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兄妹 3

書籍化に伴い、タイトルを変更しました!


 

 翌朝、ユリウスの様子を見に行ったアーノルドさんは、体調に問題はなさそうだと教えてくれた。


 日頃早起きの兄は、まだすやすやと眠っているようで。私はテレーゼとアーノルドさんと共に朝食をとった後、広間にて落ち着かない時間を過ごしている。


 私はというと、ユリウスの表情や言葉が頭から離れなかったせいで、昨晩はあまり眠れなかった。


「……おはよ」

「あ、起きたんだ。おはよう、具合はどう?」


 メイドが入れてくれた温かいお茶を飲み、ほっと一息吐いていたところ、広間の扉が開いて。そこにはまだ少し眠そうな、気怠げな表情を浮かべたユリウスの姿があった。


 くしゃりと前髪をかき上げ、アーノルドさんの質問に対して「微妙」と答えた兄は、私へと視線を向けた。そして目が合った瞬間、再び一気に昨日の記憶が蘇ってくる。


 そわそわしてしまった私は視線を逸らし俯いたけれど、兄はこちらへとやってきて、当然のように隣に腰を下ろした。


「おはよ、レーネちゃん」

「…………おはょぅ」

「声ひっくり返ってるけど大丈夫?」


 至近距離で顔を覗き込まれ、私は反射的に飛び跳ねるようにユリウスから距離を取った。


 ──昨日のことは全てあの蛇の魔物のせいであり、そこにはユリウスの意思も気持ちも関係ない。


 何よりユリウスが血の繋がった兄だと分かっているのに、悲しいくらいに男性経験がない私は、戸惑いや動揺、そして恥ずかしさを隠せずにいる。本当に申し訳ない。


 明らかに様子のおかしい私を見て、兄は眉尻を下げた。


「俺さ、蛇に噛まれた直後から、記憶が一切ないんだよね。そんなにまずいことしちゃった?」

「…………ええと」


 仕方のないこととは言え、正直結構まずいことをしていたように思う。けれど、首の噛み跡は治癒魔法で治してもらったし、私さえ気にしなければ何の問題もない。


 そもそも、兄も被害者なのだ。しかも私が連れてきたらしい魔物のせいでもある。気を遣わせないよう詳細は伏せておき、なんとか普通の態度でいよう。そう決意した時だった。


「ユリウス、レーネちゃんを押し倒して首筋に何度も噛み付いてたんだよ。あの魔物の毒、すごい効果だよね」

「は」


 にこにこといつもの笑顔でそう言ってのけたアーノルドさんに対し、ユリウスは驚いたようにアイスブルーの瞳を見開いた。本当に綺麗さっぱり覚えていないらしい。


「それ、本気で言ってる?」

「そうだよね、レーネちゃん」

「……ハイ」


 こくりと頷けば、珍しくユリウスは戸惑ったような表情を見せた。流石の兄と言えど妹相手にそんなことをしたとなれば、気まずさを感じるのも当然だろう。

 

 ちなみに「唇に噛み付かないだけ、感謝して欲しい」「お兄ちゃんなんかじゃない」という発言は皆には黙ってある。


 黙っていたというよりも、センシティブすぎて口に出せなかった。これは私が一人で墓場まで持っていくべきだろう。


「ごめんね。……痛かった?」


 ユリウスは少し離れた場所から、そう声を掛けてきた。彼に気を遣われるというのは、なんだか落ち着かない。


 私は首をぶんぶんと左右に振ると、口を開いた。


「ううん、大丈夫。むしろ私が蛇を連れてきちゃったみたいだし、ごめんね。体調はまだ悪い?」

「ちょっとね。倦怠感があるくらいかな」


 その後はユリウスの体調面を考えて屋敷内でのんびりと過ごし、翌日、私達は予定通り王都へと戻ったのだった。




◇◇◇




「……って事があったんだけど、どう思う? よっちゃん」

「雑なニックネームを付けるな」


 あっという間に楽しい時間は過ぎ、夏休みもまもなく終わりを迎える今日、私は王城の庭園の一角にあるベンチに吉田と共に腰掛け、お喋りをしていた。


 そう、今日はセオドア王子が招いてくれた王城でのガーデンパーティーの日なのだ。


 とても天気が良くぽかぽかとした日差しと、吉田の妙な安定感・安心感のお蔭で、今にも眠ってしまいそうなくらいに私は心地よい平和な時間を過ごしていた。


 今日のパーティーは大規模なもので、テレーゼ達は貴族らしく挨拶回りなどをしている。よく分からない私はとりあえず粗相のないよう適当に笑顔を振りまき、避難してきた。


 吉田も本来ならば忙しい立場なのだろうけれど、「こういう場は苦手なんだ」と言い、私と一緒にいてくれている。間違いなく、私を気遣ってのことだろう。好きだ。

 

「そもそもお前がお前の兄に襲われた話に対して、俺にどんなコメントを求めているんだ」

「女の子っていうのはね、答えが欲しい訳じゃないの。聞いて欲しいだけというか、共感して欲しいというか……いやごめん、やっぱり普通に今後どうすべきか答えが欲しい」

「知るか」


 そして私は、先日の蛇事件について吉田に相談していた。私はもう一晩寝た後は妙な気まずさも感じなくなっていたのだけれど、あれ以来、妙にユリウスが余所余所しいのだ。


「俺が姉に襲われたという話をしたら、お前も困るだろう」

「えっ……むしろちょっと助かるかもしれない……」

「今まで世話になったな」

「ごめんなさい待ってください」


 ユリウスといつも通りの関係に戻りたいものの、「避けてる?」と聞いても「そんなことないよ」という答えが返ってくるだけで、どうしたら良いのか分からなかった。



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【公爵様、悪妻の私はもう放っておいてください】

新連載もよろしくお願いします!

― 新着の感想 ―
[気になる点] せめてマックスにしてあげて下さい…wwヤバい(笑)
[一言] そんな話をよっちゃんにされても困るわね〜ww
[良い点] めちゃめちゃ待ってました、、、!更新嬉しい! [一言] 琴子さんの書籍もコミックも全部持ってます! このお話もすごくすごく好きです!!
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