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悪と悪 1



 真っ黒な馬車に揺られながら黒いドレスに身を包んだ私は、ガチガチに緊張していた。


「俺が絶対に守るから大丈夫だよ」

「あ、ありがとう……!」


 そんな私の隣に座るユリウスは私の背中を撫でながら、優しい言葉をかけてくれる。


 ──これから私達は、西のマフィアの本拠地に攻め込むことになっている。


 元々はブラック企業に勤める平凡な一般人だったというのに、マフィアの抗争に参加することになるなんて、誰が想像できるだろうか。


 人生は何が起こるか分からないというけれど、ドラゴンに襲われたり、地下労働施設で働かされたりと、私の場合は分からないの度を超え過ぎている気がしてならない。


 そして私は、最前線で戦うことが義務付けられている。


『けしかけた本人が見ているだけなんて、あまりにも無責任だからね。レーネには俺達と最前線で殺しまくってもらわないと』


 そう言ったブレアさんに対し、私を心配してくれたユリウスは猛反対して一触即発の空気になったものの、ブレアさんの考えも理解できる。


 私が言い出したことなのだから、一人だけ安全な場所で見ているなんて間違っている。


 流石に人を殺すことはできないけれど、レンブラントを倒すためにできる限りのことは全力でするつもりだった。


 ユリウスも黒いスーツを身に纏っており、こんな時だけれど正直似合いすぎていて困っていた。


『言う通りにしないとブレアがうるさいからね。あいつなりの美学があるらしくてさ』


 黒い服装は北の正装らしく、私達も揃えてきている。


「でも、私の服装はちょっとおかしくない? 一人だけ浮きそうで恥ずかしいんだけど」

「あいつの趣味だろうね。レーネを見た他の男の目は俺が潰すから安心して」

「三つ巴の戦いになりそうだから落ち着いて」


 ブレアさんが用意してくれたタイトな黒のドレスは、深いスリットが入っている。


 肌の露出も多くてユリウスも猛反対してくれたものの、ブレアさんが「うちのファミリーは女の子がいないから、こういうの憧れだったんだよね」と言って譲らず、今に至る。


 着てくれなきゃ頑張れないかも、なんて脅しをかけてくるのは本当にずるいと思う。


 防御に関しては魔導具を色々と着けているから問題はないし、もうこれでいくしかない。


「楽しみだなあ、ワクワクしてきちゃった」

「……この人は本当に何なわけ」


 向かいに座っているアーノルドさんとルカも、ユリウス同様に黒いスーツを着ている。


 約束通り加勢を頼んだところ、快諾してくれたアーノルドさんはサングラスをして巨大な銃を持っているせいで、かなりそれらしい雰囲気が出ている。


 絶対にサングラスは不要だし、この抗争を全力で楽しみに来ているに違いない。むしろここまでエンジョイしてくれていると、こちらの緊張も解れてありがたい。


「とにかく姉さんは無理をしないで、自分の身を守ることだけ考えてね」

「了解です! ルカこそ絶対に無理をしないでね」


 ルカの参加も本当は心配だけれど、今回の件の発端の一人として、責任を持って参加したいという強い意志があるようだった。


 ちなみに昨晩ここに至るまでの話をルカにもしたところ、それはもう怒られた。


『本っ当に信じられない、一人でマフィアの本拠地に乗り込むなんてどうかしてるよ。姉さんは普通じゃないと思っていたけど、流石におかしいって』

『で、でもほら、お友達のお父さんもいたし……』

『そんなの関係ないよ! 俺のためだって分かってるけど、もうそんな危険なことはしないで』

『本当にね。どうかしてるよ』


 ユリウスとルカ、二人がかりで怒られ、私はひたすら正座で謝罪をしていた。


 二人は私よりもマフィアの危険性を知っているからこそ、心配してくれていたのだろう。


「でも、レーネちゃんはやっぱりすごいよ。こんなお祭りを企画できるなんて」

「お、お祭り……? でも私がマフィア同士の抗争を引き起こしたって、冷静にやばすぎる」


 流石に学園もののヒロインにあるまじき行動すぎる。マフィアもののゲームのヒロインですら、抗争を起こすどころか止めようとする側だろう。冷や汗が止まらない。


 とはいえ、ルカのためだし、結果的に世の中のためにもなるはずだと自分に言い聞かせた。


「俺はあいつに頼りたくなかったから、時間をかけて消耗戦に持ち込みながら、まずはルカーシュの代わりに東を壊滅させようと思ってたんだよね」


 ユリウスはそのために仲間を集めつつ、既にルカの代わりに倒してくれていたのだという。私達が知れば心配するだろうから、何も言わずにいたらしい。


「でも、長期化すればレーネやルカーシュの負担になるだろうし、これが正解だったよ」


 ユリウスが安全を確保してくれていたとしても、常にマフィアに狙われているという不安がつきまとう中で何ヶ月も過ごすのは、落ち着かないかもしれない。


「……そうだね。姉さん、ありがとう」

「ううん! 今日でケリをつけて、これまで通りの生活に戻ろう」


 みんなに心配をかけてしまい反省はしているものの、後悔はしていなかった。


 

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【公爵様、悪妻の私はもう放っておいてください】

新連載もよろしくお願いします!

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