二度目の学園祭 8
それからもアレクシアさんの指導のもと、猛特訓を続けた結果、自分でも見違えたと思うくらいに良くなっていた。
そして今日は衣装が届き、早速着てみることにした。
「わあ、本格的! それにかわいい!」
私は記憶を頼りにさっとデザインを描いて依頼したけれど、想像の一億倍クオリティの高い、ジュリエットらしい素晴らしいドレスや帽子になっている。
着替えてゆるく三つ編みをして鏡を覗いたところ、しっかりジュリエットになっていて我ながら感動してしまった。本番は化粧をしたり小物を揃えたりすれば、より良くなるだろう。
「これで私もジュリエット〜ふふん〜♪」
やはり形から入ると気分も上がるもので、練習もより頑張れそうだ。
浮かれながら更衣室を出て体育館に戻った私は、ドアの向こうにずらりと並んでいる友人達を見た瞬間、手に持っていた制服を床に落としてしまった。
「えっ……」
衣装を着て立っているだけでお金を払いたくなるような、美麗な集団が爆誕していたからだ。美形というのは何を着ても似合ってしまうのだと、思い知らされる。
「レーネ、よく似合ってるよ。かわいい」
「姉さんすっごくかわいい! お姫様みたいだね」
「ありがとう……でも、私はもうみんながもう怖いよ……」
これならグッズも間違いなく売れるだろうし、ユリウスが肩代わりしてくれた高価な衣装代もあっさり回収できてしまうだろう。むしろ贅沢な打ち上げ代まで捻出できそうだ。
ユリウスやラインハルト、ヴィリーやルカといった通常の貴族衣装の装いも最高だけれど、女装・男装組の破壊力がまたとんでもない。
「テレーゼ、かっこよすぎる……!」
「ありがとう。レーネも素敵よ」
ロミオの親友役のテレーゼは長い銀髪を一つに束ねており、パンツ姿もよく似合っている。
「ミ、ミレーヌ様……!?」
「どうかしら?」
「うっかりロミオから乗り換えてしまいそうです」
領主役のミレーヌ様は「長い髪をポニーテールにするとテレーゼと被る」と気にしてくれて、短い髪のウィッグを被っており、もうかっこいいなんてものではなかった。
体育館の外に出ると、あまりの美形っぷりに女子生徒達がばったばったと倒れるに違いない。
「良かった。これならレーネのことも口説けるかしら」
「け、結婚してください……」
腰を抱き寄せられて顎クイまでしていただいた私は、首が取れそうなくらいに頷いてしまう。
すると後ろから「おい」というユリウスの低い声が聞こえてきて、視界がブレた。
「お前、レーネに変なことしないでくれるかな」
「いいじゃない、同性なんだから。本当に余裕がないのね」
「お前はそういうの、関係ないから嫌なんだよ」
ユリウスもミレーヌ様は本気で危険だと認識しているようで、眉を顰めている。
「普段からミレーヌを崇拝してる女子は多いからね。本気の告白もよくされてるし」
「ふふ、困っちゃうわ」
アーノルドさんの言葉にも、納得してしまう。
正直、ミレーヌ様なら性別なんて関係ないという層がわんさかいてもおかしくはない。私もユリウスがいなければ、かなり危なかっただろう。
「って、アーノルドさん……!? どこの美女かと……!」
「女装した俺、綺麗だよね」
ミレーヌ様に夢中になっていて、アーノルドさんの声だけに反応していたため、振り返って初めてその姿を見た私は腰を抜かしそうになった。
アーノルドさんは唯一の女装をする役だったけれど、一瞬誰か分からなかったくらい大人の美しい女性に見えたからだ。
「時間があったから、私が軽く化粧をしてみたの。顔だけはいいせいか、やっぱり映えるわね」
さらっと辛辣な発言をするミレーヌ様のお力もあり、妖艶な美女という言葉がぴったりすぎる。
並ぶと私がちんちくりんに見えて、本当にロミオはこんなにも美しい幼馴染がいるのに、私扮するジュリエットを選ぶのかと疑ってしまうレベルだった。
「あなた、良かったらマックスのショック療法に付き合ってくれない?」
ドレスも男性らしい体型を上手くカバーしてくれるデザインで、何も知らない人からすれば、高身長の女性にしか見えないだろう。
結果、今日も指導に来てくれていたアレクシアさんが、とんでもないスカウトをしている。
「まだ諦めていなかったのか、やめろバカ」
「もちろん、俺に任せてください」
「セクハラで訴えますよ」
そして王子の神父姿は筆舌し難いほど神聖なオーラがあり、思わず平伏しそうになった。
神の遣いだと言われても、納得できる。
「セオドア様、神々しすぎやしませんか……?」
「…………」
王子はこてんと首を傾げており、自覚はないらしい。
ちなみに王子はとんでもなく演技が上手くて、アレクシアさんも「文句なし」とのことだった。
『ほどほどに愛することです。そんな愛こそが長く続くのですよ』
穏やかで優しくて、時に厳しいロレンス神父を見事に演じており、王子はやはり何でもこなしてしまうのだと感服した。
こんなにも王子の良い声を聞ける機会だってなかなかないし、みんな喜ぶはず。
「レーネちゃん、大道具なんかも準備できてるよ」
「ありがとうございます! 本当にバッチリですね」
イケメン先輩やユッテちゃんのお蔭でセットなども準備万端で、ありがたい。
練習期間はあと少しだし、残りの期間もより良いものにできるよう頑張りたい。
「じゃあ、今日は通しでやってみましょうか」
「はい! よろしくお願いします!」
そして私達は衣装を着て、通し稽古を始めたのだった。
◇◇◇
無事に通し稽古を終えた私は着替えを済ませ、軽い足取りで廊下を歩いていた。
アレクシアさんやみんなのお蔭で、大勢の人に喜んでもらえるものになっている自信がある。最初は不安もあったけれど、今は本番が楽しみだと思えていた。
「あ、今日はルカのリクエストの定食だっけ」
夕食はいつもの食堂に行く予定で、お腹が空いたなと思いながら玄関へ向かう。
「──お姉様」
そんな中、不意に背中越しに声をかけられて足を止める。




