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両親からお見合いの話を薦められた時に、私は即断るつもりだった。
「お見合いなんてしないわ」
「誰かお付き合いしている人でもいるの。それなら一度家に連れて来なさい」
「そんな人いないわ」
「もしかして、好きな人でもいるの」
「いない」
だが、今度の否定は一拍遅れた。
私には好きな人などいない。だが、母に訊かれた時に一瞬、初恋の人の顔が浮かんだ。
(やだ、まだ引きずっているのかしら)
あれは高校生の時のことだから10年以上も前になる。
「ねぇ、相手の方の写真だけでも見てよ」
私は気乗りしないが、母が差し出した写真の横に略歴が記載されているファミレスのメニューのような台紙を手にした。
写真を見て息が止まるような驚きを感じた。
(うそ。瀬名君?)
高校生の時から10年経つが、ひと目で分かった。間違いなく瀬名君だった。学歴をみると私達が通った高校が記載されていた。
「どう? 一流大学を卒業して、上場企業に勤務されている優秀な方よ」
私は台紙を閉じた。
(瀬名君とお見合いをするなんてありえないわ)
最初の驚きと興奮が急速に冷めてきた。両親は最終学歴と勤め先から良縁だと勝手に盛り上がっているようだが、彼が私とのお見合いに応じるはずがない。
「良い方みたいでしょ。お見合いしてみない」
私が写真を食い入るように見ていたので、母は、そこそこ外見がよくスペックの高い男に私が惹かれたのだと勘違いをしているようだった。
瀬名君は、私の初恋の人で、初めてお付き合いをした異性だった。そして、私は瀬名君に振られたのだ。その彼が今さら私とお見合いなどするはずはなかった。
「あなたがその気なら、来月の連休の日曜日はどう?」
「勝手に話を進めないで。第一、向こうが応じるわけないでしょ」
「何を言っているの? 向こう様は乗り気よ。来月の3連休の日曜日はどうかって打診まであるのよ」
「向こうは、私と会うことを了承しているというの?」
「当たり前でしょ。お見合いよ。会うつもりがなければ成立しないでしょ」
私は混乱した。本当に瀬名君は私とお見合いをするつもりなのだろうか。彼が何を考えているのか分からなかった。それに、あの日のことを訊きたいという気持ちもあった。
「分かった。お見合いをするわ」
両親は顔を見合わせて喜んだ。
私は自分の部屋に入ると中から鍵をかけた。
そしてベッドに倒れ込んだ。
(瀬名君、どうしてなの)
あんな風に別れてから10年経って、お見合いを持ちかけてくるなんて理解し難かった。
(あなたは、どこまで私を傷つけるつもり)
枕に顔を埋めて声を出さないようにして泣いた。