前向きに進んだ末、大激突
無事に……とは言い難いものの、メラニーちゃんとベンくんの代わりに授業を受け終えた私と吉田は、事前に約束していた通り、放課後カフェテラスでセシルとディランと合流した。
「みんな、改めて今日はありがとう。なんとか目的は果たせて本当によかった」
まだこの世界についてアンナさんに聞きたいことは沢山あるけれど、今後は手紙で何でも聞いてほしいと言ってもらえたことで、かなり肩の力が抜けた気がする。
何より攻略対象とバッドエンド条件を聞けたことは、無知すぎる私にとっては大きな成果だろう。
「お前ら、この後はどうする予定なんだ?」
「ひとまず別行動をしてる友達と合流して、明日中には三人で王都に戻るかな」
「おいレーネ、俺とのデートは?」
「あっ、そうだった」
約束は約束だし、ディランにも協力してもらったのだ。私でよければ遊ぼうと頷けば、ディランは「決まりな」と白い歯をみせた。
ディランはエレパレスの街を案内してくれるようで、初めての街に胸が弾んでしまう。
セシルは思い切り眉を寄せていたけれど、やがて「仕方ねえな」と息を吐いた。
「じゃ、俺は吉田と遊ぶわ」
「何故そうなる」
「ほら、さっき話した場所に連れてってやるからさ」
「……いいだろう」
よく分からないけれどセシルと吉田は意気投合したようで、吉田もエレパレスを楽しめるのなら良かった。
私は吉田に向き直ると、温かな手を両手で包んだ。
「正直、私だけ世紀末かな? みたいな話を聞いても落ち着いていられたのは、吉田が近くにいてくれてるって安心感がずっとあったからだと思うんだ」
貴重な秋休みに何故か一人で他校の授業を受けさせるという、とんでもなく訳の分からない目に遭わせてしまったというのに、吉田はずっと優しかった。
「いつもありがとう! 絶対に恩返しさせてね」
「そんなものは必要ないと言っているだろう。見返りを求めてお前と一緒にいる訳じゃない」
「よ、吉田……! 私やっぱり吉田ルートを目指すよ」
「何の話だ」
嬉しくなって飛びつくと、それはもう大きな溜め息を吐かれてしまったけれど、好きだ。
この世界でできた大切なものを絶対に失いたくないと思った私は、改めてしっかり生き抜くことを誓う。
「レーネ、そいつに何かされたら憲兵団に駆け込めよ」
「本当に酷いよな。慰めて」
「触るな」
泣き真似をして私に抱きつくディランを蹴り飛ばすと、セシルは吉田と共に馬車に乗り込んだ。
どうやら二人は「格好いい乗り物」に乗りに行くらしい。夏休みに吉田が嬉しそうに乗っていたトラウマレベルの激ダサボートを思い出しつつ、笑顔で見送る。
やがて馬車が見えなくなると、ディランは「行くか」と私の手を取った。そのあまりの自然さからも、よほど女性慣れしていることが窺える。
「どこに行きたい?」
「定番すぎる感じの観光スポットでお願いします」
「はは、了解」
とにかく思いっきり遊んで憂鬱な気分を吹き飛ばそうと決め、私はディランに手を引かれ、パーフェクト学園を後にした。
◇◇◇
「……どうしよう、すごく楽しい」
「お前、おもしれー女すぎて俺も想像以上に楽しいわ」
ユリウスもそうだけれど、やはりモテる男性というのは気遣いが細やかで、想像していた以上に私はエレパレス観光を楽しんでしまっていた。
観光スポットの中でも女性が好きそうな所を選んでくれているようで、本当にデートという感じだ。何よりディランのコミュ力が高すぎて、初対面とは思えないくらいに自然に過ごせてしまった。
食べ物も美味しいものばかりで、街の人々もみんな温かく、ぜひまたゆっくり来たいと思った。
「わあ、綺麗……! こんなに広いんだ!」
そしてあっという間に日は暮れ、私達は本日最後の観光スポットである、エレパレスで一番高い建物だという塔へやって来ていた。
夕焼け色に染まる街並みが一望でき、あまりの美しさに感嘆の溜め息が漏れる。私の悩みなんてちっぽけに思えるほどの景色に、元気が湧いてくるような気がした。
ベンチに並んで座り、ディランを見上げる。金色の瞳も茜色に染まっていて、まるで宝石のようだと思わず見惚れてしまう。
「ねえ、どうして私を誘ったの?」
「最初に言っただろ、好みだって」
「またまた」
パーフェクト学園にも、アンナさんを含めたくさんの美女がいた。私を誘った理由はきっと、それだけではないはず。そう思っていたのだけれど。
「いや、普通に見た目がすげえタイプだった」
「お、おう……」
「何だよその反応」
こうして口説かれることに慣れていないせいで、動揺する私を見てディランは可笑しそうに笑う。
とは言え、レーネも正統派ヒロインであり、美少女なのだ。全くもって不思議ではない。
「俺、卒業までに嫁を見つけないといけねーんだよな」
「ええっ」
「だからビビっとくる相手が見つかるまで、好みの女は手当たり次第声掛けてる」
「な、なるほど……」
「レーネは結構ビビっと来てるから困る」
再び可笑しそうに笑うディランはなんと、ここから遠く離れた国の第四王子らしい。
今までの不敬すぎる態度を謝れば、そういうのは苦手だからやめて欲しいとのことだった。
「なんか悩んでるみてえだけど、色々やんなったら俺の国に来いよ。ハーレムで自由に暮らさせてやる」
「リ、リアルハーレム……! ありがとう」
きっと、ディランなりに元気付けてくれているのだろう。一緒に過ごした時間は短いし口は悪いけれど、彼がとても優しい人だということにも気が付いていた。
「でも本当に元気出た、ありがとう」
「いーえ。結婚する?」
「する気ないくせに」
これからのこと、ユリウスのことを忘れて思い切り遊んで、頭の中がスッキリした気がする。
とりあえず明日王都に帰ったら、ウェインライト家についてしっかり調べてみよう。ユリウスが屋敷に帰ってくるまで、まだ時間はあるのだ。
「よし、頑張ろう」
前向きに明日からまた頑張ろうと、顔を上げる。そして改めてディランにお礼を言い、そのまま手を引かれ、帰ろうとした時だった。
階段を上がってくる数人分の足音が聞こえてきて、団体さんが上がってきた後に降りようと、足を止める。
「──えっ?」
やがて屋上へ足を踏み入れた人物の顔を見た瞬間、私は自身の目を疑った。
だってまさか、こんなところで会うなんて奇跡みたいで事故のような偶然、あるはずがない。
「……は? レーネ? 何でこんなとこにいんの」
そう呟いたユリウスは繋がれた私とディランの手を見て、不機嫌そうに眉を寄せた。