二度目の学園祭 3
あけましておめでとうございます~!
今年もチート兄をよろしくお願いします。
つまり私達が主役なのはもう、決定してしまっている。
「やばい、やばいよ吉田……待って、吉田、吉田ああああん」
「……勘弁してくれ」
恐ろしくてくじを開くことができないまま、吉田に縋り付く。これだけのキラキラ美男美女が集まっている中、私を主役に選んだ神様が恨めしい。
──私が主役というだけでも動揺が止まらないのに、最も恐ろしいのは私がロミオで、吉田がジュリエットになってしまった時だった。
私の男装はオーラのないルカになることは過去、双子ごっこをして遊んだ時に証明済みだ。
観客の女性達を沸かせられるほどのヒーローを演じられるかというと、正直不安でしかない。
「ヨシダ先輩のジュリエット、絶対にやばくない? ゴツいブスって言われてたじゃん」
「ヨシーヌにもヨシーヌの良さが……きっとある……から……」
「姉さん、本当のことを言うのも優しさだよ」
「おい」
そう、何よりも吉田の女装がなんというか──かなり好みを選ぶものであることも、地下労働施設で証明されていた。
このままでは感動の舞台が、コメディ全振りになってしまう。せめて男女そのままであってほしいと心の底から祈りながら、震える手でくじを開く。
「はあっ、はあ……いきます!」
そして開いた自分のくじには「ジュリエット」と書かれていて、安堵で力が抜けた私はそのまま床に膝をついた。吉田もかなり安堵した様子で息を吐き、目元を手で覆っている。
「よ、良かったあ……吉田、ともに頑張ろうね……」
「……ああ、決まった以上は仕方ない」
予想外の配役になってしまったものの、良いものを作りたいという気持ちに変わりはない。
吉田は舞台映えする高身長の美形であることはもちろん、剣の腕も素晴らしいため、アクションシーンもきっと映えるはず。
それにともに苦楽を乗り越えてきた吉田となら、きっと上手くできるという予感がある。
「へえ、レーネがジュリエットだったんだ。相手もヨシダ君なら許せるな」
側へやってきたユリウスは床に座り込んでいた私の手を取り、立ち上がらせてくれた。
やはり吉田への信頼は厚いらしく、吉田は「それはよかったです」と淡々と返事をしている。
「アーノルドだったら、あいつを殺してでも出演を取り消してたから」
本当に相手が吉田で良かったと、心の底から思った。
「うん。ユリウスはなんだったっけ?」
「俺はパリスだって」
「あっ、ジュリエットに求婚する役の……」
大富豪のハイスペ役で、ユリウスにぴったりな気がしてならない。
「でも俺、レーネちゃんに片想いして振られちゃう役なんだ。寂しいな」
パリスはジュリエットに求婚するも、片想いのままという登場人物だった。
ユリウスに片想いされるというポジションは複雑だけれど、なんとか上手くやらなければ。
「姉さん、俺も姉さんに片想いする役だったよ!」
「複雑すぎない?」
どうやらルカは、ジュリエットの従兄弟のティボルト役になったらしい。
原作ではティボルトはロミオの親友であるマキューシオを殺し、ティボルトは仇を取ろうとするロミオに殺されるという役だった。
今回の舞台ではみんな重傷くらいに留めてあるけれど、物語のトリガー的な位置になる。
「俺、吉田くんに片想いされる役なんだね。ドキドキするなあ」
「……光栄です」
「あはは、全然嬉しくなさそうだね」
吉田の顔が死んでいるけれど、本当に大丈夫なのだろうか。アーノルドさんはロミオの初恋相手のロザライン役だそうだ。
女性をたらし込む側のアーノルドさんの女装はあまり想像がつかないけれど、美形であることに変わりはないし、舞台上ではきっと華やかな美女になるに違いない。
ノートに決まったばかりの配役を書き、改めて眺めてみる。
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■配役メモ
・ロミオ(主人公) 吉田
・ジュリエット(ヒロイン) レーネ
・ロレンス神父(二人の手助けをする) 王子
・マキューシオ(ロミオの親友) テレーゼ
・パリス(大富豪 ジュリエットに結婚を申し込む) ユリウス
・ティボルト(ジュリエットに想いを寄せる従兄) ルカ
・エスカラス(領主) ミレーヌ
・乳母(ジュリエットの乳母) ミレーヌ
・キャピュレット(ジュリエットの父) ラインハルト
・モンタギュー(ロミオの父) ヴィリー
・ロザライン(ロミオの初恋相手) アーノルド
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こうして見ると、やはり豪華すぎて期待が高まっていく。
神父役の王子は結構セリフが多いけれど、どんな感じになるのか気になってくる。テレーゼとミレーヌ様の男装も楽しみで仕方ない。
「とにかく配役は決まったし、これからは練習あるのみだね!」
「姉さんのために俺、頑張るよ」
「おう、やるからにはやっぱ優勝したいよな」
ひとまずみんなには自分の役のセリフを頭に入れてくることをお願いし、その後、読み合わせなどからしていくことにした。
学園祭まで、みんなできる限り練習をしてくれると言ってくれて、胸が熱くなる。
去年は週に何回か集まって接客練習をしたり、簡単なお菓子を作ってみたりするだけで、学園祭準備時間はそう長くなかった。
けれど今年は一つの演劇を作るため、十二人全員で協力をしながらたくさんの時間をともに過ごすことになりそうで、ワクワクしてくる。
「頑張ろうね、レーネちゃん。俺もできる限り力になるから」
「うん、ユリウスもありがとう!」
大好きで大切な仲間と、こうして過ごせることが何よりも嬉しい。
──それにユリウスやアーノルドさん、ミレーヌ様と過ごす学園祭は、これが最後になる。
悔いのないよう、最高の学園祭にしたい。
「私も精一杯頑張りつつ、楽しまなきゃ!」
そしてこの日から、私達の演劇「ロミオとジュリエット」への道が幕を開けた。
◇◇◇
「ロミオ! 会いたかったわ!」
「僕もだよ。我慢できず、こうしてやってきてしまった」
「…………」
「…………」
私と吉田はそこまで言った後、笑顔で見つめあったまま、無言で見つめ合った。
放課後、全員で本読みを終えて体育館を貸し切って実際に立って練習を始めてみたけれど、なんというか「これじゃない感」がすごい。
「全然愛し合う者同士に見えねえな」
「でもまだ、これからだから……」
私達の演技を見ていたヴィリーとラインハルトも苦笑いを浮かべており、同じ感想らしい。
ド素人なのだし、最初から上手く行くとは思っていない。けれど先は長いのを実感し、ここからとにかく練習をするしかないと両手を握りしめた。
「今回は見逃してやるが、今後この街の平和を乱した場合は、死罪とする!」
そんな中で聞こえてきたのは、体育館に響く鋭いミレーヌ様の声だった。
服装は私達と同じ制服で、長い髪はひとつにくくってあるだけ。それなのに、もう姿そのものが物語の登場人物に見えてくる。
「ミレーヌ様、かっこよすぎない……?」
ロミオやジュリエットが暮らす地域の領主役であるミレーヌ様は、本当に国ひとつ収めているのではないかというくらいの貫禄がある。思わずひれ伏しそうになったくらいだ。
素人や玄人関係なく、才能やセンスというものはあるらしい。
『ジュリエット様、恋をされたのですね』
ちなみにさっきは一人二役の乳母役としてのミレーヌ様とも練習をしたけれど、ジュリエットへの愛情がよく見える優しい乳母そのもので、感動してしまった。
このままでは、プロと小学生の学芸会のコラボになってしまうため、大変まずい。




