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最後の四十七士  作者: ロッド
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お江

(・・・酷い臭いじゃ)


 お(ごう)は寝藁を足し終えると男の額に手を当てた。

 熱が下がらない。

 息がより荒くなっており症状は悪化しつつあるようだ。

 意識朦朧でも白湯を飲めれば多少はマシであろうが・・・


(・・・仕方あるまい)


 強引に口移しで飲ませるしかなかった。

 飲ませたら飲ませたで臭いが気になる。

 まだ死臭には程遠い。

 だからこそ今のうちに手当はしておくべきであった。


(・・・父上(おやっどん)も奇矯じゃな)


 お江からしたら斬り捨ててしまえば良いと思える、そんな男であった。

 着替えをさせながらそう思った。

 体付きだけで分かってしまうのだ。

 武芸の嗜みは見て取れるが出水郷の剛の者に比べたら及ばない。

 だが、お江は背中以外にも刀傷が無数にある事に気付く。

 どれもお江にしてみれば擦過傷に毛が生えた程度ではあるのだが・・・

 この時代に実戦を経験している武士など最早少ない。

 改めてお江はその男を観察した。

 観察し続けた。

 どこにでもいる、そんな男に見えた。

 年齢は五十に届くかどうかといった所だろうか。

 やせ細っている訳ではないが、年齢による衰えは隠せない。

 筋肉の付き方から農民や漁民、猟師ではないと分かる。

 商人でならば身体をここまで鍛えたりしないであろう。


(・・・恐らくは武士であろうが)


「・・・ウ・・・アア・・・ァ・・・」


 男の呻き声にお江は素早く反応した。

 熱が上がっている。

 それに男は小声で何かを呟き始め体が僅かに震え始めていた。

 いい傾向ではなかった。

 お江は服を脱ぎ捨てると男の横に滑り込んだ。

 体を押し当て温める、今はこれ以外に打つ手がない。


(・・・何でこの私が・・・) 


 そう思うお江だが父の命には逆らえなかった。

 今は打てる手を打つ、それしかない。

 そしてお江はその男の譫言(うわごと)を一晩中聞かされる事になった。




 翌日の朝。

 男はまだ生きていた。


(・・・この男・・・)


 お江は身だしなみを整えながら男を見る。

 既に熱は下がり寝息も安定しており、もう命の危険はあるまい。

 そして一晩世話をして分かった事がある。


(・・・さて、どう話したものか・・・)


 お江は悩んでいた。

 父である与五郎にどう話せばいいのか、悩んでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 新作ですね、期待してます。 あらすじの最後の行で「えっ、コメディ?」って思ったのはナイショ…だって、なろう界隈では「薩摩」はギャグ扱いなんだもん。 是非とも良い感じの作品を一つ。
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