学園祭へ向けて 2
その後、私はすぐに隣の席に座るテレーゼに向き直ると膝の上に両手を置き、頭を下げた。
「テレーゼさん、どうか私と学園祭の出店をやっていただけませんか……!」
「ふふ、そんな頼み方しなくても良いのに。私も学園祭は楽しみたいし、一緒に頑張りましょう」
小さく吹き出したテレーゼは私の肩にそっと手を置き、女神の微笑みを向けてくれる。
あまりの眩しさに目が眩みつつ、私もまたそんな彼女の両肩に手を置き、まっすぐに見つめた。
「ありがとう、テレーゼ! 私、頑張るから!」
「ええ。やるからには上位を目指さないとね」
彼女は自力で余裕Sランクなのだ、私のためにそう言ってくれているのだろう。優しさに胸を打たれた私は、あらためて気合を入れた。
「あと8人は必要だけど、誰を誘うの?」
「ひとまず宿泊研修で一緒だったメンバーは誘いたいな。みんなと一緒にできたら、すごく楽しいだろうし」
大好きな友人達と学園祭準備から一緒にできたら、とても楽しい思い出になるに違いない。何より彼らとなら協力し、上手くやれる気がする。
ただ問題はみんな人気者だろうから、他からも誘われている可能性もあるということだ。
そんな中、ちょうど目の前を鮮やかな赤が横切っていき、私は慌てて声を掛ける。
「ねえ、ヴィリー! 一緒に出店やらない?」
「ん? いいぜ! 楽しそうだよな」
あっさりとOKされホッとしていると、近くにいた男子生徒達が「先越されちゃったな」と肩を落とした。どうやらこの後、ヴィリーを誘う予定だったらしい。
本当に私達と組んでいいのか確認したところ、「おう!」と明るい答えが返ってきた。
「で、何をやるつもりなんだ?」
「まだ何も決めてないんだけど、とりあえずメンバーを集めようかなって。とりあえず1時限目が終わったら、吉田とセオドア様、ラインハルトをスカウトしてくる」
「おう! あいつらと一緒ならぜってー楽しいよな」
「そうだね! 絶対絶対楽しい!」
最初はランク試験の加点が欲しいという理由だったけれど、だんだんと純粋に楽しみな気持ちが大きくなっていく。
その後、ソワソワした気持ちで授業を終えた私は、急いで吉田と王子のクラスへと向かった。
「あ、レーネちゃん。スタイナー様なら後ろにいるよ、今日席替えしたんだ」
「そうなんだね、ありがとう!」
私を見つけた吉田クラスの子がすぐに案内してくれ、顔パス状態の私はそのまま後ろのドアへと移動する。
すると一番後ろのドア側というベストポジションに吉田、その前の席に王子の姿があった。
「吉田、セオドア様、おはよう!」
「…………」
「朝から声が大きいなお前は」
「へへ、ありがとう」
「別に褒めてはないぞ」
うるさいと言いたげな顔をした吉田は開いていた本を閉じ、私に身体を向けてくれる。
王子はどうかしたのかという表情を浮かべ、じっとエメラルドの瞳で私を見つめていた。
私の勘違いの可能性が非常に高いものの、最近では王子の考えが少し読み取れるようになってきた気がする。
「どうした、また教科書を燃やされたのか」
「あっ、その節は大変お世話になり……ええと今日は、一緒に学園祭の出店をやらない? って誘いに来たの」
「ああ、そういや今年は自由参加になったらしいな」
どうやら二人はまだ、誰にも誘われていないらしい。とは言え、彼らは既に高ランクなのだ。ランク試験の加点も必要ないし、誘いづらいのかもしれない。
「本音を言うとランク試験の加点がめちゃくちゃ欲しいんですが、みんなと楽しく思い出も作りたい気持ちもたくさんあります! 二人ともどうか助けてください!」
「正直か」
告白時のように右手をまっすぐに出し、頭を下げる。
するとすぐにそっと手が触れ、やっぱり吉田はツンデレだなと顔を上げると、手をとっていたのはまさかの王子で、私は驚きで目を瞬く。
赤ちゃんのようにきゅっと右手の指先を握る王子の破壊力に、心臓が消し飛ぶかと思った。
「セ、セオドア様……! 私と一緒に学園祭、参加していただけるんですか……?」
「…………」
無表情のままこくりと頷く王子に、胸を打たれる。不敬だとは分かっているけれど、可愛く見えてしまう。
王子こそ誰よりも多忙なはず。私の手を掴んだままの彼の手を握り返し、とても嬉しいと何度も伝える。
すると王子の形の良い唇の端がほんの少しだけ上がり、視界の中の女子生徒達が膝から崩れ落ちた。
「……セオドア様が参加するなら仕方ない、見張り役として参加してやろう」
「よ、吉田……! セオドア様は見張らなくても大丈夫だろうけど、すごく嬉しい!」
「お前の見張りだ、バカ」
腕を組み、やれやれと大きな溜め息を吐く吉田も参加してくれるらしい。さらに嬉しくなった私はもう片方の手で吉田の手を取り、ぶんぶんと振った。
「ありがとう! 絶対に楽しいものにしようね!」
「うん」
「フン、せいぜい足は引っ張るなよ」
これでメンバーは私含め、5人になった。あと5人以上は必要だと思うと、なかなか先は長い。
やがて吉田ママにそろそろ予鈴が鳴るから教室に戻り、次の授業の準備をしろと言われた私は、二人にもう一度お礼を言って軽い足取りで教室へ向かった。