可愛い子には旅をさせよと言うけれど 2
更新開いてしまってすみません、今日から3日連続更新予定です……!
ヴィリーのくれたお菓子を食べながら、三人仲良く馬車に揺られる。こうして友達と遠出するのは初めてで、遠足気分の私はついつい胸が弾んでしまう。
リドル侯爵領に行った時には保護者枠のユリウスや大人なアーノルドさんも一緒だったため、また違う感じがあったのだ。
「そう言えば吉田もヴィリーも、旅行に行くって伝えてご両親は大丈夫だった?」
「俺は余裕だったぜ。女子と旅行とか楽しそうだな、羨ましいって父様が言って母様にぶん殴られてたけど」
ヴィリーのご両親という感じがして、思わず笑ってしまう。ヴィリーの実家であるマクラウド男爵領は自然溢れる場所らしく、今度遊びに来いよと言ってくれた。
「吉田のところは?」
「男女で旅行に行くと知ったアレクシアが三日ほど勝手に寝込んだだけで、両親は楽しんでこいと普通の反応だったな。父はお前と一度会っているし、ヴィリーの兄が騎士団に所属しているのもあるだろう」
うちのシスコン兄に劣らない、ブラコンの吉田姉が心配になる。そしてヴィリーのお兄様は、吉田父が団長を務める騎士団に所属しているらしい。
「ヴィリーも騎士とか似合いそうだね」
「俺は剣で戦うの、あんまり好きじゃないんだよな。こう、拳で行きたい派というか」
「ちょっと分かる」
「それにしても、お前の兄がよく許可したな」
「言ってないからね。お忍び旅行だもん」
ユリウスがクラスメート達と旅行に行っている隙に抜け出したと話せば、二人は納得した様子だった。
「お前の兄ちゃん、どこに旅行に行ってんだ?」
「あれ、そういえば聞いてなかったかも」
すっかり忘れていたけれど、行き先を知らない方がお土産が楽しみになりそうだと気にしないことにする。
そうしているうちに王都の街中に着き、私達は馬車を降りてゲートのある建物へと向かう。
ヴィリーは帰省のたびに使っているようで、慣れたように豪華な建物に入っていく姿はとても頼もしい。吉田も王子や吉田父との旅行はいつもゲートを使っているようで、ソワソワしているのは私だけのようだった。
「三名様ですね。順番にお通りください」
「わあ……! すごい!」
やがて案内された先にあったのは、金色の大きな枠のようなものに囲まれた空間だった。枠の中の空気は虹色に波打っていて、向こう側は一切見えない。
魔法陣と聞いていたけれど、どちらかと言うとワープホールといった感じだ。これを通り抜けた先はもう、エレパレスらしい。
ファンタジーすぎてつい興奮してしまう私を見て、案内係の美しいお姉さんはくすりと笑った。
「ふふ、可愛いらしいですね。今日は学生さんが多いようですが、エレパレスで何かあるんですか?」
「秋休みだし、皆さん旅行とか?」
「ああ、なるほど。それにしても、最近の学生さんは美男美女ばかりですねえ」
目の保養になるわ、とお姉さんは両手を合わせ、うっとりと頬に当てている。お姉さんこそ相当モテそうだ。
私達以外にも今日は学生の旅行が多いらしい。とは言え、私の場合は旅行と言いつつも今後の人生がかかった大事な突撃なのだ。あらためて気合を入れ直す。
「行くぞ。放課後まであまり時間がないんだろう」
「うん! そうだね、行こう!」
「いってらっしゃいませ。良い旅を」
お姉さんに手を振りかえし、私達はゲートの中へと足を踏み入れた。
◇◇◇
「こ、ここがパーフェクト学園……!」
そしてそれから一時間後、私達はエレパレスの王都にあるパーフェクト学園へとやって来ていた。
白を基調としたファンタジーなお城のような造りで、なんだかテーマパークにありそうだという感想を抱く。
まだ放課後になってはいないようで、ほっとした。このまま校門前で、アンナさんの出待ちをする予定だ。
「ここでアンナって奴を待って、お前はそのまま話をするんだよな?」
「うん。ごめんね、付き合わせて。二人は近くにあるお店とかで待っててもらってもいいから」
「そいつを見つけたら、吉田とその辺観光してるわ」
「二人とも、本当に本当にありがとう!」
一人で他校に行くのは結構ドキドキだったため、二人がここまでついてきてくれて心強かった。
そんな中、校舎を眺めていた吉田が口を開く。
「アンナというのはどんな見た目なんだ」
「それが一切知らなくてですね」
「……聞き間違いか? 知らないと聞こえたんだが」
「あっ、ものすごい美女だと思う」
「…………」
そう告げたところ吉田は片手で目元を覆い、深い溜め息を吐いた。セシルからはアンナさんの容姿について、何も聞いていなかったのだ。
あらためて聞いては「こいつ、そんなことを聞いて何をする気だ?」と怪しまれてしまう可能性もあるため、何もできずに今に至る。
「通りがかった人に聞けば、なんとかなるかなって」
我ながらガバガバな作戦だという自覚はあるものの、侯爵令嬢かつ王子がメロメロになるくらいの美女ならば、校内でも有名人に違いない。
「あっ、生徒が出てきた!」
そうしているうちに敷地内に鐘の音が鳴り響き、玄関からは深緑色の制服を着た生徒達が出てくる。
私は慌てて鞄から変装用のサングラス、メモ帳とペンを取り出した。サングラスをかけると「こんなに似合わない奴いるんだな」とヴィリーに言われてしまったけれど、気にしないことにする。
制服はハートフル学園と似たシルエットではあるものの、ローブの模様などは違ってとても可愛らしい。ランク分けのブローチの形も、少しだけ違うようだった。
「あっサングラス落ちてきた、ちょっと吉田持ってて」
レーネが小顔すぎるあまり、先ほど街中で適当に買ったサングラスがずり落ちてきてしまう。吉田にメモ帳とペンを預けた私は、慌てて両手で縁を押さえた。
「俺もあっちで聞いてくる、手分けした方がいいだろ」
「うん、そうだね! ありがとう」
ヴィリーと二手に分かれた後、一番親近感の湧いた桃色のブローチの男子生徒に声をかけてみることにした。
「あの、すみません。アンナさんをご存知ですか?」
「えっ? ええと、アンナ・ティペット様ですか」
「そうですそうです! 見た目とかは?」
「桃色の長いウェーブがかった髪と、青い瞳で──…」
なんだかヒロインっぽいと妙に納得しつつ、さらに細かな特徴を聞いていく。
あっメモ! と慌てて振り返れば、ペンとメモ帳を預けていた吉田が代わりにメモを取ってくれているようだった。その優しさと気の利くイケメンぶりに感謝しながら、質問を続ける。
「──あとは、口は小さくて形が良い感じです」
「なるほど、ありがとうございます」
かなり細かく聞いたし、これくらいでいいだろうと思っていると、吉田がメモ帳を差し出してきた。
「こんな感じか」
「…………?!」
なんと吉田は文字でメモをとっていたのではく、似顔絵を描いてくれていたらしい。
食べられるより食べる側といったモンブランの妖怪のような、ちょっとした侮辱罪にあたるレベルの化け物が生まれてしまっている。
私は変な声が漏れそうになったのを堪えて画伯に丁寧にお礼を言うと、メモ帳をそっと鞄にしまう。そして引き留めてしまっていた男子生徒にも頭を下げた。
「突然すみません、ありがとうございました。伺ったお話をもとに、ここでアンナさんを待ってみます」
「あの、門は四つあるのでアンナ様がこの北門から帰られるとは限らないと思います」
「えっ?」
まさかのまさかで、パーフェクト学園には東西南北に校門が存在しているらしい。
ハートフル学園は正門しか出入りできないため、完全にそんな可能性など頭になかったことを悔いた。
出オチにも程がある。このままではただ化け物の絵を手に入れただけだと頭を抱えていると、ヴィリーが二人の男女を連れてこちらへとやって来るのが見えた。