点と点が線で繋がってしまった
本日からコミックシーモアさまにて、本作のコミカライズ連載開始です! イラストなど詳細はあとがきにて♪
今まではこうして密着しても、距離感バグだなんて言って笑っていたけれど。血が繋がっていないという事実を知った途端、急に落ち着かなくなってしまう。
「浮気しないでって言ったよね?」
「そ、そもそも、私達の間には浮気も何もないわけで」
「……何で急にそういうこと言うわけ? もしかしてあの男のこと、好きにでもなった?」
「ち、違うよ! とりあえず離れていただきたく……」
「無理」
火に油を注いでしまったようで、より距離が近づく。こんなもの、ほぼゼロ距離のようなものだ。
ユリウスの甘い良い香りがして、くらくらと目眩がしてくる。なんだか急に知らない男の人のように思えてきて、心臓が大きな音を立て、早鐘を打っていく。
「ていうか絶対、兄妹でこんな距離感おかしいよ」
「俺はそういうの気にしないから」
こっちが気にするんだと言いたいのを堪え、完璧すぎるユリウスの顔から視線を逸らし続ける。すると左手を掴まれていた手が離され、頬に触れられた。
「ねえ、レーネ。様子がおかしいけど、なんで? 最近はそんなこと言わなくなってたのに」
「…………」
「俺、なんかした?」
やはり心の準備ができてない今、これまで通り振る舞うなんて不可能すぎる。
ここで正直に「私達が兄妹ではないと知っちゃいました」と伝えるべきなのかどうか、私は頭を抱えた。
──そもそも、ユリウスが私に血が繋がっていないことを隠していた理由が分からないのだ。
何か理由があるだろうし、私がそれを口に出せば、ユリウスにとって不都合なことが起こるに違いない。
「レーネ」
私としては今まで通りの関係でいたいし、ひとまずはこのまま黙っているのが一番いい気がしてきた。
ユリウスだって血が繋がっていなくとも、シスコンを拗らせるくらい私を妹として好いてくれているのだ。
『こんなのおかしいよ、私はユリウスの妹なのに!』
『もう、そういうの面倒になってきた』
『えっ?』
『俺、お前のお兄ちゃんなんかじゃないから』
──とは言え、蛇に噛まれた際の言葉を思い出すと、兄のフリをするのが面倒だという節もあって、やはり色々と気になってしまう。
「え、ええと、その……」
何より、いくらシスコンを拗らせていたって、妹に「俺だけを見ろ」なんて言うものだろうか。
私はヒロインであり、ユリウスは攻略対象で、一番一緒の時間を過ごしていたのだ。万が一、いや億が一にも恋愛感情的なものが多少芽生えていてもおかしくない。
悲しいくらいに恋愛について疎い私は、いくら考えても正解が分からず、頭がパンクしそうになる。
けれど、いつまでも黙っていられるような雰囲気ではなさそうで、なんとか口を開く。
「ユ、ユリウスって私のこと、好きなの?」
その結果、口から出たのはそんな問いで。あまりにもストレートすぎるだろうと、愚かな私は頭を抱えた。本当に間違いすぎている。
やっぱり今のはナシで! と言おうと慌てて顔を上げれば、見たことがないくらい動揺したような様子のユリウスと視線が絡んだ。
いつも余裕たっぷりの彼らしくない姿に、こちらまで戸惑いを隠せなくなる。てっきり笑い飛ばされると思っていたのに、どうしてそんな顔をするのだろう。
「……俺、は」
そこまで言いかけて、ユリウスは再び口を噤む。
「…………」
「…………」
しばらく何とも言えない沈黙が流れた後、ユリウスは小さく息を吐き、いつも通りの笑みを浮かべた。
「ごめんね、レーネ」
「えっ?」
「可愛い妹をとられると思って、感情的になっちゃったみたいだ。俺らしくなかったよね」
「そ、そうなんだ……」
その言葉に、心底ほっとしてしまう。ユリウスは、私をただの妹として可愛がってくれているのだ。
こんなハイスペックなイケメンが、見た目は美少女といえど、中身が残念極まりない私を好きになるわけがないというのに。恥ずかしすぎる勘違いをしてしまった。
『ユリウスって女の子、あんまり好きじゃないの?』
『恋愛感情に振り回されるような子は好きじゃないかな。なりふり構わない姿とか見ると、吐き気がする』
『レーネは冷たいね。そういうところが良いんだけど』
やはりユリウスは、自身に恋愛感情を向けない「妹」としての私が気に入っているのかもしれない。
歪な家庭で育ち、女性関係のトラブルに巻き込まれ続けたユリウスは、恋愛感情を向けられることに対し嫌悪感を抱いているのだろう。
『俺、この家をいずれ乗っ取るつもりだから』
そしてあの父に対しても、良い感情を抱いていないのは明らかだった。母親の存在は聞いたことがないし、きっと今のユリウスに心を開けるような家族はいない。
まだ17歳なのだ、孤独を感じるのは当然で。恋情ではない愛情を向けてくれる、自分をちゃんと見てくれる存在を──家族を求めているのかもしれない。
記憶を失い、血が繋がっていると思い込んでいる私なら、その条件が満たせる。そこまで思い当たった瞬間、点と点が繋がったような感覚がした。
『何があっても、俺のことを嫌いにならないでね』
そんな中で、悲しませてしまったことを思うと胸が痛んだ。私だって、兄としてユリウスが好きなのだから。
そして全てを黙ったまま今まで通り過ごし、ユリウスを大切にするべきだという結論に至った。
「ユリウス、色々ごめんね。もう、こんなことはしないし、ユリウスの側にいるから!」
「……本当に?」
「うん。私達はずっと仲良し兄妹だよ!」
そう言った途端、ぎゅっと抱きしめられた。「ありがとう」と呟いたユリウスはいつも通りだけれど、やはり私の方はそうはいかない。
それでもそのうち、この妙なドキドキにも慣れ、いつも通りに戻れるはずだと自身に言い聞かせた。
「……俺って、意気地のない人間だったみたいだ」
「どういう意味?」
「こっちの話」
私の肩に顔を埋めたユリウスは、珍しくへこんだような様子を見せている。理由を尋ねたところ私のせいではないらしく、ほっとする。
とにかく私さえちゃんとすれば、きっと今まで通りの日々に戻れるはず、絶対に大丈夫。
そう、思っていたのに。
「──はあ、何度も同じことを言わせないでください。ですから、私とお姉様、卒業時に成績の良かった方がお兄様と結婚することになっているんです」
「…………な、なんて?」
私は次々と新事実を知り、混乱を極めることになる。