 すいーっとカオルが人混みに消えていく。

 マサヒデはざわめく町人の1人を捕まえる。


「すみません、ここで何か?」


「死人だとよ。殺しじゃねえかって」


「殺し? 勇者祭の方では?」


「いや、ただの町人だ」


「闇討ちの組の方では?」


「じゃあねえそうだ。本当にただの町人だと」


「ほう、それはちょっと、穏やかじゃありませんね」


「ああ。金貸しらしいから、恨みでも買ったんじゃねえか」


 金銭の面倒事か・・・

 自分には関係ないかな、とそっと場を離れようたした時。


「失礼。トミヤス様では」


 振り向くと、犬顔の魔族。


「はい。マサヒデ=トミヤスです」


「私、オリネオ奉行所同心のハチと言います。お時間はございますか」


「少しであれば・・・人を迎えに行かねばなりませんので、あまり長くは」


 こくり、と同心は頷き、


「少し、あれを見て頂けませんか。

 武芸達者のトミヤス様なら、何かお分かりになるかも、と」


「ううん、私で何か分かるかどうか? まあ、見るだけであれば・・・」


「助かります」


 同心は大声で、


「どけ! 道を開けろ!」


 と町人達をかき分け、中に入っていく。マサヒデも同心の後に続く。

 衛兵と同心に囲まれた現場に入ると、老人が1人倒れている。

 これが被害者か・・・血が流れていない。毒殺か。


「こちらを」


 同心が、老人の側に座り込む。

 マサヒデも横に並んで座り込む。


 胸を抑えるように、被害者は丸まって倒れている。

 大きく暴れたような感じはない。おそらく、数秒であったろう。

 泡を吹いたのか、口回りが少し濡れて乾いた後。

 呑んでいたのか、かすかに酒の匂いがする。


「毒ですかね。血が流れていない」


「と、思いましたがね。私らの鼻でも、何も臭わないもんで」


 犬系の魔族は恐ろしく鼻が効く。

 その鼻にも臭わないとは、毒ではないのか?


「ふむ・・・無臭の毒ではないのですね?」


「ええ。人族では無臭の毒でも、我らの鼻であれば」


「傷もない。毒でもない。首を締められた訳でもない・・・

 となると、武芸達者の者に点穴でも突かれたのかも。

 もしそうなら、かなりの腕ですね」


「点穴・・・なるほど、その線も・・・

 流れちゃいませんが、ほんの少し血の臭いはします。

 転んですりむいたのかと思いましたが、点穴を針みてえな物で突いた、と。

 となれば、話は別ですね」


 もう一度、老人を見てみる。

 血も流れていない。何も物騒な所がない。

 酒の匂いもする。年齢を見ても、急に倒れてもおかしくはない。


「しかし、見た目は全くおかしな所はありませんよ。

 ただの心筋梗塞かもしれない。なぜ、これが殺しだと?」


「死ぬ前に、殺される、殺される、と。近くの者が聞いていました。

 で、驚いて見てたら、すぐにお陀仏というわけで」


「ふうむ・・・さっき聞きましたが、この人、金貸しだそうですね?

 客との金銭の問題でも?」


「それが、この金貸しの爺さん、評判の善人金貸しでしてね。

 金利も安く、返す期限も客に決めさせるというやり方で。

 無理矢理取り立てるような真似もせず、とても恨まれるような方じゃありません。

 客にはいつも感謝されてるくらいで。

 生活も、質素倹約を絵に描いたような方ですよ」


「動機も分からない、と」


「ええ」


 マサヒデはハチに顔を近付ける。

 ハチもそっと耳をマサヒデに向ける。


(動機については分かりませんが、殺し方については分かるかもしれません。私の知り合いに、そういった事に詳しい方がいます)


(え! トミヤス様、そういった人をお抱えで!?)


 ハチと名乗った同心が、目を丸くしてマサヒデを見る。


(違いますよ。上位の冒険者のような・・・まあ、そういった組織の方です。いわゆる表に出ない、そういう仕事をされる方です)


(・・・表に出ない仕事、ですか・・・そんな方とどうやって?)


(私の試合を見てくれて、是非手合わせを、と。で、まあ知り合いに)


(へえ・・・)


(長旅で疲れて休息中だそうですから、まだこの町にいるでしょう)


(そんな物騒な方が、今この町に?)


(大丈夫ですよ。ああいった仕事は恐ろしく高額だから、町人を相手に、なんて事はありません。大きな貴族とか王族とか、ドロドロした世界のアレです)


(ドロドロした世界の・・・やなもんですね・・・)


 ハチが眉をしかめる。


(とまあ、そういった道の専門家。私より詳しいと思います。多分、昼までには奉行所に連れていけると思いますが、仕事が仕事なので、その方についてはくれぐれも秘密にお願いします。私が詳しく調べたい、と言った体で)


(分かりました。お願いします)


 ハチは小さく頭を下げて、立ち上がった。


「おい! 大八車を用意しろ! おめえらも散った散った!」


 マサヒデも立ち上がり、群衆に紛れて去って行った。

 後ろに冒険者姿のカオルが着いてくる。


「聞いてました?」


「は」


「カオルさんはどう見ます?」


「毒でないとすると、ご主人様のお見立て通り、やはり点穴か・・・

 あるいはこういう仕事専用の得物もありますので、それかと」


「へえ・・・そんな物があるんですね・・・

 で、カオルさん、それっぽい服、用意できますか?」


「はい。少しお時間を頂ければ」


「今朝は、訓練場に行けませんね。シズクさんに代稽古、頼んでおきましょう」



----------



 一刻後、マサヒデとカオルは奉行所前に来た。

 カオルは薄汚れた黒いフード付きのローブを着て、年老いた老人に化けている。

 奉行所の門の前に立つ男に、


「すみません。私、マサヒデ=トミヤスと申します。同心のハチさんは」


 あ! と門番は驚いて、


「トミヤス様・・・あなたは、あの御前試合のトミヤス様じゃないですか!?」


「ええ、ちょっと今朝の殺しの件で、ハチさんにご助力を申し出まして。

 奉行所の方へ、と言われましたので」


「少々お待ち下さい!」


 門番は慌てて走って行った。


「ご主人様は、もうこの町の有名人ですね」


「正直、こう顔や名が売れてしまったのは、ちょっと困り物ですよ」


「ふふふ。そんな有名人を主に出来て、私も幸せというものです」


 しばらくして、ハチが出てきた。

 ハチはちらりとカオルの方に目を向ける。


「や、これはトミヤス様。ご足労頂きまして」


「お忙しい中、すみません」


「さ、どうぞ」


 ハチに続いて、マサヒデとカオルは中に入って行く。

 奉行所の中は初めてだ。

 小さな蔵がいくつも立っていて、敷地はかなり広い。

 庭の向こうに白い所が見える。


「もしかして、あれがお白洲って奴ですか?」


「ええ。あそこでお奉行様が裁きを下されるって所で」


「へえ! あれがお白洲か! 初めて見られて感激ですよ!」


「ははは! お白洲を見て感激ってのも面白いですね!

 あそこには座らねえようにして下さいよ! ははは!」


 ふ、と後ろでカオルも笑う。

 少し歩いて、3人は蔵のような建物の前に立つ。


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